Chapter.1「Da Capo その②」Story Teller:神 七央

新学期が始まってから数日が経った、

とある金曜日の放課後、

眼鏡の少女は、入学式の時も一緒に居た、

女子生徒2人と話しながら、

3人以外の生徒は出て行った後の、

がらんとした教室で帰宅の用意をしていた。


眼鏡の少女

『えっ! 嘘だろ!

陽葵ちゃんは、

小松先輩と付き合っているのかい?』


山﨑 陽葵(やまさき ひまり)

『うん。

だから、今日から一緒に帰れないの!

ごめんね!』


そう言うと、

陽葵は2人を残して教室を出て行った。


眼鏡の少女

『じゃあ、今日からは2人で。』


眼鏡の少女が話し始めると、

言葉を遮る様に、

もう1人の友達、凛が話し始めた。


山﨑 凛(やまさき りん)

『ごめんなさい!

私も昨日、告白されて・・・。

今からお返事しに行かないといけないの!』


眼鏡の少女

『嘘だろ! 凛ちゃんも!』


山﨑 凛

『うん。

山本先輩に昨日、告白されたの・・・。

私、入学式の時から、

ずっと気になっていたから嬉しくて・・・。』


眼鏡の少女

『仕方ないなぁ。

友として2人の幸せを、

後押しさせてもらうとしよう。

さぁ! 行くんだ! 行け!

早く行かないと幸せは、逃げていくぞ!

さぁ! 早く幸せを掴むんだ!』


高橋 凛

『あ・・・、有難う!

それじゃあ、また明日ね!』


そう言うと、凛も教室を出て行った。


眼鏡の少女は、

凛が出て行くと冷静さを取り戻し、

静まった教室を眺め、

『さて、私も帰るとするか。』

と独り言を言いながら2階にある教室を出た。


階段を降り、

踊り場でスマホを取り出す為に鞄を開くと、

大切にしているメモ帳が無い事に気がつき、

慌てる眼鏡の少女。


眼鏡の少女

『おいおい嘘だろ! 大変だ!

あのメモ帳の中には、

私の大切なデータが沢山入っているんだぞ!

しかもメモ帳に書いているからと安心して、

何を書いたのか殆ど覚えていない!』


眼鏡の少女は、落ち着きを取り戻し、

『私は、何を書いていたのだろうか?』

と独り言を言った後、

メモ帳に書いた内容を、

思い出せる限り思い出していた。


そして、ある1つの内容を思い出すと、

顔を真っ赤にして、

『大変だ! ヤバ過ぎる!

もしも、あのページを誰かに見られたら!

しかも、それを観たのが男子だったら!』

と再び大きな独り言を言うと、

慌てて階段を駆け上がって行ったのだった。


------------


その頃、

そんな眼鏡の少女の思いを知らない七央は、

花壇の近くに落ちている

黒いメモ帳を見つけ、拾い上げていた。


神 七央

『誰のだろう?』


メモ帳を開くと、

開いて1ページ目の白紙の所に、

「緑川」と名前が記載されており、

右下には殴り書きの様な荒さで、

ロボットや野球のバットの絵も描かれていた。


神 七央

『緑川? 誰だろう?

2年にも3年にも緑川君なんていないし、

新入生かな?

絵のタッチ的に、どう見ても男の子だよね?』


そう小言を言いながらページを開くと、

"好きなハンバーガー"

を只管書いたページが出て来た。


その次のページには、

"美味しいクッキーとビスケット"

その次のページには、

"良さげなカメラメーカー"

を只管書いたページがあった。


七央は、いけない事と知りながら、

そのメモ帳の内容に興味を持ち、


にこにこしながら、

『食べるのが大好きな子なのかな?

カメラにも興味があるのか。

何だか仲良くなれそうな気がする。』

と独り言を言いながらページを捲っていた。


七央は、数ページ開いていると、

"お菓子が沢山食べたい時、友達を家に誘う"

というページと、

"お気に入りのドーナツ"

というページの間に、

飛ばしてしまったページがある事に気がつく。


七央は、飛ばした1ページが気になり、

ページを戻すと、そこには、

"お気に入りのパンティー"

というページがあった。


そのページを見た七央は、

慌ててメモ帳を閉じた。

 

神 七央

『駄目だ・・・。 危険過ぎる・・・。

例え後輩だとしても、

この男の子には、

余り近寄らない方が良さそうだ!』


七央は、小さな声で呟いた後、

職員室に預ける為に、

慌ててメモ帳を持って職員室に急いだ。


職員室に着くと、

担任の坂本先生にメモ帳を手渡した。


坂本 龍弥(さかもと たつみ)先生

『有難う。

確かこれは、1年の緑川ちゃんのね。

後で天光先生に届けてもらうわ。』


神 七央

『宜しくお願いします。』


七央が頭を下げて、

職員室の扉の方を向くと、

入学式の時に居た眼鏡の少女が、

扉の向こうに立っていた。


眼鏡の少女は、扉を開くと、

『一つ聞きたい事があるのだが、

ここに黒いメモ帳は、

届けられていたりしないよな?』

と大きな声で尋ねて来た。


坂本 龍弥先生

『あっ! 丁度良かった!

たった今、彼が届けに来てくれた所よ!』


坂本先生がメモ帳を見せると、

眼鏡の少女は、満遍の笑みで近寄って来た。


眼鏡の少女

『何とお礼を言ったら良いのか!』


そう言いながら、

眼鏡の少女は七央の顔を眺め、

少し首を傾げた後、

七央から一歩下がって頭を抱えた。


眼鏡の少女 

『私とした事が・・・。 すまない。

山本先輩達と居たから、

君も変な人だと勘違いをしていたようだ。』


そう言うと、

眼鏡の少女は再び七央に近づき、

『私の名前は、緑川 奏(みどりかわ かなで)。

宜しくな!』と、

にこにこしながら挨拶をして来たのであった。


そんな奏の挨拶に、七央も同じく笑顔で、

『僕は、神 七央。 宜しくね。』

と挨拶を返すと、

奏は何かを思い付いた様な表情で扉に向かった。


緑川 奏

『そうだ! 時間はあるかな?

いや! 無いとは言わせないぞ!

メモ帳を拾ってくれたお礼がしたいんだ!

今から家に来てくれたまえ!』


神 七央

『えっ! でも!』


緑川 奏

『良いから! 良いから!』


神 七央

『あっ! ちょっと!』


奏は両手で七央の右腕を引き、

廊下の外へと引っ張って行ったのであった。


『この日、僕は面白い子の名前を知った。

そしてこの日から僕達の時間は、

少しずつ動き始めていたんだと思う。』

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