第55話「男の子の硬くなる所」
次の日の朝である、真玄は昨晩鍵もしっかりかけてチェーンもしたしと快適な目覚めを迎えた。
さしあたって、どう逃亡するか考え直さなければならない。
ここはゴキゲンな朝食を作り、それを一人で堪能しながら考えようではないかと意気揚々に寝室から出たのであるが。
「あっ、おはよ真玄くん。もー、授業始まっちゃった時間だよ? まぁたまにはサボりもいっか、先生には風邪引いたって言っておいたから……今日はゆっくりしよっ!」
「なんで居るんだよ!? 僕はしっかり戸締まりしたぞ!?」
「真玄くんの意地悪っ、玄関から入れなかったからベランダから入るしかなかったんだよ? 防犯をしっかりするのはいいコトだけど……ひとこと教えてね?」
「無敵かい君はさぁ!? 拒絶してるって分かって!?」
「――――負けない、私は……この愛の試練に打ち勝ってみせるッッッ!!! さ、まずはその一歩としておはようのちゅーを所望するぞよ? 私からはまだ恥ずかしいからぁ……、真玄くんから……シて?」
「あわわわわっ、屈さない、僕は屈さないぞ!!」
早速逃げ腰の真玄に、ゆらぎはズビシと指さして。
「選べ……大人しくおはようのちゅーをするか、それとも裸エプロンで新婚さんごっこをするか!!! どっちにしても後ですっごい恥ずかしがるだろうけど私はやるぞ!! やってみせる!!!」
「最悪のニ択だ!? くそっ、こんな所に居られるか僕は逃げさせて貰うッッッ!!!」
「ドコに? ――だって、真玄くんが自分で出口を塞いでるんだよ?」
「いや鍵をかけただけ…………いや待って、なんでベニヤ板で玄関ドアの前ふさがれてるのマジでなんでッッッ!?」
いつの間にと真玄は戦慄した、これがゆらぎという女の子のポテンシャルなのかと。
これは逃亡できるのか、否、絶対に逃げなければいけない。
だがどうやって、と硬直する彼に彼女はすり寄って。
「はい、おはようのぎゅーっ」
「うぐっ!?」
「ほーらっ、真玄くんもぎゅーって、ぎゅーってして?」
「しないからなっ! するもんか!」
「もー、なら……すりすり、私知ってるんですよ? 男の子って女の子のおっぱいを押しつけられたらぁ……かたーくなる所があるって、ドコか……おしえて?」
「や、やめッ!? 朝っぱらから何すんだよマジで!? 僕の股間を指で撫でるな!! ――そんなに僕に暴力を振るわせたいかい?」
そう、あろうことかゆらぎは真玄の真玄をパジャマのズボンの上からゆーらぎっ!したのであった。
ぎこちない手つきであったし、そこに怯えや羞恥、ヤケッパチさも感じられたが。
ともあれ、もはや原作がどうとか言っている場合ではない、シンプルに逆レイプの危機である。
「僕ややると言ったら容赦はしないよ、殴ってでも止めるからね」
「出来るなら顔に痣……ですかね、ふふっ、どうなるか分かります旦那様? ハネムーンは何処へ行きますか?」
「や、やめろおおおおおっ!! 親に言いつけて責任取らせるつもりだろっ! 傷物にした責任とか言って責任取らせるつもりだろ!!!」
「――赤ちゃん出来るのと、顔の痣で責任問題になるのと、……どっちが早いと思います?」
「悪魔だ……悪魔がいるッッッ!!!」
「悪魔でもいいです、……真玄くんの最愛のお嫁さんとして幸せにできるなら……一緒に幸せになれるなら」
強い決意が込められた言葉、単なる盲信だけじゃない何かを真玄は感じたが。
ともあれ、無視できない事がある。
「…………そう言いながら僕の寝起きの汗の臭いを嗅ぐのやめてくれない?? 君ね、そうやって欲望に素直になりすぎると後悔するよ」
「真玄くんがちょっと勇気を出して私を愛してくれれば全て丸く解決する問題ですよ??」
「うーん、ストレートすぎて何も言えなくな……ってぇ!! 別にセックスするコトに同意したワケじゃないから沈黙は同意じゃないからズボンを脱がそうとするんじゃないよマジでさぁ!!!」
真玄はズボンを死守しながら、必死になってゆらぎを引き剥がした。
本当に殴ってしまおうか、そも思った瞬間であった。
「冗談抜きに、……真玄くんが殴るなら私はそれに適応してドMになる自信がありますよ、ふふふ……、真玄くんが悪いんですよ? 前世のことなんて話すから……、私は私の可能性を信じられるッッッ、真玄くんの為にどんなコトになっても尽くせると確信できる、そう今の私は……真玄くんの為の愛の天使!!!」
「…………朝ご飯食べるかぁ」
「速攻で慣れてる!? もしや愛情の賜物ってコトぉ!?」
「あーもうそれでいいや、はよ朝ご飯食べようよお腹減ってきたし疲れたから二度寝したい……」
「って見せかけて、後で逃げ出す算段をするって? いいですよー、お手並み拝見といきましょうか後でベニヤは退けておくんで」
「くっ、絶対に逃げてやるからね……朝ご飯食べて二度寝してマックでお昼食べてから!!!」
「あ、じゃあ一緒にマックの新作食べに行こうっ!! ……ふっふっふっ、せいぜい午後は私から逃げまどうのだー!!!」
という事で、真玄とゆらぎはいつも通り。
否、傍目から見ると以前より仲睦まじく朝食をとるのであった。
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