第3章 横暴な騎士達
第15話 この戦いが終わったら
見事デーモンウェッジを破壊した3人は、勝利の余韻に浸りながらのんびりと平原を行く。
アルケーの魔法でほとんどのモンスターが片付いた事もあって、全員まだまだ余裕といった感じだ。
そんな中、魔人を討ち取って上機嫌な三郎が言った。
「しかし魔王軍と言っても大したこと無かったな」
「さっさと逃げようとしてたのはどこの誰よ?」
「俺だ」
そう言ってアルケーの小言も気にせず上機嫌に笑う。よっぽどデュラハンの首を取った事が嬉しかったのだろう。そのデュラハンの首、というか兜は彼の腰に吊るされている。
「いやはやお前さんのあれ凄えな。あれがありゃどんな大軍が来ても大丈夫だろ?」
「確かに私もビックリしました。さすがアルケー様です」
「ま、まあ私女神ですから! モンスターが何匹来ようと余裕よ! カラミティも直ぐに倒してやるわ!」
2人に褒めちぎられアルケーも上機嫌に笑う。
それだけ今回の勝利は、魔王討伐の弾みをつけるのに大きなものとなったのだ。
「そうか! じゃあこの戦が終わったらーー」
「「ああぁぁぁぁー!!」」
そんな大勝利ムードの中で三郎が余計な事を言った。
アルケーと笑亜は最後まで言わせまいと大声を張り上げる。
三郎は理由が分からず目を丸くした。
「急に何だよ?」
「バッカ! 『この戦いが終わったら〜』なんて台詞は死亡フラグって言うのよ!」
「死亡フラグ? 何だそりゃ?」
「その発言や行動を取ったら死ぬって意味です。今師匠が言った台詞はその代表的なもので、物語だと、次の戦いでほぼほぼ死んでしまいます」
そういうお約束事など分かる筈がなさそうな鎌倉時代の武士に説明してやる。
だが三郎はそんなの大した事無さそうに笑って見せた。
「なあんだ死ぬくらい。坂東武者が死を恐れてたまるかよ!」
強がりか、はたまた死亡フラグを信じていないのか三郎は全く動じていない。
そんな時、彼の視界に面白い物が入った。
双角を有した黒馬である。
「あれはユラハンが乗ってた馬! ちょうど良い、捕まえて俺の馬にしてやる!」
「無理よ。バイコーンは人を食べる凶暴なモンスターよ。人間が手懐けられる筈ないわ」
「ははは! 人食い馬上等! 坂東武者にはそれくらいがちょうどいい!」
「いや馬じゃないから。モンスターだから」
三郎は下馬すると良いものを見付けた子供の様にバイコーンに駆けて行く。
その無鉄砲な行動にアルケーは唖然とする。
「ねえ、坂東武者ってバカなの?」
「そもそもばんどうって何ですか?」
「知らなかったの!?」
坂東とは東海道の足柄峠、中山道の碓氷峠より東の土地、すなわち今の関東地方の事である。
2人の忠告など聞かず三郎はずんずんとバイコーンに近寄って行った。
「キイィィ!」
その時、バイコーンは馬より高く嘶き、双角の間に稲妻が走った。刹那、空気を裂く音と共に雷撃が放たれ、三郎は短い悲鳴を上げて倒れた。
「「死んだー!!」」
哀れ三郎。
死亡フラグを立てて死んでしまうとは情けない。
「何しやがんだコノヤロー!!」
と思いきや三郎は咆哮を上げてバイコーンへ突撃。拳を見舞った後、角を持ってねじ伏せてヘッドロックを掛けた。
「死ぬかと思ったじゃねえかバカ馬!! 次やったら捌いて食っちまうからな!!」
三郎はその無茶苦茶な力でバイコーンの首を締め上げる。
もはやどうやったって抜け出せないバイコーンは、命乞いをする様に、弱々しくヒーンヒーンと泣いた。
「さっき死なんて怖くねえって言ってなかった?」
「死に方ってのがあんだろうが。馬に殺されたなんて武士の死に方じゃねえ!」
「いやバイコーンはモンスターなんですけど……。それも結構上級の……」
口から泡を吹き出して来た所で三郎は漸くバイコーンを解放してやる。
素早く立ち上がるが足元がふらついている。
三郎はせっかくの戦利品が逃げないように、その立派な角を鷲掴みにし、ルンルン気分で持って帰った。
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