女性の目線

一の八

女性の目線



うす暗がりの部屋の中

ベットの上に1人の男がいる。


どこの誰か、何をしている人か、どんな生き方をしてきたのか…

分からない。


「いらっしゃいませ、こういうお店に来るのは初めてですか?」

お決まりの言葉で相手に尋ねてみる


「いや、なん回かあるかな。ここに来るのが初めてではあるけど」


「あっそうなんですね」

部屋の中では、なんだかお酒くさい匂いが広がっていた。


少しだけ気持ち悪い。

私は、アルコールに対する免疫が弱い。

言葉に出さないだけで早くこの部屋から出たい。


一応、聞いてみる事にした

「お酒、かなり飲まれましたか?」

「あっそうだね。さっきまで同僚達と飲んでいたから」


やっぱり、そうか。


こういうお店にくるお客は、ほとんどの客が飲んでやってくる事が多い。

それは、仕方ないのかもしれない。


けども、なんだか自分という存在が酷く朦朧に映っているような気がしてならない。


“自分なんて”とどこの誰かも知らない相手に求めている自分が情け無くなる。


服を脱ぎ、シャワーの蛇口を捻ると冷たい水が流れはじめる。

「準備が出来たら、こちらにお願いします。」


男は上着を脱ぎ、ズボンを下ろして、いそいそと服を脱ぎ始める。



次第にアルコールの匂いが近いてくる。


「すみません、私アルコールの匂いがダメなんです。すみません」


「あっそうなんだ。ごめんね」


この言葉が本心で言っているのかは、分からない。



シャワーを浴び終えると、タオルを使い身体を拭き始める。


「少々お待ちください。そちらベットの上で仰向けになって寝ていて下さい。」


「分かりました」



男は、言われた通りにベットの上で仰向けの体勢のままこちらの様子を伺っていた。


私もタオルで身体を拭くと、アルコールの中へと向かっていた。



「では、始めてさせていただきます」


「はい」


男の身体を優しく愛撫していく、すると少しだけ身体が熱を帯び始める。


息を止めているの辛い。


「すみませんが少し早いですが、いいですか?」


コンドームを取り出して、相手の性器にゆっくりと付けていく。


「では、失礼します」


ワタシの性器と相手の性器がゆっくりと挿入されてゆく。


痛っ

言葉に出してしまうと、気分を害してしまう。


何度も何度も繰り返し動いた


男の反応は、一向に変わる気配を見せない。




トゥルートゥルー

部屋の電話が鳴る。



ガチャッ


「あっはい、分かりました。」


残りの時間をお店のスタッフに伝えられる。


やっぱり、ダメだ。

自分の力の無さに酷く虚しさを感じてしまった。


ヒクッヒクッ


目元から涙が止まらない。


わたしなんて…わたしなんて…


残された時間の中で出来る事って他に何があるの?


どうしたらいいの?


ねぇ、教えてよ。

どうすればいいの。


今までに誇れるものなんて、何も無かった。

今の仕事も別にやりたい仕事でも無かった。

だけど、何度もこなしていくうちに褒められる事もあったりして、それが次第に自分にとっての唯一の誇りになっていた。



…はずだったのに



女は、静かに瞳を閉じ言葉を投げる

「では、終わりですね。」


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女性の目線 一の八 @hanbag

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