第5話 やっぱり来たか、え、でもあなたまで来るなんて
今日から三日間、シェーディは隣町の医局に視察に行く。毎月だから仕方ないのに、散々文句を言ってから漸く行った。僕は家で待機だが、既に疲れた。
僕はしょっ中頬にキスか、抱きしめられたりしているが、それ以上性的な事はされていない。
ただ、最近、意識してしまって、シェーディにそれらをされると下半身がムズムズはする。シェーディがいない間1人で堂々と処理できるのは有難い。
いつも一緒だとできないから。それは今夜のお楽しみだ。
午前中に、再びやってきた魔道具屋さん達は台所にオーブンを作って設置してくれた。最高温度が違う魔石を使って焼くそうだ。
俺がお菓子を作りたがってるのをロドウェルの家で聞いたからって、オーブン作る?それでお菓子作れってプレッシャーかけられてんだけど⁈
ミンティアさんにレシピ聞かなきゃ。お菓子は適当に作れないからな。
でも、今日は蕩けそうなチーズがあるのだ!オーブンの練習でピザ焼いてみるぞ!!
俺がテンション高く、ピザ生地のようなものをビロンビロン伸ばして作っていると、馬車がやってきて止まる音がした。
あれ?魔道具屋さん忘れ物?
コンコン。おとなしいノックの音がした。
「誰?」
「ミンティア様をお連れいたしました」
えー!こんな所に公爵夫人が来る普通⁈
そうか、ロドウェル様も居ないから身軽なんだ。
俺は粉だらけだったが、待たせるわけにもいかないので、そのまま迎え入れた。
侍従を先頭に、ミンティア様は僕の様子をチラリと見たが、少しも顔色を変えず、静々と入って来た。さっと後ろに侍従が移動して待機した。
「ごきげんよう、シズル」
「ごきげんよう、公爵夫人。ようこそいらっしゃいました」
言ったものの、ど、どうやっておもてなしするんだ…
狼狽えていると、ミンティア様は極上の微笑を浮かべた。
「お気になさらず。オーブンを入れたって聞きましたので、お菓子のレシピを持ってきました」
は、早すぎる、魔道具屋さんを見張ってたのか⁈
「ミンティア様、ついさっき設置した所です」
「あれ?思ったより遅かったですね。シェーディの事だからすぐ買ったと思って来たのです」
確かに読みは正しい。
ミンティア様の思ったら直ぐ動く行動力も凄い。
「今、僕の国で流行っていたピザと言う料理を試しに作ってました。薄い生地にトマトソースを伸ばして、ジャムボンとオニオンとポブレベを乗せ、最後にフォマージュをかけるんです。ただ、手で持って食べるので、マナーは悪いです」
「まあ、ここでは気にする必要ないでしょ?ご馳走してくれないの?」ミンティア様は蠱惑的な笑顔を浮かべた。
は、鼻血が出そうだ。
「絶対ご馳走します!!」
頑張ったので思った通り美味しそうなピザができた。
ミンティア様は俺がピザの生地を頭上でくるくる回してあげると大爆笑した。え?あの、いつもの微笑は?
出来立てピザを熱い、でも美味しい、チーズが伸びて面白いとかキャアキャア言いながら垂れてくるチーズを大口開けて食べていた。
マナーの完璧な、お上品なミンティア様はどこへ行ったんだ。予想以上の反応だった。
俺はびっくりして逆にいつもより大人しく食べていた。うん、美味い。
食後は侍従さんに頼んで紅茶を入れてもらって(絶対俺より上手いし)ミンティア様の作ったクッキーを食べた。紅茶の葉が入っていて上品な味になっている。
「やっぱりミンティア様のクッキー美味しいです」
「有難う、あなたの作ったピザも良かった!お行儀悪いけど、楽しく食べられた。こんなの初めて!」
ミンティア様はピザを大層気に入ったご様子だ。
「次はケーキ焼きます!」
「ふふ、楽しみでしょうね。でも火傷に気をつけなさい」
あ、いつものミンティア様に戻った。
2人でお互い知らない料理について一頻り喋った後、ミンティア様は侍従さんの、そろそろお帰りのお時間です…と嗜められて渋々帰り支度をした。
今度はこちらから伺います、と最後に言うと
「シェーディも連れて来てね。ロディはあの子がお気に入りなのに、シェーディはあまり来てくれないから。いつもシェーディの事ばっかりなのよ」
と少し悲しそうに言ってミンティア様は来た時同様静々と出て行った。
お見送りしようと外へ出ると扉の向こうでは2人の護衛が立っていた。え、ずっといたんだ!馬車のそばにも4人いて、ミンティア様を見ると直ぐに横にいた馬に騎乗した。御者さんの横にも1人いる。7人も護衛が付くんだ。扉に立っていた護衛は馬車の後ろだ。
さすが公爵夫人!これがスタンダードなのか!こんな偉い人と付き合ってるのか。
俺は呆然と見送った。このメンバーで、こんな家に来たんだ…中に入ってこなくて良かった。てか、入らない。
お陰で初日はちっとも寂しさを感じなかった。突撃してきたミンティア様が強烈すぎた。
夜もピザを食べて、後片付けし、シャワーを浴びたら気が抜けたように眠くなって、ベッドに入ったらまもなく寝てしまった。夜のお楽しみは明日にした。
「静流がいなくなって7年。失踪宣告できるのか、早いな」
俺は懐かしい声と、衝撃の内容に目を覚ました。
「私は絶対そんなものしませんからね!」
「当たり前だろう。でも、本当に静流はどうなったんだ」
「だって、バイトが終わって普通に帰ってるし、コンビニに寄るところも出てからも防犯カメラに写ってるのに、その先がわからないなんて…」
父さん!母さん!俺ここにいるぞ!
俺は思い切り叫ぼうとしたが、口も身体も動かない。
7年も経って無い!失踪宣告?死んでることになっちまう!やめてくれ。
2人の声は小さくなって、ついに聞こえなくなった。どうなったんだ?今、繋がってたのか?でも、7年後って、差が開きすぎだろ⁈
「父さん!母さん!」思い切り叫んだ、叫べた。飛び起きた。
しん、と部屋が静まり返っている。辺りを見たがいつもの部屋だ。
俺は裸足のまま部屋を出てリビングに行き、何も変わらないのを確認して、そのまま外に出た。
夜空は星でいっぱいだった。木の周りを走り回ったが、何も無かった。
木の根か何かに躓いてバッタリ倒れた。そままぎゅっと目を瞑ってから恐る恐る開けたが、景色は変わらない。
え、これで普通は変わるだろ?どうして躓いただけでこっちへ来たのに、今度は躓いて倒れたのに元の世界に行かないんだ?
猛烈に感情が爆発した。
「畜生!畜生!何だったんだ、何であっちは7年も経ってんだ!誰だよ!そんなに俺を返したく無いのは!なら、あんな会話聞かせるなよ!せっかく、せっかくこの世界で生きていく事を受け入れてるのに、何で俺に残酷な仕打ちするんだよ、あんまりだ!」
大泣きしながら辺りを転がった。
「母さん!父さん!助けて、誰か助けて!!俺,何も悪い事してねーよ。何でこんなとこにいるんだよ。帰りたい、本当は帰りたいんだ」
泣きながら、朝日が昇るまで、そこに居た。
「会いたいよ、父さん、母さん…お願い、迎えに来て」
何も変わらない異世界での一日がまた始まってしまった。
俺は仕方無くよろよろ立ち上がり、埃まみれの寝巻きを脱いで、シャワーを浴びた。顔は涙と土で驚くほど汚れていた。
吹っ切るように身体や頭を念入りに洗ってから出たが、気分は落ち込んだままだった。
服も着ずにそのままベッドに潜り込んだ。
「このまま寝て、起きたら元の部屋に居ないかなあ」
何もする気になれず、身体を丸めて頭まで布団を被り、ずっとその日は横になっていた。
うとうとして、嫌な夢で起きて、泣いて、喚いて、疲れて寝て。
やっと起きた時、お腹がくう、と鳴った。
シェーディが見たら、悲しむだろうな。
ふと、シェーディの事を思い出した。明日帰って来るんだった。
ジャガイモでスープを作った。パンにバターとニンニクに似た匂いの野菜の汁をつけて、フライパンで焼いた。
ちっとも美味しくなかったが、お腹は満たされた。
「早く、帰って来ないかな」
早く、帰って来て、この空虚感を埋めて欲しい。あっちの世界の未練を断ち切って欲しい。
そんなのまで負担させるのは無茶振りだ。
わかってても、この世界に僕を止めているのはシェーディだけなんだ。
その晩に熱が出始めた。一晩中寝巻きで外にいたせいかも、いや、そうだろう。精神的ショックも大きかったし。
水分だけは摂るようにしたが、食べ物は吐いてしまい、受け付けなかった。
トイレと水飲む時しか起きずに、後はただひたすら寝ていた。
シェーディは昼過ぎに帰って来た。馬車の音で俺は起きようとしたが、まだ熱は下がっておらず、目眩がしてまた横になった。
「シィズゥル、ただいま!あれ?どこ?」
玄関から一直線にこっちへ来る足音がした。
部屋のドアが勢いよく開いた、と思ったらもう枕元にいる。
虚な目でみるみる青くなるシェーディを見上げた。
「シィズゥル⁈どうしたの?あ、熱がある!叔父上、どうしよう、シィズゥルが!」
シェーディは俺の様子にすっかり動揺して取り縋った。く、苦しい。
「落ち着きなさい。他の症状は?脈はとったか?」
ロドウェルの声だ。
「そう、そうでした。シィズゥル?苦しい?咳は?お腹大丈夫?」
慌てて身を起こしてそっと手首を握るシェーディの手は冷たくて気持ちよかった。
「ちょっと早いね」
俺はシェーディを落ち着かせようと静かに言った。
「熱が少し出てるだけ。大丈夫だよ。食欲は全然無いけど。吐いちゃって寝巻き二つとも汚れたんだ。シャワー室に置きっぱなしで、ごめん」
「そんな事気にしなくていいよ!熱だってかなりある!今熱を冷ます薬作るから待ってて。いや、前のがあったかも」
ドタバタとシェーディの部屋へ行ったらしいシェーディと入れ替わりにロドウェルが近付いてきた。
少し難しい顔をしていたが、躊躇いつつ聞いてきた。
「魔法の残滓がかなりある。何か心当たりは?」
あります、そう言おうとしたら涙が溢れて何も言えなかった。
「いいんだ、無理してまで言わなくていい。熱はその影響かもしれん。今はゆっくり休め。シェーディがあんなに取り乱すほど心配するとはな。君は愛されている」
ロドウェルは僕の頭を撫でてくれた。
シェーディは戻って来て、見た目にも不味そうなドロっとした液体を入れたカップを持っている。
「ごめん、ちょっと飲みにくいけど頑張って飲んで?蜜入れたけど…」
ロドウェルが起こしてくれて、俺は頑張ってその薬汁を、本当に頑張って半分飲んだ。うぇ。
「残り、後でもいい?水欲しい」「わかった」
苦甘い微妙な味が舌に残り、我慢できん。シェーディはすぐ水を持ってきた。
水をごくごく飲んで落ち着いた。
俺はシェーディが帰って来て、安心して今度はぐっすり夢も見ずに眠った。
夜には熱が大分下がり、清浄魔法でさっぱりしたら空腹を感じた。
シェーディは野菜をくたくたになるまで煮込んだスープに千切ったパン入れて飲ませてくれた。
そう、所謂「あーん」だ。余りにも恥ずかしいので半分くらいで「もう、お腹いっぱい」と断った。
ポムを擦り下ろしたのを食べて、心なしか回復したようだ。子供の頃を思い出した。
シェーディは俺を重病人扱いで、横で看ていると言うので
「一緒に寝て抱いていて欲しい」と頼んだ。
シェーディもやっと帰って来て疲れてる筈だから。
僕のお願いをきいてくれて、三日振りに一緒に眠った。
熱はあったが、心から安心してシェーディに抱きついた。
次の日の朝、熱は下がり、嘘のように元気になった。
しまった、夜のお楽しみができなかった。
でも、と僕は寝ているシェーディの股間に手を伸ばした。ちょっと勃ってる。
手を絡めて軽く扱くと直ぐに大きくなった。
「んん、何?」シェーディはやっと目が覚めて驚いていた。
「ねえ、抱いて?」
「シィズゥル⁈いいの⁈でも、病み上がりだぞ?あ、こら」
「僕のも同じようにして?」
シェーディの手を取って誘導した。その間も滑りを帯びたシェーディのを可愛がる。
誘惑に負けたシェーディと抜き合いした。
誘った割に僕が先にイってしまい、シェーディはそれにグイグイ押し付けて僕が声を上げるとイった。
「シィズゥル、好きだよ」
シェーディの濡れた手は僕のお尻の穴に、出した精液を塗りつけて周りを愛撫しだした。
穴の周りを優しく押して、少しずつ広げながら指が中に入ってきた。
「シェーディ、俺も君が好きだ」俺はやるせなくなってシェーディにしがみついた。
ズプズプと指は周りを擦り、その内2本に増えて容赦なく中を攻め出した。
中が少し冷んやりとして、清浄魔法をかけられたことに気付く。それさえも快感に感じる。
「早く来て」俺が懇願すると
「本当に良いんだね?」とシェーディは律儀に聞いてきた。
頷くと、指を抜かれ代わりに固くなったシェーディのがゆっくり入ってきた。シェーディの荒い息が俺をより高め全部入って奥へ押し付けられた時、さっきとは違う絶頂が来た。
それはシェーディが俺を突く度上書きされる。俺の先からは少しずつ透明な雫が出てくるだけなのに我を忘れるほど気持ちよかった。
「シェーディ、凄く、気持ち、いい。シェーディは?」
「僕も、シィズゥルの中、ふわふわで、でも、締め付けられて、最高!」
「シェーディが、居なくて、寂しかったよ」
「僕もだよっ、ああ、駄目だイきそう」
「来てっ奥まで」
「駄目だよっ」「あうぅ」凄い勢いで引き抜かれて俺の腹の上に出された。
「ああ、僕のでシィズゥルが侵されている…シィズゥルは僕のだ!」
俺は頷いたが、やはり疲労感が半端無く、そのまま眠ってしまった。
元の世界の気配はそれきりで、これ以降現れる事は無かった。俺の世界は、俺だけを弾いて完全に閉ざされたようだ。俺はだいぶ後までその事を引きずった。
次に目が覚めたら、もうお昼で、シェーディに起こされてサンドイッチを食べた。
熱はすっかり下がっていた。
「結婚するまでしないつもりだったのに!」
シェーディは言いながらも、うっとりと俺を見つめた。
「我慢できなかったんだ。猛烈にシェーディが欲しくなった」
俺はシェーディの傍に行くと唇に軽くキスした。
「好きだよ、シェーディ」
「僕もだ。結婚しよう、シィズゥル」
俺は今度は頷いて、シェーディに抱きしめられて深いキスを受け入れた。
そう、僕はとっくにシェーディを好きになってたんだ。
その日はずっとくっついていちゃついた。
お陰であの衝撃的未来視の影響は遠のいた。未来視にしたのだ。あんな現在は受け入れられない。
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