第40話「あべんじゃーず」
一週間後、器用かつ現実逃避に長けている真玄はともあれ、ゆらぎは忘れようとしてもピンクローター事件を忘れることができなかった。
むしろ、忘れようとする度に強く思い起こしてしまって。
そんな中であった、どうしても考えてしまう。
――――授業中、隣の彼の横顔をそっと眺め。
(氷里くんは……、私のことをエッチな目で見てくれてる、……んですよね?)
綺麗だ、可愛い、世界一とか彼の口から出てくるが。
ゆらぎとしては、未だに実感が沸かない。
……だって彼女の銀髪より、継奈の深い紫の方が艶やかでサラサラで綺麗に見える。
……だって彼女の顔より、アリカの方が小顔で可愛い印象だ。
……だって彼女の胸やお尻より、朱鷺先輩の方が大きいし形が美しいように思える。
(それに)
いつも、迷惑をかけっぱなしの自覚だってある。
ゲームばっかりやって、テストの度に勉強を教えてもらうし。
共同生活を送っているのに、家事の分担は彼の方が多い。
――気づけば性的なことに疎くなって、苦手で。
――人見知りの自分がクラスに打ち解けられたのは彼のお陰で。
――――こんな、こんな自分が。
(氷里くんが、好きになってくれる訳が……)
でも、でも、でも、でもである。
己が好かれていると、異性として見られていると、愛されていると、自惚れてしまいそうな出来事が沢山あった。
(私のコト、大切だって……、大事にしたいって、ずっと一緒に居たいからって…………うううううっ、いいの? 私……氷里くんに想われてるって、求められてるって、信じて、いいの――――?)
信じたい、確信が欲しい、心が物理的に見える訳じゃないって事は理解している。
何かが、ゆらぎは何かが欲しくて。
なので彼女は――。
「――そこでアタシを頼るなんて嬉しいわゆらぎちゃん!! 朱鷺お姉ちゃんがばっちりサポートしてあげる!!」
「放課後に空き教室で待っててくれって言われて何かと思えば……ウチも手助けするよ!」
「ゆらぎ先輩……、わたくしもお力になりますわ!!!」
「み、みんなぁ……ありがとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
ゆらぎは皆に頼ることにした。
親友である護士木継奈、えっちな事ならお任せ天野朱鷺、恋人とラブラブな後輩周防院アリカ。
彼女が考え得る限りの最強の布陣だ、これならば妙案がでるかもしれないと確信する程に頼もしくて。
「じゃあさっそく!! …………そ、そのぉ、私って氷里くんに好かれてるって思う?」
「え、ゆらぎちゃん今更?」「あー」「先輩そこからですか?」
「だってだってだってぇ、氷里くん絶妙に言わないんですよ!? 大切にするーとか世界一とか、そーゆー歯が浮くように口説くけど……一度も好きと愛してるとか言ってくれないんですよッッッ!!!」
「「「確かに」」」
三人はゆらぎの不安も理解できると、深く頷いた。
端から見れば、ゆらぎは真玄に大切にされていると一目瞭然であるが。
その中で、決定的な言葉を一度も聞いたことがない。
「そりゃー、私もですね、好きとか愛してるとか告白とかまだですし、恥ずかしくてそう簡単に言えませんけど……あそこまで色々誉めて、私のこと考えてくれて、一緒に居るって言ってくれて…………でもですよ? 年頃の女の子のパンツ見ても嬉しそう顔しないし、薄着だったら服着ろって注意してくるし、それりゃあ親しき仲にも礼儀アリだし当然かもですけども!!!」
「これは鬱憤たまってるなぁ」「氷里くんそういう所あるよね」「苦労しているんですねゆらぎ先輩……」
「もおおおおおおおおおおおおおッッッ!!! 私が好きならはっきり言ってくださいよおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!! 間違えてエッチな格好しちゃっても、エッチな玩具のことを知らずに質問しても、それっぽい雰囲気になってもキスひとつされずに有耶無耶にするしいいいいいいいい!!!」
氷里真玄という存在だけに非がある訳ではないが、同じ女の子として三人は心情的にゆらぎへ肩入れした。
だってそうだ、正直に言って彼がゆらぎに手を出してないのが不思議だ。
むしろ逆にゆらぎが襲いかかっていない事を、三人は感心して。
「ゆらぎはさ、よくやってるよウチが保証する。うん、頑張ってる、たぶん決め手に欠けてるというか……」
「そうですね、わたくしも氷里先輩の評判は耳にしておりますし、益荒男から聞いた話を加味すると……、いつゆらぎ先輩の魅力に転んでも不思議ではないかと」
「ちっちっちっ、二人とも甘いなぁ、アタシなら――押し倒させるッッッ!! 自分から押し倒す、告白するだけが肉食系で非ず!! …………己の肉体、精神に磨きをかけて相手から求めさせるッッッ!! これぞ我がスケベの秘訣!!! 真玄クンのようなタイプはこっちから押すより押させる方が効果的!!!」
「な、なんと!!」「――確かに」「流石は朱鷺先輩、説得力が違いますわっ!?」
空き教室に響きわたった朱鷺の力説に、三人は目を輝かせて感動した。
そんな三人へ朱鷺は満足そうに頷き、制服のシャツ、その胸元を開いて。
「ふぇっ!? せ、先輩なにしてるんです!?」
「おおー、これは派手でえっちな……ウチも買った方がいいのかなぁ」
「ふむふむ、勉強になります。清楚エッチな下着だけではなく派手えっちな下着もアリと……」
「その通りよアリカちゃん!! 常に見られていい触られていい、それでいて――脱がしたくなるような、エッチな下着をつけるべき!!」
「「「はい師匠!!!」」」
「――ゆらぎちゃんには、後でオススメの下着を教えてあげる、是非とも買って。そして…………この言葉を授けましょう」
ゲヒヒと妖しく笑う朱鷺は、リピートアフタミーと続け。
「どうか私にセックスを教えてください……、はい復唱!」
「ど、どどどどどうか私にィ!! セックキュを教えてくだたい!!」
「ダメダメどもって間違ってる、もう一度!」
「どうか私にッッッ!! セックスを教えてください!!」
「オッケー! じゃあもう一言追加で、その逞しい体で私を躾てください、好きなように染めてくださいっ! って腹から甘い声出して妊娠する気合いで言えッッッ!!」
「は、はいっ、妊娠する気合いで復唱しますッッッ!!!」
その日から、朱鷺による放課後ドキドキ蜂蜜授業(肉食編)が行われ。
一週間後、朱鷺オススメの下着が届いたゆらぎは決意と覚悟でそれを着て。
それから、もう一つ。
「この枕を持って行くと効果的……とは?? でもオススメされたからには効果ある筈!! いくぞー!!」
ゆらぎは以前のように、一度帰ってから真玄の部屋に再突入したのであった。
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