第11話 三郎の待った
村人を救ったアルケーはまるで神様のような扱いを受けていた。
彼女が要求した宿は空家を一軒丸々用意され、村長が用意したパンとは別に、村人達が野菜や果物をこぞって持って来てくれた。それだけで10日は食べるのに困らないという量だ。
外では村人達がモンスターに壊された家の片付けや修理をしている。
トンカチのリズミカルな音を聞きながら、アルケーは机に周辺の地図を広げ、笑亜から魔王討伐の状況を聞いていた。
話を聞いて行く内に、どうも彼女が天使から聞いていた情報と、実際の状況にかなりの差があると分かった。
「つまり魔王軍は今、人間の国には侵攻出来ないのね?」
「はい。魔王との戦いで、アルケア王国の聖女様が自らを犠牲にして王国全土に結界を張られたんです。そのお陰で魔王軍は長くアルケアの土地に留まる事が出来ず、今は国境付近を散発的にちょっかい掛けてくるだけです」
笑亜曰く、魔王は滅多に前線に姿を見せず、王国への侵攻は専ら力を与えられた魔人達が行っているという。
そして結界はそんな魔王の力に反応し弱体化させる効果を持つ。それも一定範囲にその数が多ければ多いほど効果が強力になると言う代物だ。故に魔王軍は大規模な侵攻作戦が出来なくなっているらしい。
ここまで聞くと事態は落ち着いている様に思えるが、そううまい話では無いようだ。
「ただ最近、あちらも新兵器を発明しまして、それがデーモンウェッジという魔法楔です。これが打たれた地域は結界が無力化されてしまいます」
「そのデーモンウェッジがこの先の平原に設置されたのね?」
「はい。今頃、王国軍がこちらに向かっているでしょうが、彼らが来る頃には魔王軍の増援も到着してるかもしれません。そうなったらこの村は王国軍と魔王軍の戦争に巻き込まれてしまいます」
元々、この地域は魔王軍のちょっかいが多い地域だった。
笑亜はこのモンテドルフを拠点にそれらと戦っていたらしい。
そして魔王軍の斥候がデーモンウェッジを設置しようとしている、という情報を得た矢先にモンスターの襲撃を受けたようだ。
「そのデーモン何とかを守る敵の数は?」
それまで静かに話を聞いていた三郎は問う。
鎧を脱いだ彼は、色褪せた青い直垂姿で村人から貰ったリンゴをボリボリかじっている。
「分かりません。ですがそれほど多くはないと思います」
笑亜は懐から銀貨と銅貨を取出し事情を説明する。
「アルケアの結界は一定範囲に魔人の数が多いほど、効果が強力になります。だから魔王軍はいつも1体のボスとそれに使役されたモンスターで襲って来ます。その数は多くて50体くらいです」
「さっき20体くらい倒したから、多くて残り30体と言った所かしら?」
「はい。1人10体、倒せない数ではありません」
笑亜は「出来る」と言った力強い目を向ける。さっきの彼女の戦いぶりを見れば、その自信も頷けた。だがーー、
「いや15体だ。お前さんは来るな」
あっさりと却下される。
「三郎、アンタまだそんな事言ってんの?」
「女は荒事に首を突っ込むもんじゃねえんだよ」
「私が女だからと言うなら間違いですよ」
「あん? まさかお前さん男なのか?」
「「違う(います)」」
三郎は中々笑亜を認めようとしない。これは2人にとっては迷惑な事だった。
これまで勇者として戦って来た笑亜からしたら何を今更な話だし、彼女を勇者にしたアルケーにしてみれば今の所、魔王に対する最大戦力なのだ。それを腐らせる訳には行かない。
2人は何とか説得しようと試みる。
「朝比奈さん。こちらの世界では女性でも騎士や冒険者となって戦う人が大勢いらっしゃいます。それに私にはアルケー様から授かった力がある。十分に戦えます。何ならモンスター30体くらい私1人でも倒せちゃうんですから」
「そうよ! アンタなんかよりずっと強いんだから!」
その何気なく言ったアルケーの一言が、三郎のプライドに火を着けた。
「ようし! それなら相撲で勝負しようじゃねえか!」
「何でよ!?」
「こんな小娘より弱いなんて言われて黙ってられるか! おい、表出ろ!」
「めんどくさっ! 笑亜、無視よ無ーー」
「分かりました。やります!」
「笑亜ぁ!?」
挑発された笑亜はこれを受けて立つ。その目には絶対に退かないという強い光があった。
「もし相撲に勝ったら、私を認めてくれますか?」
「ああそうだな。俺に勝てたらな」
「そうですか。なら私も本気を出します!」
笑亜は力強く三郎を見て言った。
自分が女だから力を認めないと言うのなら、彼に打ち勝って力を示せば良いだけの事。
「ちょっと三郎、笑亜! 2人共止めなさいよ。こんな時に」
面倒な事になったとアルケーが止めようとするが、
「アルケー様止めないで下さい! 女だからとか、私の方が弱いとか言われて、引き下がってられません!」
「アンタもそっち側の人間か!?」
素直そうに見えて笑亜はかなりの頑固者のようだ。
ただ彼女の言い分にも一理ある。何せ三郎は女神である自分に対してあまりにも無礼だ。きっと神域で勝った事で調子に乗っているのだろう。
(あの野蛮人をぎゃふんと言わせるチャンスかもしれないわね)
そう思い、アルケーは心の中でほくそ笑んだ。
「分かったわ。さっさと終わらせちゃいなさい」
「はい、勇者の力を見せつけてやります!」
笑亜は気合いの籠もった返事を返した。
女神の勇者と坂東武者の相撲勝負が始まる。
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