Chapter.1「Da Capo その③」Story Teller:緑川 奏

奏に手を引かれ、学校を後にする七央。

その間も奏は、

ずっと一方的に話しをしていた。


緑川 奏

『それにしても驚いたよ!

山本先輩や小松先輩と一緒に居たから、

てっきり君も変な人だと思っていたんだが、

どうやらそれは、私の思い過ごしの様だな。

君は良い人だ!』


神 七央

『そんなに大した事は、

していないんだけどなぁ・・・。

それより、どこまで連れて行く気なの?』


緑川 奏

『さっき言っただろ! 私の家までさ!』


神 七央

『それ、本気で言ってるの?』


緑川 奏

『あっ!

もしかして君もデートの約束があるのかい?』


神 七央

『約束事は無いけど、

おやつが沢山食べたいからって、

女の子が彼氏でも無い男を家に招き入れて、

お母さんやお父さんに怒られたりしないの?』


そう七央が話すと、

奏は立ち止まり振り返ると、

先程の楽しそうな笑顔とは掛け離れた、

動揺した表情で話しかけて来た。


緑川 奏

『⁈ 君! 今!

今言った事を、もう一度、言ってくれ!』


神 七央

『約束事は無いけど・・・。』


七央が話していると、

話しを遮るかの様に奏は、

『その後だ! その後の言葉を聞きたいんだ!』

と話しかけて来た。


神 七央

『おやつが沢山食べたいからって・・・。』


七央が話していると最中、

青白い顔をして頭を抱えている奏。


緑川 奏

『君はもしかして、このノートの中身を見たのかい?』


その問いに対して七央が笑顔で

『ゴメンね。

開いた状態で落ちてたから、

そのページだけ読んじゃった。』

と返答すると、再び奏の表情に笑顔が戻った。


緑川 奏

『いや〜。 焦ったよ〜。 安心した!

でも今日は、おやつの為だけでは無いぞ!

このノートは、私にとって大切な物なんだ!

だから君には、ちゃんと御礼がしたい!

無理にとは言わないが、

時間があるのであれば、

私について来てほしい!』


奏の想いに七央は、

『分かった。 少しだけお邪魔しようかな。』

と答え、2人は奏の家に向かう道中、

商店街のドーナツ屋に立ち寄った。


ドーナツ屋に入ると、

奏はスマホを取り出し、電話をかけていた。


緑川 奏

『もしもし、お母さん!

今から探し物を届けてくれた、

お友達を

家に連れて行こうと思っているんだが、

ドーナツを買っても良いかな?』


どうやら電話の向こう側に居るのは、

奏の母親の様だった。


緑川 奏

『えっ! 本当に!

鬼怒川おじさん、

また野菜持って来てくれるの!

えっ! 未来さんも来るんだ!

じゃあ、今日は沢山ドーナツが必要だなぁ〜。

お母さんは、何が良い?』


奏は電話で話しながらメモを取ると、

『じゃあ、買って帰るよ! うん! 分かった!』

と言い電話を切った後、

満遍の笑みで奏はスマホでメニューを開き、

七央に話しかけて来た。


緑川 奏

『君は、どれが食べたい?』


神 七央

『こんなに沢山あると迷うね。』


緑川 奏

『そうだろ! そうだろ!

私も毎回、迷うんだよ!

新しい発見もしたいだろ!

でも大好きな味が無いのも悲しい!

・・・そうだ! そうしよう!

今日は、

君が選んだドーナツを私も食べてみる!

もしかすると、

新しい出会いがあるかもしれない!』


神 七央

『じゃあ僕は、

この塩レモン味のドーナツをお願い。』


緑川 奏

『塩レモン! 渋いねぇ〜♪

私もこれ食べた事が無いから楽しみだよ!

他は? 後2つ選んでくれ!』


神 七央

『えっ! 夕飯も近いから一つで良いよ!』


緑川 奏

『食べきれなかったら、

持って帰って夜食にすれば良いよ!

さあさあ、早く選んでくれたまえ♪』


メモ帳の中身を思い出す七央。


神 七央

『ショートケーキ風ドーナツと、

コーヒークリームドーナツでお願い。』


緑川 奏

『君は、中々センスがあるなぁ!

・・・! いや・・・。

もしや君! ドーナツのページも見たのかい!』


その問いに、

『見てないよ』と笑顔で返答する七央。

だが、

その笑顔には何かが隠されている様子だった。


『この時、私は思ったんだ。

先輩は"何かを隠している"と・・・!』


再び青白い顔で奏は、話し始めた。


緑川 奏

『良いんだ・・・。

落とした私が悪い・・・。

ただ! 一つだけ答えてくれ!』


そう言うと、

奏は大きな声、尚且つ少し早めな口調で、

『"おやつが沢山欲しい時の魔法"と、

"お気に入りのドーナツ"の間のページは、

見たのかい?』

と七央に問い掛けて来た。


その問いに七央は先程と同じ表情で、

『見てないよ』と返答した。


緑川 奏

『本当なんだな!

本当に"お気に入りのパンティー"

のページは、見ていないんだな!

・・・あっ!』


そう言うと、

奏は急に顔を真っ赤にし、

店内を見渡した後、七央の顔を再び眺めると、

七央は先程と変わらない表情をしていた。


奏は慌てた様子で、

鞄の中から

学校のプリント用紙を取り出し丸めると、

丸めたプリント用紙を

七央に向かって突き出して、

『君はメモ帳の中身を忘れる!』

と呪文の様に唱えた。


それでも七央、

先程と変わらない表情をしている。


『私はこの時、分かってしまったんだ。

先輩の中には"何かが潜んでいる"と・・・。

でないとおかしいんだ!

お母さんや未来お姉ちゃんには効く魔法が、

何故だか分からないが

先輩には効かない・・・。

これはどうやら、

先輩とは長い付き合いになりそうだ。』

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