第45話「はつたいけん?」


 真玄が慌てて選んだ部屋の内装は、偶然にもゆらぎ好みになってしまったのかもと彼は感じた。

 お姫様気分の天蓋付きのキングサイズベッド、お洒落なガラステーブル。

 取り敢えず二人が座ったふかふかのソファーには、ピンクのハートのクッションが。


(はっはっはっ、もう笑うしかなくない?? 前世から受け継ぎしエロゲ脳が覚えてるよ?? この部屋ってさっきの朱鷺先輩の一夜限りの純愛ラブラブエロイベントの時と同じ部屋だよね??)


 多くの部屋が似たような内装であろうが、真玄には不吉の予兆に思えた。

 不味い、本当に不味い、このまま初体験の流れだと彼女は思ってるかもしれない。

 どうしてこの中に逃げてしまったのかと彼が後悔し始めた一方で。


(ふあああああああああああっ!! こっ、これからシちゃうの本当に!? まだ心の準備が! で、でも氷里くんが求めるなら……って、ああああああああああああああああああ!!! 下着!! かわいい下着履いてきてない!! う゛う゛っ、こんな事になるんならもっとメイクを、それに香水もっ、ああっ、髪も――)


 こんな状態で初体験をするのか、まだまだ心も体も準備が足りないとゆらぎは怖じ気付いた。

 しかし同時に。


(で、でもっ、男の子はこういう時止まらないって聞くし、氷里くんだってここで我慢するのツラいだろうし! ――可愛がってくれるかな、私の体で……喜んでくれるかな、わ、わたっ、わたしのおっぱいをひょうりくんがいやらしいもくてきですったりもんだり……、そ、それだけじゃなくてあのとってもおおきくてふといあれがわたしの――――)


 想像してしまう、脱がされ全裸になった己が彼によって優しくベッドまで運ばれ。

 情熱的な口づけと愛の言葉をきっかけに、激しく愛される光景が頭に浮かんで消えてくれない。

 もしそうなったら、否、これからそうなるのかもしれなくて。


(ど、どどどどどどどどーしよう!! きす! きすのやりかたなんてしらない!! わたししらない!! めをとじればいいの!? どこでこきゅうするの! おっぱいもまれるときどーしておけば!? それからはじめてはいたいって――――)


 心臓がどっくんどっくんばっくんばっくん、ゆらぎの視界はぐるぐると、ごーごーと耳鳴りまでして気がする。

 全身が火照って雨で肌に張り付いた服が鬱陶しい、でも脱ぐのが怖くて、恥ずかしくて。

 もじもじしていると、トイレにも行きたくなってくる。

 ――と、彼女が極限状態に陥り始めた時であった。


「…………ゆらぎ」


「ひゃ、ひゃい!! なんでせう!!!」


「緊張しないで、今日のこれは見回りの生活指導の先生に見つからないための緊急避難だから。――何もしない、誓って、決して、何もしないよ。だから服をドライヤーで乾かしてさ、少しばかり休んだら出ようか」


「…………ほへっ!? えっ、ぁ、あ、あのっそのっ! ――――しない? なーんにも??」


「ああ、しない、何もしない。僕らはただ雨宿りと緊急避難として来ただけだから、ね?」


「………………あっ、はい……」


 ゆらぎは己の意識過剰に気づき、羞恥心で死にたくなった。

 穴があったら入りたい、今すぐトイレに立てこもりたいのに生憎とこの部屋のトイレはガラス張りで入ることすら躊躇する。

 真玄は安心しつつ、対面のソファーに座ったままじもじとする彼女の姿に。


(…………くっそおおおおおエロいッッッ!! 雨で服が透けて張り付いておっぱいの形が出てたりさぁ!!! っていうか髪がおでこや首に張り付いてるのも色気がやべええええええええええええ!!! …………うん? あれ??)


 真玄は唐突に既視感を覚えた、この構図どこかで見た来もする。

 どこだどこだ、不安に駆られて慌てて思い出すと。


(これさぁ……、マスっちの純愛の方のイベントであったよねぇ!! この雨に濡れた後のこの構図、このあと服着たままシャワーでセックスするシーンの前振りだったよね!? なんで!? なんで僕らがこうなってるの!? どうしてだよおおおおおおおおおおお!!!)


 世界がセックスしろと囁いている、と真玄は怯えながらゆらぎの方を見ると。

 彼女は寒そうに震えており。


「…………はぁ、じゃあ僕は後ろ向いておくからさ。シャワー浴びて暖まってきなよ」


「そ、それはありがたいんですけどねぇ……ちょーっと、ほんのちょっと問題が発生してましてですねぇ……」


「問題? いったい何が――」


「――れ、そうなんです、――が、――――うなんです」


「え? 何て??」


「ううっ、お、おしっこ漏れそうなんです!! ほっとしたら腰が抜けちゃって、でも漏れそうで動けないっていうか助けてえええええええっっっ!!」


「マジでッッッ!?」


 真玄は焦った、ラブホとはいえソファーに座ったまま漏らすのは迷惑行為であろうし。

 何より、実際に漏らしたときの彼女の精神的ダメージを考えた場合――。


「くっ、脱げぇ!! 今すぐ脱――いや僕が脱がす!!! すまないけど我慢してくれ!!!」


「ちょ、ちょおおおおおおっ、上は関係ない関係ないって!!! なんで脱がすの全部脱がす必要なんて――」


 真玄はゆらぎの服を脱がすべく、襲いかかったのであった。


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