第16話 嫌味な騎士

 モンテドルフに戻って来ると、何やら村が騒がしくなっていた。

 武装した兵士が屯し、鎧を纏った馬が干草を食べている。


「あ、アルケー様、首尾はーーうおぉっ!? バイコーン!?」


 出迎えた村長のトビーは凶暴なモンスターであるバイコーンに驚く。


「気にしないで。少なくとも三郎が居れば暴れないから。それよりデーモンウェッジは破壊したわ。それと楔を守っていた魔人デュラハンもこの通りよ」


 アルケーは三郎の腰にぶら下がっているデュラハンの兜を指差す。

 デュラハンの兜とバイコーン。その何とも凄まじい光景にトビーは引き攣った笑顔を見せた。


「それよりあの兵士達は何?」

「デーモンウェッジを破壊しに来た王国軍の先遣隊騎士ですよ。先ほど到着されました」


 先遣隊と聞いて確かに人数が少ないと感じた。しかしその騎士達はいずれも、訓練で鍛え上げられた屈強な身体をしている。

 そんな彼等もこちらに気付いたようで、もちろん凶暴なモンスターのバイコーンに警戒し、剣に手を掛けて集まって来た。


「何故、こんな所にバイコーンが!?」

「いやホント気にしないで! どっかのバカが興味本位で捕まえちゃったの!」

「おい誰がバカだ? 首跳ねっぞ」


 そのバカが物騒な事を言う。


「村長。彼等がデーモンウェッジを破壊しに向かったという冒険者か?」


 集まった騎士の中から、一際偉そうな鎧とマントを着用した騎士が現れる。金髪のきりりとした顔立ちの青年だ。


「はい、そうです。デーモンウェッジを破壊して今戻って来られました」


 それを聞いて騎士達がどよめく。たった3人でと驚く者や、せっかく駆け付けたのにと悔しがる者など様々だ。


「静まれ!」


 そんな彼等を青年の騎士は一言で黙らす。


「僕はこの騎士隊の隊長シャルディ・フレーザだ。こんなにも速くデーモンウェッジを破壊してくるなんて、名のある冒険者と見た」

「生憎と私は冒険者じゃないわ。私は旅の魔法士アルケー。この2人は従者の笑亜と三郎よ」


 冒険者という聞き慣れない単語に三郎は小声で笑亜に聞いた。


「冒険者って何だ?」

「モンスターや魔王軍と戦ったり、宝物を探して旅する人達の事です。この世界ではそういう命知らずで腕に覚えがある人達が、一攫千金を夢見て冒険者になるんですよ。因みに私は冒険者登録してます」

「ほ~う」


 自分の知らない職に三郎は関心を示す。


「しかしデーモンウェッジは平原にあったと聞く。たった3人でどうやって戦ったんだ?」


 魔王軍と戦うにはあまりに少ない人数にシャルディは訝しむ。平原なんて戦場は数が多い方が有利な地形なのだ。


「隊長、笑亜と言えば例の冒険者です」


 彼の部下が耳打ちする。

 するとシャルディは合点がいった様に笑亜に目をやった。


「なるほど。確かに君が居れば頷けるな。死神の笑亜君」


 その言葉に笑亜は顔を強張らせる。


「何? その含みのある言い方は?」

「いやなに、彼女はちょっとした有名人でね。魔王討伐を掲げる冒険者としてよくその名を聞くんだ。どれほど強力な魔人相手でも彼女必ず生きて帰って来るとね」

「ちょっとそれ完全に嫌味じゃない。私の仲間に文句でもあるの?」


 その言葉で何となく意味が察せられた。

 おそらく彼女が持っている昔の仲間達のドックタグ、その持ち主達の事だ。

 それをこんなあからさまに言うなんて、この騎士、誠実そうな顔をして性格が悪い。

 アルケーは厳しい目をやった。


「失礼。気を悪くさせてしまったようだ。謝罪する」


 しかしシャルディはあっさりと頭を下げた。


「我々は周辺の警戒も兼ねて5日間ほど、ここに滞在する。短い間だが仲良くしてくれ」


 そう言って部下達を引き連れて戻って行く。

 仲良くなんて言われても、今の言動で彼の好感度はマイナススタートだ。

 アルケーは笑亜の様子を見る。やはりあの騎士に言われた事を気にしているのか暗い表情をしている。


「笑亜、大丈夫? あんなの気にしちゃダメよ」

「アルケー様、ありがとうございます。私……私……」


 笑亜は声を震わせて顔を上げた。


「今すっごくあの人をぶん殴りたいです」

「うん大丈夫そうで良かった」


 思ってた以上に彼女のメンタルは強かった。

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