第39話「ピンクローター遠隔リモコン付き」
こうなったら自棄だと、真玄はベッドに座るゆらぎの隣に座って。
紙袋から、遠隔リモコン付きピンクローターの箱を取り出した。
彼女は箱から中身を取り出すと、手にとってしげしげと眺める。
「…………なーにこれ?」
「ふむ、ピンクローターという言葉に聞き覚えは?」
「ないけど……何に使うの? 重り? 玩具??」
「分類的にはジョークグッズとかかな? 販売的にはだけど」
「ジョークグッズ? 玩具ってこと?」
「率直に言うとさ、大人の玩具だね。基本的には女性のオナニーとか、セックスの時に使うって感じ」
「……………………え゛??」
ぴしりとゆらぎの纏う空気が固まり、かつ罅が入った音がした。
顔がぼっと首筋まで赤くなり、途端目が泳ぎ始める。
腰を浮かせて逃げ出しそうな彼女の肩を、真玄はがっしりと掴んで。
「ひぃっ!? ひっ、ひひひいひひヒョウリクン!?」
「まだ説明は終わってないよ? ――逃げられると思うなよ、君が始めたんだぞ」
「氷里くんの目がマジだ!? 私知ってる! 無垢な子に教える無知シチュで意味が分かって恥ずかしがる羞恥プレイする気なんでしょ鬼畜!!」
「もう鬼畜って言葉に動揺しないよ、それに……これからじゃあないか、今日は君が正しい知識を覚えるまで続けるからね?」
「~~~~~~ッッッ!?」
あ、これ恥ずかしさで死ぬやつだ、とゆらぎは理解した。
弱った真玄を見て、ついうっかり調子に乗ってしまったが。
生き地獄がこれから始まるのだと、ガタガタ震え始めたその時。
「じゃあ用途が理解できた所で、何処にこれを当てて快楽を得るか覚えようね」
「ちょっ、どーしてッッッ!!! どーして胸に!!! や、やめろおおおおおおおおおおお!!!」
「だってオナニーとセックス用だよ? 上半身だとおっぱい、特に乳首に当てて使うに決まってるじゃん。じゃあ下半身は――」
「おわああああああああああああああっ!? セクハラにも程がある!? 私のSAN値がゼロになる!? もう分かったから!! 理解したから! もうそこに当てないで!! 服の上からとはいえ恥ずかしすぎる!!! 終わり! はいもう終わりぃ!!!」
「え? まだ中に入れてないよ?」
「中に!? どういうコトぉぉぉぉぉぉぉ!?」
ゆらぎは絶叫した、スカートの上から股間の上に当てられただけで、もう恥ずか死しているのに。
更にその先があるなんて聞いていない、しかも憎たらしいことに真玄は平然とした顔で行っているのだ。
先ほど見せていた、弱々しい姿はどこへと彼女は遠い目をしたが。
「仕方ないなぁ、じゃあ一緒にAV見ようか。探すから待っててよ」
「一緒にっっっ!?」
「あ、そういう気分になったら僕に構わず実践して使ってくれていいよ」
「しない絶対にしないいいいいいいいいい!!!」
そうして、幾つかのアダルトビデオを二人は一緒に見たのだが。
初めは薄目を開けてチラチラと見ていた彼女は、気づけば目を大きく見開いて。
「ええっ嘘!? そんな、外で!? このリモコンってそういう??」
「うわっ、ぇ、そ、そそそっ、そんなに…………」
「うぇぇぇぇぇ!? 何個も!? 後ろにも!?」
「………………ごくり」
終わる頃には、己の手の中のピンクローターと真玄の手にあるリモコンに視線を行ったり来たり。
口はわなわなと震え、しっとりと濡れた視線を彼女は彼に向けた。
だが彼は、にっこり笑ってそれを無言で拒否し。
(う゛う゛っ、恥ずかしい、恥ずかしいけどおおおおおっ、ここで踏み出すっ、今っ、ちょっとだけ踏み出す! 私頑張るもん!!!)
(色即是空……ぶっちゃけ股間がスッゴイ痛いけど今の僕に性欲など存在しない、どんな言葉、姿でも通用しないよ……!!)
(今っ、今の私にできる精一杯!!!)
ごっくんと唾を飲み込み、上擦った声でゆらぎは勇気を言葉にした。
「ま、まだピンクローターの使い方が分からないナー、氷里くんに実地で教えてもらわないとぉ、分からないなー?」
「ッ!?」
瞬間、真玄は息を飲んでゆらぎを食い入るように見つめた。
抱きしめて、キスしたい衝動を必死に耐える。
だってそうだ、今の彼女は。
(ズルい、それはズルいってゆらぎ!?)
女の子が恥ずかしがっている姿は、どうしてこんなにも股間に悪いのだろうか。
不安そうに小さく揺れる眼、白い肌は朱に染まり汗ばんでいる。
心細さか左腕で己を抱きしめ、結果として乳の下に回しているから巨乳を押し上げる結果となり。
(それでさぁ、ちょこんと僕の服の裾を指で摘んでるの卑怯だよ??? これが僕じゃなかったら問答無用と押し倒してるよ??? ピンクローターの使い方だけじゃ済まないよ???)
(な、なんか言って~~~っ、はよっ、はよなんか言ってよ氷里くーーーーんッッッ!!! はずかちっ、はずかちっ!!! 死んじゃう!!!)
二人は無言、実に微妙すぎる空気が流れる。
真玄、必死に耐えていて動けない。
ゆらぎ、恥ずかしすぎて動けない。
――五分、十分と時間が経ち、そして。
「ンンッ、これで理解したかね! じゃあピンクローター持って帰ってよ!」
「そ、そうだネっ!! 今日の所は持って帰って寝――、いやいやいやっ、処分しておいて氷里くん! 私は帰って寝る、寝るから!! うん、晩ご飯はいいから、じゃあねまた明日……!!」
「オッケー、また明日ね。これは責任を持って捨てておくよ」
心のキャパ容量が限界だった二人は、ピンクローターなどなかったと。
今の遣り取りを、綺麗サッパリ記憶から消すことを選んだのであった。
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