第42話「ホ別5」
イエスノー枕騒動の翌日から、何故かゆらぎが肉食獣の目をするようになった気がするが気のせいだろう。
真玄はそれより、校内の女子達の空気が緊迫し張りつめているのが気になっていた。
険しい表情をしているのはゆらぎも同じで、継奈や他のクラスの女子達と何かを話し合っている。
――そんな中、男子である真玄といえば。
「え、真玄知らねーの? しゃーねーなー、教えてやるから唐揚げ一個くれよ、もしくは大チキンからあげを奢るのでも可」
「それはちょっとボリすぎだよ素丸、大チキンからあげは自分で買いなー、例の噂はマスっちに聞くから」
「自分ですか? 自分に聞くなら大チキンからあげは必須ですね」
「君ら大チキンからあげ好きすぎない?? そりゃあ我が校の食堂の大人気名物メニューだけども」
今日は男三人で昼食を、と真玄は素丸、益荒男と食堂に来ていたのだった。
真玄は唐揚げカレーを、素丸は麻婆豆腐を、益荒男は肉うどん定食を選び。
食べながら、女子達の空気について話していたのである。
「――お、もうすぐ揚げたてだってよ! とっとと食って買いに行こうぜ!」
「いいねぇ、揚げたてで油ぎっとぎとにさ、粉コショウたっぷりで食べるのが好きなんだよ」
「自分はケチャップ派ですね、それにしてもフライドチキンより大きい肉厚の唐揚げを二百円で買えるなんて……なんて安いんだ! お嬢様も食べればいいのに残念で仕方ありません」
「ゆらぎや護士木さんも食べないよね、やっぱカロリーの問題かなぁ……あ、それよりとっとと女子達がなんでピリピリしてるか教えてよ」
「――――ホ別5だ、しかも相方持ちらしい」
「なるほどなぁ……そりゃあピリつく訳だ」
真玄に同意するように、素丸と益荒男も頷いた。
三人は大チキンからあげを買いに行き、席に戻ると再び話題に戻る。
――勿論の事、大チキンからあげを食べながらであるが。
「うまうま、いったい何処の誰がホ別5で体を売ったんだい?」
「それがなぁ、三年の先輩らしい。はーマジうめぇ」
「同じ部活の一年も誘ってやったらしいと聞きましたっす……うまっ!」
「なら、二年でやってる奴が居るかもかぁ……どーりで彼氏持ちを筆頭に臨戦態勢な訳だ」
「彼氏持ちだけじゃないぜ、天野先輩も激オコだ」
「天野先輩の事は一年の自分もよく耳にします、何でもビッチだけど売りはしないとか。本職の人以外が売りをするのはセックスに対する冒涜とまで言ってるというのは本当ですか?」
「本当だねぇ、あの人ってドスケベだけどその分セックスには真摯だから」
益荒男にそう教えながら、真玄はおかしな話だと苦笑した。
だってそうだ、前世とはホ別5の主体が違うのである。
(なんで男が春を売って、女が買うんだい?? しかも売った男にカノジョが居たから女の子達が浮気者許すまじ、買った女も絶許ってなってるとかさぁ……)
しかも、この学校以外では前世通りなのだから余計に意味が分からない。
ともあれ、自分には関わりのない事だろうと真玄は今回の事態を楽観視していた。
朱鷺先輩が動いているし、その内に教師も動くだろう、ゆらぎにも関係のない事件であるし、と。
――だから。
「ところで君たちはどう思うっていうか、ホ別5で売るとして相手はどんな子がいい?」
「お、珍しいな真玄がそんなコト言い出すの、実際にそんな事しないとしてもちょっと考えちゃうよなー」
「ですね、こっちからすれば謎に貢がれてるようなものですし。なら余計にに相手は選びたいみたいな」
大チキンからあげを食べ終わった三人は、食後の暇つぶしとばかりに猥談を始めた。
――――彼らの死角となる席に、ゆらぎ、継奈、アリカの三人が座って聞き耳を立てているとも知らずに。
「じゃあ言い出しっぺの真玄から教えてくれよ、おまえホ別5ならどんな子に売れる?」
「僕としてはおっぱいの大きさはマストだね、最低でもゆらぎと同レベルは欲しい。それから……童貞臭いって言われるかもだけどウブな子がいいねぇ、恥ずかしがりながら提案されるのが好み」
(それ、雪城だな)(雪城先輩のことですね)
(…………もしかして私ですか!? そうなんですか氷里くん!? 誘われてます!?)
ゆらぎの目がギラっと輝いたのに気づかず、真玄は暢気に。
「じゃあ次は素丸ね」
「俺か、そうだな……胸にこだわりはないけど、やっぱ方言混じりで暗めの髪色が最低条件かな? カラオケで歌聞かせてくれるぐらいに歌ウマだとなおヨシ」
(それ護士木さんじゃ? まぁ言わぬが花か)(護士木先輩は歌ウマってお嬢様に聞きましたし、なるほど安井先輩はそうなのかぁ……)
(ウチ! ウチ実は歌上手い!! 信じてたよ素丸! でも……じゅるり、ホ別5あれば素丸が??)
継奈もまた獣の眼孔をしているのに、男三人誰も気づかず。
「最後は自分っすね、まぁ正直アリカお嬢様以外の女の子が思い浮かばないんで。ぶっちゃけ、今度そういうプレイ頼んでみようかなーって」
(――――益荒男、貴男の意志は受け取ったわ! 援交プレイ、やってみてのけましょうではありませんか!!)
「まぁカノジョ持ちに聞いたらそーなるよね」「んだんだ」
真玄は少しばかり、益荒男が羨ましくなった。
原作主人公の一人である益荒男は、真玄のように転生はしていないのだろう。
だからこそ、ヒロインであるアリカと素直に結ばれて。
「僕もそういう相手が欲しいなぁ」
「分かる、分かるぞ真玄! 欲しいよな俺らもそんな相手がよぉ!!」
(うーん、先輩方はもう少し周囲に目を……いや、ここは自分が一肌脱ぐべき??)
頼れるが困った先輩だと苦笑する益荒男であったが、例によってすぐ近くで炎を燃えあげんばかりに怒っている女子生徒二人に気づかず。
「…………氷里、くん、――――私の存在は??」
「そーまーるぅ…………ウチのことは??」
(あ、これ激オコですね? 南無阿弥陀物です氷里先輩、安井先輩)
真玄と素丸は、すぐそこに迫り来る危機にまだ気づいていなかったのである。
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