第51話「キャンディ・キス」



 近頃妙にゆらぎが積極的な気がすると、真玄は顔に出さず怯えていた。

 とういう事で登校して早々に彼は現実逃避を決行、教室の後ろの棚を一番右下をのぞき込む。

 そこにはクラスメイト達で持ち寄った漫画は、彼はラブコメをチョイスし世界に没頭。


(あ゛~~、イイ、こういうのでイイんだよ。こうさ、ヒロインがガツガツしてなくてさ、死亡フラグとか関係なくて、普段は短編でちょっとづつ関係が進んで……巻が進むとドラマチックでダイナミックな長編があったり、ちょっと古いけどこーゆーの好きなんだよなぁ)


 とはいえ。


(ううっ、ゆらぎもこんな風に本当に清純な……精神ダメージくるな別のを読もう)


 割と好きなシリーズであったが、真玄はもっと頭を空っぽにして読みたい気分であった。

 えっちなラブコメ、違う、ドタバタなラブコメ、違う、ならば恋愛重視の、違う、とえり好み。

 だが有志で持ち寄ったものだから、偏りがあって。


(僕も選んで置いておくかなぁ……今日は男向けのラブコメって気分じゃないみたいだ、なら少女マンガか?)


 中華風の偽花嫁モノか、過酷な運命に立ち向かうファンタジーか、それともピュアッピュアッな現代青春モノの……と彼は熱心に選んで。


「…………キャンディ・キス、これ初見だな読んでみるか?」


「あっ、それ私も気になってたんですよ! 一緒に読みましょーよーっ!」


「いつの間に後ろに?? まぁいいけど、残念だけど僕は一人で読みたいんだ」


「新作の少女マンガ、しかも気になってるヤツなんですよ……これはもう二人でページをめくって夫婦共同作業らぶらぶ読書と洒落込もうじゃあないですかッ!!」


「いや普通に嫌だけど??」


「えーっ、やーだぁやーだぁ、一緒に読むぅ……!」


「ぐえっ、ちょっ、離れろって!」


 しゃがんでいた真玄はうめき声を出して抗議した、ゆらぎが後ろからのし掛かるように抱きついてきたからだ。

 つまり、彼女のデッカイおっぱいを押しつけられながら、耳元で甘い声を囁かれながら甘えてくるという普通なら喜ぶべきシチュエーションであるが。


(くそッッッ、ゆらぎのおっぱいがもう少し……もう少しだけでも小さければ、声が前世の声優並じゃなければよかったのに…………!!)


 この調子である。

 雪城ゆらぎは確かに魅力的であるが、もう少しゲームの面影を消してくれていたら、と彼はそう思ってやまない。

 さて力付くで退けていいものかと悩み始めたその時であった、彼女はそういえばと口を開き。


「キャンディ・キスってタイトルですけど。実際にそういうキスがあるらしいんですが……知ってます?」


「…………なるほど?(あああああああああああ、変な所に気付きやがったあああああああああ!!! 僕には分かるッッッ、この流れは不味いヤツだっ!)」


「ふーん? その反応……さては知ってますね? よーし教えろーーっ! キャンディ・キスって何か教えろ氷里くーーん!! へーいへーいへーい、教えてくれないとぎゅってしたままだぞーっ!」


「ふんぬうううううっ! 負けるもんか教えないぞ!! このまま席まで連れてってホームルーム始まるまで押さえてつけてやるッ!!」


 真玄は立ち上がると、抱きついたままの彼女を引きずりながら席へ向かう。

 クラスメイト達は、最近二人の距離が近くていい感じだとか、このバカっぷるはもう付き合っているのだろうかと生暖かな目で見守って。

 しかしキャンディキスを回避しようとする彼は、周囲の視線に気づけず。


「よし……後はこのまま後ろに落とすように……」


「ぐぬぬっ、教えて貰うまで座りませんよぉ! 頑張れ私っ、もう椅子だけど私が座らなければ大丈夫なんだ頑張れっ!」


「ふっふっふっ、そうやって我慢比べをしていてキャンディキスの秘密が分かるとでも? 君はそうやってホームルームまで粘られてしまうのさぁ!!」


「なんとぉ!? くっ、誰かっ、誰か力を貸してっ!!」


 傍目からはイチャイチャしてるだけの二人であったので、殆どのクラスメイトは苦笑しただけだったのだが。

 ここに二人の恋路の進展を望む者が一人、今日も今日とて素丸を搾り取ってから登校した継奈である。

 彼女はポンポンとゆらぎの肩を叩き、にっこりと。


「キャンディキスって、飴ちゃんを舐めながら二人でディープなキスするやつだよ。ウチも素丸を堕とす決め手になったしゆらぎもやってみたら?」


「素丸ううううううううううううう!? おまっ、お前っ、君ってばそうやって陥落したの!?」


「――――いい情報をありがとう継奈……さぁ氷里くん! 私達もしましょう!! 誰かーーっ、誰か飴ちゃんを! 甘いやつ、できればレモン味がいいっ!!」


「やめっ、やめろおおおおおおお!!! みんな絶対に渡すなよっ! フリじゃないからな絶対に渡すなよ!!!」


「くっ、こうなったら離脱するしかッッッ!! さぁさぁ誰かプリーズ!!!」


「逃げやがったぁ!? うおおおおおっ、やらせんっ、やらせんぞぉ!!!」


 そして始まる追いかけっこ。

 とはいえ狭い教室の中で、面白がって飴を差しだそうとする者多数。

 十秒もしない中、ゆらぎは飴をゲットし。


「よっしゃレモン味貰ったどおおおおおおお……って、う、奪われるっ!? やめろーー!! とるなーーー!!」


「いや奪うでしょ、――こら抵抗しないでくれるかい!? こんな時だけ妙にすばしっこいんだからさぁ!!!」


「ぐぬっ、腕の長さと力で負けるなら――こうだっ!! へへーん、これで取れないでしょーー!!」


「ッッッ!? ひ、卑怯だぞゆらぎ!? 胸の谷間にしまうなんて!!!」


 真玄が止めるより早く、ゆらぎはワイシャツの胸元のボタンを外し飴をたわわな巨乳の谷間にむぎゅっと隠したのであった。


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