第7話 おでん食べてた頃が懐かしい
この世界に来て、呑気におでんをシェーディとシェアして食べた頃が懐かしい。本当にそう思う。
この日は、前日まで参加する3人物のプロフィールをミンティア様に叩き込まれた俺が、ミンティア様とヒュールイス・タッカード伯爵令息の屋敷にお呼ばれしている。
古くから続く名家の一つで、各大臣を多数輩出している。ヒュールイスは法律を勉強しており、法務院に内定している。
そ、し、て、ヒュールイスがデザインを決めた服を着用している。
紅色に金の縁取りの刺繍が入ってて、裾から10センチ位までと袖の返し、スラックスが濃い緑色だ。
届いた衣装箱を開けて、見た瞬間に蓋を閉じた。
赤と金とか派手なの嫌だって、言ったのに〜。
庭にご招待するし、今赤い薔薇が綺麗だから決めましたって、何故俺は薔薇と張り合わなければならんのだ?無理があり過ぎだ!
俺は一度たりとも音を立てられない状況で、笑顔で食事を心から楽しんでいる風を装っている。
時々聞かれて、「同じ胡椒でも種類が違うと使う料理も全く違う味になりますよ」等俺的にどうでも良いことを答えている。
先程カルボナーラを試しに少量作って、粗挽きの黒胡椒をかける前と後で食べ比べてもらった時の話を踏まえてだ。
まあ、カルボナーラが皆さん初めて食べたらしくて胡椒より料理の方に比重は傾いてたけど。
この世界は基本塩ハーブで焼いた肉、付け合わせの芋と野菜、パン、スープだ。これが毎日で実に単調だ。生野菜がある季節はサラダがつく程度。朝はサンドイッチみたいなのと、スープ、卵料理。卵は高いので、庶民は週一がせいぜいで、病人優先。
だから、俺みたいな素人でも料理人に成れる。
「ロドウェルは半分くらい食べてから、追加でかけるのが良いと仰ってました」
食事が終わって紅茶を飲んでいるが、まだ話は続いていた。
「ロドウェル王弟殿下は体調を崩されたとお伺いしましたが、よろしいのでしょうか?」
グラハム・ウェイラー侯爵令息が遠慮がちに尋ねた。父親は宰相閣下。でも、本人は詩人でいくつも詩集を出版し、朗読会を行えばチケットの争奪戦が繰り広げられるとか。
「ええ、先週は寝込んでいましたが、今は私に隠れてベッドで仕事をしてるのです」ミンティアがすまして答えた。
「バレてるじゃ無いですか」
ジョゼフ・パルスィコン伯爵令息が口に手を当てて少し笑った。母親が王の従兄弟で、ジョゼフは商会を取り仕切り、国内随一にさせている。
「頃合いを見てお止めしています」
俺は笑いを堪え、ミンティア様同様すまして言った。
先週からロドウェル様は高熱を出して寝込み、ミンティア様は心配して御典医まで呼んでもらっていた。
シェーディは魔法院でロドウェル様の代理を務め、隣町の視察は無くなっているが、僕はロドウェル様の助手としてサッシェント邸に詰めている。
かと言って書類の文章は勉強しているが専門用語は知識も無いと難しくて、所々しか読めないので、許可の出た書類のハンコ押しと数字の計算をしている。後は連絡係とか、役に立ってると言われるが、猫の手よりましって程度だ。
ミンティア様は心配の余りロドウェル様の熱が下がらない時はずっと付ききりで看病していたが、ミンティア様が倒れそうになったので無理矢理俺が代わった。
6日めに熱は下がって、意識もはっきりしてきて、ようやくミンティア様は落ち着かれたようだった。
何度も泣かれたので毎日お慰めはしたが、ハグ以上のことは要求されなかった。あれを連日されてたら俺が倒れる。
人前では、ロドウェル様の事をいつも気にかけている風に見えるのに、と複雑な心境だった。
性癖の違いが元で俺を抱いていると言われたけど、ロドウェル様ならミンティア様の全てを受け入れそうだ。
そうじゃなくても、ミンティア様の美貌なら愛人になりたい人なんて星の数ほどいそうなのに。それを敢えて甥の恋人に手を出す危険を犯してまで、ミンティア様は俺に何を求めているのだろう。
まあ、物珍しいんだろうな。周りの煌びやかな令息に混じってない俺。わかってますとも。周りにいないから目新しく思えるんだな。
早く、俺に飽きて、その分旦那様と楽しまれたら良いのに。ミンティア様床上手なのにな。
ちょっと思い出して身体が疼いたのは仕方無い。
既にミンティア様に身体は籠絡されている。
「王の病気は癒えたのだろう?立太子式の話はまだ出てないの?」
「本決まりではないが、ここ1ヶ月で日付や段取りが発表される事に決まってお父様が根回しに走り回っているよ。走り回ってるのは侍従だけど」
「ついにですか!ミランベル王子の矢の様な催促に困ってるってロドウェルにも溢してた」
ミランベルは第一王子だ。第二王子は元から虚弱で病気がち、自ら離宮に居て公式に姿を現したことはないそうだ。
「記念品をやっと配れるよ。倉庫一つ借り切ってるから早く捌きたい。借り賃も馬鹿にならない」ジョゼフは冗談ぽく言った。
「そうなれば私の婚約式もまもなくできますね」と言ったら
「まだ早いです」「よくよく考えて」「急がなくても大丈夫、相手は逃げませんよ」と次々止める返事が返ってきた。
そうだな、軽率に動かない方がいいか。俺が頷くと皆一様に頷いた。ヒュールイスは泣きそうな顔をしている。
みんなで庭の方へ移動した。言われてた通り素晴らしい眺めだった。ヒュールイスの案内に沿って回りながら、皆こちらをチラチラ見ている。
いや、ヒュールイスに至っては俺をガン見している。
そんなにイメージした服が俺と合ってないのだろうか?
逆に俺は彼らを眺めた。
皆々様明るさは違うが金髪で、目は青か緑。整った顔立ち。日光に照らされて眩しくて目が痛い。
もしかして、皆は俺を見て目を慣らしてるのか?
「シィズゥル様は太陽の元で見ると黒髪に美しい銀の輪が現れて、まるで天使の様だ。瞳は暗さが増すのに輝いている。宝石以上の美しさだ」
天使の輪ね。さすが詩人のグラハム君。
来た頃は短かった髪はシェーディもミンティア様も切らせてくれないので襟足を過ぎるぐらいになった。
ミンティア様お勧め(強制)の髪のオイルを付けられて、艶々だ。今日は自然に流しているので前髪が顔にかかり、鬱陶しくて度々耳に掛けている。
何故それをすると周囲に溜息をつかれるんだ。これって行儀悪いのか?尋ねる勇気が無い。
それで、視線を逸らそうと手近にあった紅白の絞りの薔薇を褒めたら、帰りに大きな花束にして持たせてくれた。
え、あの見事な一角刈られたのか!どうしよう、下手に褒めるんじゃなかった。
花束を受け取ったら「お似合いです」と言って顔を赤らめないでヒュールイス!後ろにいる、おたくの庭師の視線に殺されそうなんですけど!!
「ありがとうございます。嬉しいです」簡単な文章なのに、今までに無くぎこちなくなってしまった。
最近翻訳の声が小さくて聞き取りにくい。唯一のチートが消えようとしている。
俺に更なる試練を与えようと言うのか!
周囲は聞き取りだけはできると思われてるのに、それができなくなったら、完全に自分の力だけでは心許ない。
相手は俺が異世界から来たと知らないので、必死でヒヤリング力を向上させようとしている。
帰ってくるとロドウェルが呼ばれたとかで居なかった。ミンティア様は呆れて怒っていたが、今日帰宅しないと聞くと態度が変わった。
「シズル、来て!」
俺の手を繋いで寝室に引っ張り込んで鍵をかけた。
え、もしかして、ロドウェル様が居なくなったから?我慢してたの⁈
「これ飲んで?それとも素面でする?」
「これは、この前飲んだ、薬ですか?」
「そう、私はどっちでもいいですよ」
俺は悩んで飲む事にした。自分の罪悪感を減らすために…。
ミンティア様はベッドに転がされた俺のヒュールイスのデザインした服を脱がしながらあちこち口付けた。俺もスラックスは自ら脱いで、あっという間に全裸にされる。
「もう、我慢できない」
ミンティア様がオイルを手に伸ばして性急に俺の穴を広げると、そこはすぐに柔らかくなって、欲望を受け入れる。
グッと入ってくる圧迫感を息を吐いて逃し、下を緩めただけのミンティア様の上の服を脱がせていく。
ボタンが多いのでそのまま乗しかかられると痛い。
「ああ!シズルの中温かくて、柔らかくて、気持ちいい」
この人は最初から俺の名をちゃんと言えてるな。どうでも良い事を考えてたら深いキスをされて、気が遠くなってきてようやく離すと、ガンガン突かれる。
最初ちょっと苦しいけど、俺のを扱かれて身体が震えると中が締まり、ミンティア様のを更に感じてしまう。
「ううっどうして、俺なんかに」
激しく突かれて身体が上にズレていくので、ミンティア様の背中に手を回して声を上げる。
グッと奥まで押し入り、ミンティア様はうっとりと僕を見降ろした。銀色の髪がサラサラと流れ落ちてくる。
「シズルには不思議と守りたいし守られたいと二つの感情が湧くんだ。シェーディが居ても寂しそうで、構いたくなる」
「俺は、シェーディさえ居れば、いいんです」
言ってやったが、喘ぎながらだし、ミンティア様のを根元まで受け入れている体勢だと全く信ぴょう性が無い。
「そう?」ミンティア様は妖艶な笑みを浮かべた。
「まだ、そんな事が言えるのですね?」
急に引き抜くと、俺をうつ伏せにさせて腰を掴み、後ろから貫いた。
「ああ!」
前からとは違う感覚に思わず声を出すと、覆い被さり、ズ、ズっとゆっくり中を出し入れし、俺のを掴んで巧みに扱いた。
「それ、駄目、両方は嫌です、離して」
「離せない。本当は気持ちいいのでしょう?身体だけでも、私に奉仕して。シズル、大好き、愛してる」
えっ⁈思ってもいなかった言葉に驚き、一瞬意識が素に戻ったが、強く握られて絶頂してしまった。
そのまま今度は乳首をギュッと摘まれて後ろのままずっと攻められ、引かない快楽についに泣きながら、ミンティア様が満足するまで奥で精を受け入れ続けた。
何とか意識を落とさずに終わって、俺はすぐ家に帰る事にした。
シェーディは泊まりで家には誰もいないのはわかっていたが、ミンティア様の傍に居られなかった。
ミンティア様の告白に混乱していて、一人になりたかった。
「家に帰りたい」と何度も言って半泣きで頼むとミンティア様は何も言わずに優しくキスをした後、馬車まで送ってくれた。
帰っても一人、家の中に入って、すぐシャワーを浴びた。いつもミンティア様が浄化してくれるのだが、それでは足りない気がいつもしていた。
そんなものではミンティア様の執着は剥がせない。
「大好き、愛してる」
わかっていてもシャワーを念入りに浴びた。
ベッドに潜り込んだ時俺とシェーディの匂いにホッとして、ぼんやり嗅いでたらいつの間にか寝ていた。
「シィズゥル?シィズゥル!どうしてこっちに居るの?」
大声で目が覚めた。シェーディだ。
俺は飛び起きてシェーディに抱きついた。そして改めて匂いを嗅いだら、懐かしくて安心した。
ミンティア様の香水の匂いしか嗅いでなかった。
「帰りたくなった。シェーディは泊まりじゃなかったの?」
「ロドウェルが来たからちょっと帰ろうと思って。今度は第一王子が病気になって、また王宮に行くらしいけど。僕も疲れてさ。着替えこっちに置いてたから取りに来たついでに寝たくなった」
「俺もさ、お茶会で話が噛み合わなくて、疲れた。やっぱり俺に貴族の相手は無理だよ」特にミンティア様な!
「そうだと思った!無理しなくていいからね」
ああ、シェーディ、君はいつも僕を案じてくれる優しい人だ。
シェーディが好きだ。
お互い色々話しながらその日は何回もキスを繰り返し、抱き合って眠った。
シェーディは初めて会った時から変わらない。
初めて会った時の優し気な眼差し、おでんを食べた時の嬉しそうな顔、ビールを飲んで驚いた顔。
その時俺は男にはさして興味なかったはずなのに、今でもはっきり覚えている。
俺は変わってしまった。シェーディが好きだと言いながらミンティア様に抱かれている。
貴族の真似事をして、彼らに取り入ろうとしている。
それが本当にシェーディの為になるかどうかは、今の所ミンティア様を信じるしかない。
シェーディみたいに強い魔法も使えない俺だけど、不安定な立場のシェーディを少しでも守ることができたら。
この世界に来て唯一の心の拠り所はシェーディなのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます