第6話 不穏な気配はあちこちで
僕達が参列する為に色々準備していた立太子式が6ヶ月後に延期になった。
立太子式が終わったら婚約式をしようと考えていたので必然的に後になった。
「どうして延期になったのですか?」
「王様がご病気になられたって聞いた。大した事は無いらしいが、念の為延期にしたらしい」
シェーディは宮中の事に全く興味が無いので、ミンティア様経由だ。
「早く良くなってほしいです。個人的理由で」
俺が言うと
「あら、不敬罪よ」とミンティア様は微笑んだ。
俺は例の3日間は大抵サッシェント邸にお泊まりしている。と言うかミンティア様が毎回迎えの馬車を寄越すし、そのまま一日中離してくれない。
今回は乗馬に初挑戦した。ミンティア様の馬みたいな動物シュバルに乗せてもらったが、まず、乗るのに一苦労だった。
僕が怖がったのを察したのか、シュバルに嫌がられた。ミンティア様は自身のシュバルをよくよく宥めて、ようやく乗せてもらった。
だって、想像より近くで見たシュバルが大きかった。シュバルの背がとんでもなく高く見えた。
まず、乗り降りと乗馬?の姿勢からだ。ミンティア様は教える時はなんでも厳しい…シュバル用の鞭を器用に操り姿勢を矯正された。鞭が似合いすぎて怖い!
最後にミンティア様が俺を乗せてシュバルを引いてくれたが、背に乗ると余計高くて下ばかり見てしまい、またミンティア様に鞭を向けられた。両方コワイ…
狩猟に行けるのは当分先だな。僕はぐったりして、ミンティア様との晩酌をお断りしてふかふかのベッドにダイブした。
次の日は朝からケーキやクッキー、ポムパイを焼いた。オーブンが三つもあるとは!
午後からは、ミンティア様の指示でお茶会の準備、そして何故か俺はミンティア様のご友人としての参加だ。
来る人は伯爵以上、親や親戚は王政の重鎮ばかりで、何故生まれ付きド平民の俺がここにいるのか不明だ。
コックとして準備だけするのだろうと、ちょっと高級な普段着の上にエプロンのまま用意を手伝ってたら、ミンティア様に連れて行かれた。部屋で侍従達に寄ってたかって髪を整えられ、貴族しか着ない少し袖の開いたピラピラのシャツが見える派手な刺繍の入った青色のロングジャケットを着せられ、白のスラックスを履かされた。サイズがピッタリだ。何故?
「あなたが行った店に頼んだの。私の好みの服を着せたかったから」
確かに俺やシェーディは絶対こんなのを選ばない。派手過ぎる…
「こう言っては月並みなんですが、その、黒い髪と瞳は神秘的で美しい。そのお顔立ちも素敵だ。是非詩を捧げたい」
へあ?詩?詩って、捧げるんだ…。誰に?
俺はミンティア様の隣の席で固まっていた。
「僕の周りにはあなたのような容貌の人はいませんが、とても親しみを感じます。異国のお菓子や食べ物作りにとても興味が湧きました。今度は僕の家へ来て頂きたい。うちのコックの作る菓子やデザートも中々なんですよ?」」
「あ、ずるい、僕の家は香辛料を取り扱う商会をやっております。料理が御趣味ならなんでも御用立て致します!一度商会にお越しになられませんか?」
いや、何?みんなで俺を担ごうとしている?
見回したがどの顔も真剣だ。若干顔を赤らめている人がいる。
困ってミンティア様を見るとニコニコして頷いている。
「ね?シズルは魅力的な子でしょ?」
周りの麗しい貴公子達はうんうんと頷いている。
えーっ!人生初のモテ期到来!
※ただし全員麗しいが男。
まだ、殆ど喋ってないのに、ミンティア様が爽やかに僕を褒めると、この状態だ。
「ミンティア様、どうすればよろしいのでしょう?」
ミンティア様は美しいカードとペンを持って来させてサラサラと何か書き付けた。
「次にあの2人がいない日に、順番に伺えば良いのよ。私も一緒について行くからいいでしょう?」
ミンティア様は行く順番を書いていたのだ。
貴公子達も、ミンティア様の決めたことには逆らえないが、順番に僕達が招待を受ける事に、とても喜んだ。
そんなぁ。
「また、服を注文しなくては!同じ服で行ったら失礼でしょ?一回毎に変えなくては」
ミンティア様は侍従に服のカタログを持って来させた。皆嬉しそうに俺に合いそうな服のデザインについて、活発な話し合いを始めた。それぞれの好みに合わすんだって。いや、それ俺には合うの?
俺は黙々とケーキを食べて紅茶を頂いた。
「あまり派手なのは好みません」とかろうじて発言したが、誰も聞いてない。一体何を着せられるのだろうか。
貴公子達が帰り、夜の美味しいディナーの後、晩酌をしながら俺が招待される事について不満を言うと、ミンティア様は真面目な顔になった。
「シェーディは全く王族や貴族を取り巻く政治状況を知ろうとしないでしょう?平民ならまだしも、シェーディは王族の血を引いている。それだけで、いつ政争に巻き込まれるかわからないのよ?今の状況を知っておくのは必要です」
「シェーディが政争に?ピンと来ないなあ」
「私が何のために彼らのお茶会に予定を組んだと思ってるの?皆政府の高官か、その息子なのよ?彼らは政治の知識と情報がある。シェーディが動かないならあなたが気を使うべきです。それは彼の護りになる。繋がりを持つことは情報が得られる。活用しない手はない。それに同年代と繋がりを持つことは大事よ」
「ミンティア様はシェーディがそれに巻き込まれる恐れがこれからあると思っていらっしゃるのですか?」
ミンティア様は暗い顔になった。
「今の所は関係無いけど、嫌な噂を聞いたから」
「え?」
「王様のご病気はあまり良くない、と」
「ええ⁈ロドウェル様はそんな事言ってないです。そのように言っては駄目です。ミンティア様が疑われる」
「もし、王子がいなければ、夫が王になれるのは事実でしょ?」
遠い世界の話位に思っていたことが急に目の前にやってきたようだ。
「その時、ご自分の息子よりお気に入りのシェーディは王位継承権2位の座を貰えるかもね」
僕は息を呑んだ。
「無理があります!シェーディはきっと放棄する」
「そうね、あの子はそうしたいでしょう。でも、そう思わない人達は、一番弱い立場の者から排除するかもしれない」
「そんな!」
「シェーディの異母弟達は?嫌がらせ無い?」
そういえばいたのをすっかり忘れてた。名前すら知らん。
「ああ、その人達のことはシェーディも少しは警戒しているみたいね。あなたに守りの石が入ったネックレスを渡す位だから」
「そうだったんだ。危ない人想定じゃなかったんだ」
「いえ、それも合ってると思います。この会話は秘密ね。これで終了!」
ミンティア様はテーブルの上に置かれたリゾンの実の発泡酒の瓶を指差した。
「どっちが好み?私はこちらがいいのだけど」
俺は有耶無耶になった話の続きをしたかったが、今夜はこれが本命だ。
リゾンの実はブドウに似ていて、価格が高くて庶民には口に入らない。それの発泡酒!
「両方飲んでみたいです」最近ミンティア様に遠慮が無くなった。
もちろん、とミンティア様は侍従に用意させた。
飲んでみると、ミンティア様お勧めは上品で香り高かった。
もう一つは強い香りで味もクセがある。これはこれで、肉に合いそう。ソースの材料に良さげ。いや、勿体無い。
等好き勝手言ってるとちょっと飲み過ぎてしまい、眠くなってきた。
僕は部屋に帰ろうと、お暇を言って立ち上がった。
すると身体がふらりと揺れた。あれ?しまった。
「危ない!」ミンティア様が咄嗟に支えた。胸にもたれると見かけによらず結構筋肉質だな、と不埒なことを考えたが、その後記憶が無い。
「あ、起きた?」ミンティア様の声が足元から聞こえた。
「え?」
「ふふ、こっちも起きたね」
「何の事?あっ」
なんて事だろう、俺もミンティア様も裸だった。
しかも、俺は両手を縛られており、ミンティア様は…え?
「あっ!」あらぬところが感じてのけぞった。
指が、ミンティア様の美しい指が三本も俺の中に!
「シェーディとはしてないの?」
「うわっ待って、何故ミンティア様がそんなことする必要があるんですか⁈」
「シズルが欲しい。せめてシェーディと共有できたらいいかなって」
駄目だ、ミンティアがさっぱり理解できない。
「共有しないで下さい!俺はシェーディ一筋なんです!結婚するまではって、まだ一回しか」
「じゃあ、身体だけでも、私のものになって?」
「お断りします!!」
俺はキッパリ言って逃げようとしたが身体が動かない。
「また、薬盛られた⁈」
「失礼な!私も飲んだ事がある安全な薬だよ。ちょっと感度が良くなるだけなんだけど…お酒と一緒に飲むと効きが強くなってしまうの」
「ああ、ちょっとじゃ、無い!」
俺は仕方なく「助けて」と言って身体に力を入れたが、さっぱり動かない。何で⁈
「ネックレス、外しておきましたよ。裸で飛ばされたら、危ないですから」ミンティア様が意地悪く言った。そんな…。
「ミンティア様は子供産んでるお母さんですよね?これは、逆なのでは?」
「ロドウェルにお願いされて結局子供は私が産んだけど、本当は入れる方が好きなの。ロドウェルには内緒ね?」
「そんな事誰にも言えませんよ!」
指が抜かれたが、まだ何か入っているような残存感がすると思ってたら今度はミンティア様のが入ってきていた。
うそ⁈何でミンティア様と⁈
「嫌だあ!」思わず日本語で叫んだ。
ミンティア様は見かけと裏腹に力が強く、俺は抵抗できなかった。魔法で身体強化とか使われているのだろうか?
奥まで入れられて激しく抜き差しされると、あっという間に再びイってしまい、そのまま戻って来れなかった。
されるがまま腰を合わせて声を上げ続けていた。どこを触られも感じてしまい、懇願して手首を解いてもらったが、拒むどころか自分から抱きついた。
「素直で良い子だね、シズル。可愛いよ。もっと私を感じて!」
「ミンティア様、もう、許して」
俺は起こされて、深く繋がったまま、奥に出された。
「中は嫌です!シェーディだって中には出してない」
「後で綺麗にするから、良いでしょう?」
ミンティア様はいつもとは別人のように俺を荒っぽく責めまくった。
何度かイって気絶しかけたが、激しいキスで起こされて、ミンティア様が中で俺の良いところを突いて休ませない。
嫌だと言ってるのに奥に何回も出され、俺のもだらしなく出続け、外も中もぐちゃぐちゃだ。
ようやく離してもらえた時には、俺はもう指一本動かせなかった。
ドロドロになった身体はミンティア様の使った浄化魔法で何事もなかったかのように綺麗になった。
事後の気分は最悪だ。全て薬のせいにしたかったが、俺もあれほどの快楽を拒否できなかった。最後はミンティア様と進んで一つになっていた。シェーディに悪くて絶望しかない。
ミンティア様は力無く横たわった俺を優しく抱きしめた。
「シズルが、悪く思う必要は無い。薬と私のせいなんだからね?あれは初夜用に痛みを軽減して快感を感じるための薬なんだ。でも、思ったより私との身体の相性が良過ぎたんだよ。私も驚いた、こんなに気持ちいいなんて!初めてで暴走してしまって、全然我慢できなくなった」
ミンティア様は耳元で緩く笑った。
「私とシズルの秘密にしよう。ロドウェルやシェーディには内緒ね」
「誰にも言いませんから、俺とはもう、これっきりにして下さい」
「駄目、もう私はシズルを離せない。シズルの身体は私のモノ。諦めて?」
俺は目の前が真っ暗になった。なんて事になったんだろう…
それでも疲労から、抱かれたままうとうとしていると、誰か部屋の中に入ってきた。侍従が朝食を持ってきたのだ。
「起きれる?朝ごはんが来たわよ、一緒に食べましょう」
ハッとして上半身を起こすと2人分の食事が、少し離れた2人用のテーブルの上に置かれていた。
『侍従達はみんな知ってるんだ』カッと身体が熱くなった。
着てきた服と、ネックレスが見当たらない。
「私の持ってたグラスのお酒がかかってしまったから洗ってる。代わりのを渡します」
バスローブみたいな簡単な寝巻きを羽織らされ、気の進まぬ朝食を頂いた。
「今日、二人とも帰ってくるね、シェーディと一緒に帰る?」
「当たり前です」精一杯虚勢を張った。
「ふふ、残念。お互い相手がいるものね。来月からのお茶会も一緒に行こうね」
「それは…」
「シズルとシェーディの為だよ、行った方がいい」
「はい」仕方無く返事をした。
ミンティア様は手を伸ばすとスルッと俺の頬から首筋を撫でた。
「私の相手もしてね」
ぞくぞくっと身体の奥が疼いたような気がした。
ミンティア様との関係はシェーディやロドウェルには絶対知られたくない。
俺はシェーディの為なんだと自分に言い聞かせた。
昼過ぎにシェーディ達は帰ってきた。
「シィズゥル!寂しかったよ!」
相変わらず熱烈に表現してキスをするシェーディに、後ろめたさと、ミンティア様の視線を感じる。
シェーディを見る冷静な自分に驚きながら、キスを返した。
4人で遅めの昼食を取っていると、ロドウェルは王宮に呼ばれていると言う。
「王のご病気と似た症状の患者が見つかってね。御典医に対策を相談するのだ」
「流行病なんですか?」
「まだ何とも言えん。食品の中毒症状にも似ているしな。これから検証だ」
「シェーディは?」
「僕は街の方へ報告に行く。一旦家に帰るから一緒に帰ろう」
ここで待てと言われなくて内心ホッとする。
ロドウェル様は食後慌ただしく出て行った。
帰る僕達をミンティア様が見送る。
「シズル」
ミンティア様は微笑んで言った。
「来月からよろしくね」
背中を冷たいものが通り過ぎた。この人の一言が俺をこんなに狼狽させる。こんな関係死ぬ程嫌だ。
「僕は社交が苦手なので、ミンティア様にお任せになってしまいます」」
ぎこちなく返した。
「それは助けるから、全て私に任せて?」
俺が頷くと満足そうに手を少し振った。
ミンティア様に何もかも従う事がわかったのだろう。
「何の事?」
「後で話すよ」
シェーディをせかして馬車に乗り込んで、屋敷を出ると一気に力が抜けた。
来月お茶会に招待されたと言うと、シェーディは不満そうだった。
「ミンティア様が、俺がシェーディしか相手がいないのなら、自分の友人の令息を紹介したいって」
「余計な事を!シィズゥル、浮気しないでね?」
「し、しないに決まってるだろ!住む世界が違いすぎる」
俺は自然に返せただろうか?胸が痛んだ。
家に着いた頃にはあちこち筋肉痛で、治癒魔法では効果が無いのが本当につらい。
俺は乗馬のせいにして、その晩と次の日は早く寝た。寝たふりをした。2日空ければミンティア様との事も何とか忘れられ、はしない。万が一シェーディに身体を合わせられても、バレないだろうと姑息にも思ったからだ。情け無い。
俺はこんな事になってもまだ、シェーディとこの家でずっと2人で生活していくんだと、図々しくも思い込んでいた。
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