第58話「初体験の後押したーのしー!!!」
一難去ってまた一難、素丸達が逃がしてくれるというのにお嬢様軍団ははっきり言ってキツい。
同時に、真玄はある事に気付いた。
この光景も見覚えがある、確か……。
(純愛ゲーの方のクライマックスイベントで、ポっと出の悪役を倒しにお嬢様と主人公が屋敷の仲間達が倒しに駆けつけるシーンじゃんかよ!!! くそッ、この公園ってそうじゃんそのシーンで使われた公園じゃんかあああああああああ!!! まさか僕、そのポっと出の悪役になってるってコトぉ!?)
もしや世界がオールスターファンディスク仕様になったから、その悪役に抜擢されてしまったのだろうか。
真玄は焦る気持ちを押さえ、必死にに考えた。
(冷静になれ……僕はマスっち達と敵対していない、彼らはゆらぎに頼まれて僕を捕まえに来ただけだ――問題は力付くで多人数だと無理ゲーってコトかな!!!)
だがそれがなんだ、今更諦めるなんて出来るものか。
(――説得は無理だな、捕まったら脱出は無理、なら少しでも距離がある今しかないッッッ)
真玄は踵を返して走り出した、諦めない、決して諦めてなるものか。
「へへーんだッッッ、絶対に捕まってやらないからなああああああああ!!!」
「くっ、やっぱそう来るか!! 追えーーっ! フォーメーションBだ左右から追いつめろ! アリカお嬢様はオレが抱いていく!!」
「捕まるのが君の為だ少年!」「肉食系の女の子に貪られるのも楽しいぞぉ!」「女の子にーー、恥をかかすなーー!!」「初体験だって? 怖くないわカノジョさんに任せちゃいなさーーい!!」
「騙されないぞおおおおおおおおおお!!!」
追っ手を振り返らずに真玄は全力疾走、公園の反対側の出入り口を抜けそのままビジネス街へ。
すると。
(正面交差点信号は赤ッ、道路挟んで右に併走者、左に行くしかないッッッ!!!)
どこかの建物に入って巻くしかない、真玄は頭の中で周辺の地図を思い浮かべる。
生憎とこの付近で使えそうな交通手段は、バスか通りがかったタクシーを使うぐらいしかない。
そしてアリカお嬢様配下で益荒男が指揮する黒服&メイド軍団はビジネス街から先に彼を出させないような動きをしていて。
(――――クソッ、誘導されてる? 駅に戻るしかないのか!?)
だが駅に戻れば、素丸とは違い説得されていない継奈と他の生徒達が居る。
そこまでに何か、何かないだろうか。
(一か八か、…………皆が入って来られず、かつ建物に入る瞬間も極力見られない所、即ち)
ラブホだ、先日ゆらぎと入ってしまったラブホだ。
あのホテルでなくとも、隣接している他のどのラブホでもいい。
そこで数時間でも一晩でも過ごして、皆が諦めた後で再び出発する。
(問題があるとすれば、アリカちゃんの……周防院家の力を使われればラブホの中も簡単に探されてしまう可能性があるってコトで)
今の真玄にとって時間は敵だ、せめてラブホに入っても怪しまれない方法が。
もしくは誰か味方が一人だけでも居れば、と真玄は走り続けラブホ街までたどり着いた。
何処に入るか、そう思った瞬間であった。
「おわっ!? くっ、追っ手か!? 捕まえるなら僕は暴力でも――――」
「待った待ったっ!? アタシよアタシっ! ほらもう追っ手近くまで居るし、協力してあげるから大人しくしなって! こっちこっち!!」
「その声……朱鷺先輩?」
腕を捕まれ転倒しそうになったかと思えば、振り向けば天野朱鷺がそこに居た。
まるで味方のような物言いに、しかし追っ手の気配があるのも事実だと彼は彼女に手を引かれ先日と同じラブホの中に入った。
彼女は受付の前、出入り口を背にすると彼をむぎゅっと抱きしめて。
「ちょーっとだけ大人しくしててね?」
(いきなり何を――って、ヤバっ!? 追っ手が来てるううううううううう!?)
「おいそこの――――って、あ、すいません天野先輩でしたか!? そ、そのっ! 氷里先輩を見ませんでしたでしょうか!!」
「ほほう? その声はマスっちだね? うんうん、事情は聞いてるよ。でも生憎とアタシはラブハントの真っ最中でさぁ……後ろからでも分かるでしょ? 今夜の獲物ちゃんを捕まえた所なの、真玄くんは来なかったから邪魔しないでくれると嬉しいなぁ」
「そんな新たな犠牲…………オホンッ!! 分かりました朱鷺先輩っ! もし真玄先輩を見たらお嬢様のスマホにでも情報お願いします、ではこれでッッッ!!!」
「ばいばーい」
(うごごごごっ、抱きしめられて強制的に顔を巨乳に埋めてるから息がッッッ、死ぬっ、学校で一番デカイ巨乳で窒息死する!?)
早く遠ざかれと真玄が祈ったのも一瞬、朱鷺は彼をすぐに解放した。
「もう大丈夫っぽいね、……んで、これからどーすんの真玄くん? ゆらぎちゃんの所には戻らないんでしょう? それに、今はホテルの外に出られない」
「う゛っ、…………その、後日何でも言うこと聞くし、何なら童貞捧げてもいいんで、この街から脱出して実家に帰るの手伝ってくれません?」
「ふーん、そうだなぁ……」
(頼むっ、頼むからイエスって頷いてくれえええええ!!!)
ニマニマと楽しそうな先輩を前に、真玄は祈るように手を組み縋るように見つめた。
彼女は暫く考え込んで居た後、にぱっと笑って。
「うんっ、いいよいいよぉ! アタシは正義のビッチだから皆の恋路を応援したいし、真玄くんの頼みも聞いちゃおう! あ、別に童貞は要らない代わりにチンコでっかい童貞を最低十人は紹介して欲しいなっ!!」
「ありがとうございます朱鷺先輩!!! くっ、今までで一番先輩が輝いて見える……巨チン童貞十人必ずなんとか用意してみせますッッッ!!!」
頼もしい先輩が味方になってくれた、これなら逆転の目は、目的地にたどり着く可能性がグンを上がったと真玄は喜んだ。
しかし、今すぐ外に出る訳にはいかない。
そんな彼の表情を読みとったのか。
「んじゃあさ、休憩も兼ねて中に入っちゃおうか。大丈夫何もしないって、まぁ疲れてるだろうし三十分ぐらい休憩したら、作戦でも考えた後で出発しようか」
「僕の体力まで気遣ってくれるなんて……ううっ、なんて出来た先輩なんだ!!!」
「いつもそうやって敬ってくれれば嬉しいんだけどなぁ。あ、喉乾いてるでしょ、さっきコンビニで買ったジュースあげるよ」
「やったコーラだ! いやー、やっぱジュースと言えばコーラなんですよ、――ごくっごくっごくっ」
真玄が勢いよく飲み干すのを、朱鷺は笑みを浮かべて見ていた。
(――――ごめんねぇ真玄くん、君は頭も顔もいいんだからもうちょっと考えて動くべきだったんだよ)
そう、全ては打ち合わせ通りだったのだ。
彼が飲んでいるコーラは、睡眠薬入りのコーラ。
この後、部屋に入れば十分もせずに眠ってしまうだろう。
(目が覚めれば…………、くぅ~~っ、次あった時って真玄くんとゆらぎちゃんはどーなってるのかなっ、二人の初体験の後押したーのしー!!)
故に、そこから二十分後。
すっかり眠ってしまった真玄は、益荒男達の手によって運ばれ。
車に乗せられ、連れて行かれてしまったのだった。
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