Chapter.1「Da Capo その⑤」Story Teller:緑川 安美
ホットサンドとコーヒーを食べ終わると、
サービスの温かいお茶が、
安美と未来の前に1杯ずつ持ち運ばれて来た。
天光 未来
『有難う。』
緑川 安美
『有難う御座います。』
2人が礼を言うと、
スタッフは笑顔で会釈をし、
カウンターの方へと去って行った。
ふとテレビを眺めると、
12年前の今日起きた出来事、
"悪魔が消えた日"の特集が組まれていた。
怪訝な表情でモニターを睨み付け、
低いトーンで未来は、
『妹を悪魔呼ばわりか。 良い気はしないな。』
と口にした。
緑川 安美
『出ようか。』
悲しげな表情を浮かべる安美。
天光 未来
『今日は出た所で一緒だよ。
世界中で話題は、これだからな。』
緑川 安美
『そうだね・・・。』
未来は、お茶を一口飲むと、
再び悲しげな表情に戻り静かに話し始めた。
天光 未来
『何でもっと早くに、
あの子(咲希)が妹だって、
気がついてあげられなかったんだろうな。』
緑川 安美
『仕方ないよ。
2人共、別々に育てられたんだから。』
------------
緑川 安美:
咲希ちゃん、真美ちゃん、私は、
ニブルヘイムという名称通り暗い街、
世間で言う"異世界"で産まれました。
咲希ちゃんは、左側の口が歪に裂けており、
日本の都市伝説で語り継がれている、
"口裂け女"の様な容姿をしており、
真美ちゃんは、輪郭を持っておらず、
包帯や布を好きな形に縫い合わせ、
自身の姿を表現しており、
その姿は、
ホラー映画に出て来る、包帯を巻いた、
"マミー"の様な容姿をしていました。
そしてニブルヘイムに拠点を置く組織、
"Noir Tale(ノワール・テイル)"
からの指令で、
地球に訪れたニブルヘイムの生命体を、
ニブルヘイムへと返す為に、
咲希ちゃんと真美ちゃんは、
能力で容姿を人間へと変えて、
地球に訪れていたのです。
そこで出逢ったのが、日本人の母親と、
ニブルヘイムの父親の間に産まれた、
未来ちゃんでした。
その為、未来ちゃんの瞳は、
生まれ付き左側の瞳のみ、
咲希ちゃんと同じ金色をしていました。
綺麗な瞳とは裏腹に、
幼少期から母子共に、
その事が原因で酷い苛めに合っていたそうです。
そんな中、未来ちゃんが4歳の時に、
お母さんが苛めを苦に自ら、
未来ちゃんを残し空へと先立ってしまい、
それ以降、未来ちゃんは、
『自分の側に居ると人は不幸になる』
と思う様になり、
未来ちゃんと唯一親交のあった、
同じ年齢の女の子とも疎遠になったそうです。
私達に出逢うまでは「独りを好んでいた」と、
未来ちゃんは大学生時代に教えてくれました。
------------
2人が、お茶を飲み終わる頃には、
テレビも別の話題へと切り替わり、
街でのインタビュー映像が流れていた。
スクリーンには、
笑顔で笑う人々の顔が映し出されている。
未来は、そんな映像を眺めながら、
『これが本当の、
あの子(咲希)の望んだ世界なんだよな。』
と小さな声で呟いた。
緑川 安美
『そうだね。』
------------
緑川 安美:
咲希ちゃんは、生まれ付き、
"怪我を治す能力"を持っていました。
高校時代の咲希ちゃんは、
人間に不信感を持っていたけど、
怪我をした人の事は放っておけない、
優しい性格をしていたし、
猫と小さな子の事は大好きだったから、
怪我をした人を見ると、
進んで能力を使って治療を行っていました。
ですがそんな中、
自身の能力に隠されていた、
"もう一つの能力"を知る事になるんです。
そのもう一つの能力とは、
「傷口を治すと共に、その人に自身と同じ、
"魔物の持つ力"を与える」
と言う厄介なものでした。
咲希ちゃんは、知らない間に、
地球で暮らす人達に、
魔力を与えていた事を知ると、
酷くショックを受けている様子でした。
何故なら私達の役目は、
地球に訪れたニブルヘイムの住人が、
地球で生活をしている人達を傷付けない様に、
また、地球で生活をしている人達から、
ニブルヘイムの住人が傷付けられない様に、
地球で生存しているニブルヘイムの住人を、
連れ戻す事だったからです。
この頃から咲希ちゃんは、
一人での行動が多くなり、
そして能力を使う事も無くなりました。
咲希ちゃんは、組織を信頼していたので、
組織の目的には、
そぐわない能力を持った咲希ちゃんを、
日本に送り込んだ組織に対して、
不信感を抱いていたんだと思います。
何故なら、その能力の事を、
組織の上官の人達は皆、知っていたからです。
その後、
咲希ちゃんは、ニブルヘイムへと戻り、
Noir Taleへ向かったと、
真美ちゃんから聞いています。
ですが、その後、
真美ちゃんが咲希ちゃんと会った時に、
組織のリーダーの事を、
凄く嫌っていたそうなので、
和解する事は出来なかったんだと思います。
だからこそ私達は不思議なんです。
咲希ちゃんが真美ちゃんに、
奏ちゃんを引き渡した時、
真美ちゃんから、
誰の子なのかを尋ねられた咲希ちゃんは、
『リーダーとの間に出来た子供だ』
と一言だけ話したそうです。
その後、咲希ちゃんは行方不明になり、
私達が咲希ちゃんと再び再開したのは、
12年前の今日でした。
咲希ちゃんの淡く綺麗な
オレンジ色の髪の毛は真っ黒く染まり、
右側の口も歪に裂け、
血走った目を見開き、
凄く綺麗だった瞳は黒く濁り、
背中からは4本の腕が生えていました。
咲希ちゃんは、言葉も忘れて、
記憶も全て無くしてしまっている様でした。
そこには私達の知る咲希ちゃんの、
面影は残っていなかったんです。
そして、この日、現れた咲希ちゃんの姿を、
皆は"悪魔"と呼んだのでした。
------------
喫茶店を出て、未来の車に乗り込む安美。
緑川 安美
『そう言えば、
今日また、鬼怒川さんが家に野菜を
沢山持って来てくれる様になってるんだけど、
未来ちゃんも夕方、家に来ない?
私と奏ちゃんだけでは食べきれないし、
未来ちゃんが来たら奏ちゃんも喜ぶから。』
天光 未来
『そうだな。
奏ちゃんにも学校では聞けない事で、
少し聞きたい事があるし、
仕事終わりに、寄らせてもらおうかな。』
緑川 安美
『じゃあ、待ってるね。』
天光 未来
『それにしても、
あいつ(鬼怒川)も脈が無いと知りながら、
よく懲りずに来るよな。』
その言葉を聞き、笑う安美。
そんな話しをしながら、
2人は車で安美の家に向かったのであった。
------------
安美の住む住宅の前に車を停車する未来。
車から外に出る安美。
緑川 安美
『有難う!
じゃあ、また後でね!』
天光 未来
『あゝ、また後で!』
そう言うと未来は車を走らせ、
学校の方へと向かって行った。
未来の車を見送った後、
安美は家の中へ入り服を着替えた後、
スマホを手に取ると、
ネットニュースは元より、
SNSのトレンドの1位も、
"悪魔の消えた日"となっていた。
安美は悲しそうな顔で、
スマホをテーブルに置くと、
気を紛らわせる為に台所へ向かい、
夕飯の支度を始めるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます