Best of Memories ~黒い雲と白い傘~

七瀬 ギル

Chapter.1「Da Capo その①」Story Teller:神 七央

『今日、僕は高校3年生に進級した。

これから進学や就職の事で、

この一年間は、

慌ただしい日々を送っていくのだと思う。』


そんな事を思いながら七央が教室を出ると、

3階と4階の間にある

踊り場の窓の向こうを眺めながら、

はしゃいでいる同級生の姿が目に入った。


神 七央(かなえ なお)

『そんな所で何してるの?』


2人は七央の声に腰を抜かし、

『何だ、七央かよ! 脅かすなよ!』

と胸を撫で下ろしていた。


七央が窓の向こうを眺めると、

新入生が

校内を案内されている姿が目に入った。


神 七央

『そう言う事か。』


山本 湊(やまもと そう)

『「そう言う事か」じゃね〜だろ!

今年で俺達、高3なんだぜ!

学生の内に恋愛を楽しんでおきたいだろ?』


神 七央

『別に僕は・・・。』


小松 陽斗(こまつ みなと]

『そんな事、言わないで見ろよ!』


陽斗は、七央を窓際に引き込み、

窓の向こうに指を刺した。


小松 陽斗

『あそこのショートカットの子可愛いよな!』


山本 湊

『その隣に居るツインテールの子の方が、

絶対に可愛いって!

な? 七央もそう思うだろ?』


2人は、

どうやら3人仲良く歩いている女子の内、

2人に一目惚れをして、はしゃいでいた様だ。


神 七央

『2人共、そんな事をしていて良いの?

僕達は来年から・・・。』


小松 陽斗

『硬い事、言うなよ!』


山本 湊

『それより、お前は、どの子がタイプなんだ?』


神 七央

『そんな事、急に言われても・・・。』


七央が困り顔で窓の外を眺めると、

2人が話していた3人組の少女の内、

眼鏡を掛けて

ポニーテールに髪を結んだ少女が、

楽しそうに笑っている姿が目に入った。


神 七央

『あの子かな? あの子が可愛い。』


小松 陽斗

『あの子? あの子って、どれよ?』


神 七央

『2人が言っていた子と一緒に居る、

眼鏡を掛けたポニーテールの子。』


小松 陽斗

『えっ! 嘘だろ!

あの子は、止めとけよ!』


神 七央

『何で?』


山本 湊

『お前知らないの?

あいつ小学生の頃から、

男の子みたいな悪戯をする事で

有名だったんだよ!』


小松 陽斗

『周りからも"ゴリラ子ちゃん"って、

あだ名が付けられていたくらい、

可愛いとは無縁な女なのさ。 彼女は。』


神 七央

『へぇ〜そうなんだ。 可愛いけどな。』


そう言うと、

七央は再び眼鏡の少女の方を見下ろした。


小松 陽斗

『「へぇ〜そうなんだ」じゃ無くてさ・・・。

見てろよ。』


そう言うと陽斗は、窓を開き大声で、

『ゴリラ子ちゃ〜ん! 元気ー!』と叫んだ。


その言葉が聞こえた様で、

眼鏡の少女は血相を変えて、

3人の居る方を睨みつけて来た。


窓の外からは、

『そこで待ってろよ!』

と元気な女の子の声が聞こえている。


小松 陽斗

『やべ! 上がってくるんじゃね?

逃げようぜ!』


山本 湊

『そうだな! ここは、二手に分かれよう!

七央も早く陽斗か俺に付いてこいよ!』


そう言うと湊は3階へ、陽斗は4階へと、

それぞれ違う方向へ走って行った。


2人が走り去って少ししてから、

眼鏡の少女が

息を切らしながら階段を上がって来た。


眼鏡の少女は、

踊り場で立っている七央を睨み付けたが、

優しい顔で微笑む七央を眺め、

不思議そうな顔で首を傾げると

階段を駆け上がり、

再び怒った表情で左右を確認したあと、

右側の廊下へと走り去って行った。


階段を上がり、

眼鏡の少女の方を眺める七央。

 

神 七央

『2人は、あゝ言っていたけど、

そんなに男の子っぽいかな?

女の子らしくて可愛らしい子に見えたけど。』


そう独り言を言っていると、

背後から『ゴリラ子ちゃ〜ん!』と叫ぶ、

陽斗の声が聞こえて来た。


眼鏡の少女は、声の方向を睨み付けると、

物凄いスピードで七央の前を走り去って行った。


廊下の向こうで、

『何度言ったら君は分かるんだ?

そのあだ名で呼ぶのは、

止めてくれと言っただろ?』

と怒っている可愛らしい少女の声と


『ペチペチ叩くなよ!

そんな所が、ゴリラ・・・。 うわー!』

と叫ぶ陽斗の情け無い声が聞こえている。


4階の陽斗の声を聞き、

4階の様子を見に湊4階に上がって来ると、

七央が声の方向を眺め微笑みながら、

『面白い子だな。』と独り言を言っていた。


そんな七央を背後から眺めながら、

湊は『変わった奴だな』と思っていたのだった。


『この日、僕達は初めて出逢った。

第一印象は"笑顔が似合う可愛らしい子"、

その次に思ったのは"面白い子"。


その次に僕が彼女に会った時に思ったのも、

"やっぱり、この子、面白い子だな"だった。』

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