第38話「お嬢様流プレゼント」


 真玄の生AMSRというイベントに、ゆらぎは日々の楽しみが、潤いが増えたと喜んだ。

 そんな次はいつやってくれるのだろうか、とウキウキの彼女に数日後。

 アリカからニヤニヤとした笑みで、プレゼントと称し小さな紙袋を渡されて。


「これを僕と一緒に?」


「そうです! 絶対にお家で、一緒に開けてって言ってましたね。何が入ってるんでしょうか、楽しみだなぁ……可愛いものだといいなぁ」


(――――なーんか引っかかるんだよね、少しばかりゆらぎの態度が不自然っていうか)


(信じてるからねアリカちゃん! 一緒に開封すれば仲が深まるって、信じますからね!!! ……でもホントに何が入ってるんでしょう、仲が深まる何かとは??)


 そんな裏事情など真玄が知るはずもなく、ベッドの縁に座ったゆらぎから紙袋を受け取って。

 持った感じ、そこまでの重さはないが軽すぎるという事もなく。

 彼は視線で、開けてもいいかと彼女に問いかけた。


「ささっ、開けるんだ氷里くん! 私も超超超超気になってるんです!!!」


「何が入って………………ッッッ!?」


「ちょっ、なんで戻したんです?? 気になるから早く出してくださいよーっ」


「正直、出したくないんだけど??(うわあああああああああああああああ、なんでっ、なんでこんな危険物が入ってるんだよッッッ!!!)」


 真玄は今すぐ叩き壊して、ゴミ箱にシュート超エキサイティンしたい衝動に駆られた。

 どうして、どうして。


(なんで遠隔リモコン付きピンクローターが入ってるんだよおおおおおおおおおお!!! なんてもんプレゼントしてんのお嬢様!?)


 恐らくゆらぎは存在を知らないだろう、今なら中を見せずに処分する事ができる。

 だが、それで本当にいいのだろうか。

 悩む真玄であったが、同時に別のことを気づいてしまい。


(あーーーーっ!! 思い出した!! 純愛ゲーの方のイベントでアリカがマスっちと野外でロータープレイしてたじゃん!! は?? こっちにも影響あるのそのイベント!? っていうか顔見知りになっちゃったし地味にそういう事があったって知りたくないんだけど!?)


 恐らくは、そっちで二人の仲がより深まったからゆらぎにもオススメするという事態になったのだろうが。

 しかしそんな推測なんて今は無意味、精々があの主従カップルに口頭で注意するぐらいだろう。


「ねーねー、早く見せてくださいよー、きーになるぅ、ねーねー、みーせてっ!」


「駄々をこねるんじゃありません、これはダメです、君には悪いけど捨てるまであるよ」


「捨てる!? それ一応私宛のアリカちゃんからのプレゼントなんですけど!?」


「謝罪はしよう、君にも周防院さんにも。――これは君に見せられない、それが答えだ」


 頑なな態度の真玄に、ゆらぎは気づいてしまった。

 これはアレだと、えっちな何かだと。


(そ、そういうコトなのおおおおおおおおお!? もおおおおおおおおお!! ちょっとアリカちゃん!? 何してくれてんのぉぉぉ!? で、でもグッジョブ!! 絶好のチャンス生かしてみせるっ!)


(しまった!? ゆらぎに勘づかれた!? どうする、強制突破で壊すか? それとも――)


(このままだと絶対に有耶無耶にされるっ! なら……)


(――隠すのが、遠ざけるのが本当にゆらぎの、ひいては僕の死亡フラグに益があるのか?)


 彼が躊躇ったその時だった、ゆらぎは紙袋を掴む真玄の手を己の両手で包み込み。

 上目遣いキラキラーと見つめる、なお無意識で胸チラしており彼は余計に目が離せなくて。


「ゆっ、ゆらぎ!?」


「――私は氷里くんを信じてる、氷里くんなら……私のコトを一番に考えてくれるって、信じてます」


「…………ねぇ、そうやれば僕が教えるって思ってやってるでしょ」


「ナンノコトダカナー?」


「棒読みじゃんか!? だいたい君ねぇ、僕は君が思うような王子様じゃないんだよ? ちゃんと性欲も情けない所もある普通の男子高校生なんだよ?」


「ちなみにどの辺が?」


 興味津々な顔で問われた真玄は、この際だから言っておくべきだと決断した。

 彼は彼女から視線を反らし、俯いて。


「君に嫌われたら(殺される)と思うと、不安でしかたないし。君って綺麗で可愛くて、その上でエロい体してるから必死にエロい目で見ないようにして辛いんだ、それに……、えっちなコトを教える事でゆらぎが(変態に)変わっていってしまう事が怖いんだよ……」


「氷里くん……」


 嗚呼と声が漏れそうになり、ゆらぎは必死に我慢した。

 胸が、心臓がきゅんきゅんとときめき過ぎて痛い。

 普段弱みなんか決して見せない彼が、自分だけに素直な気持ちを、不安を聞かせてくれている。


(うわっ、うわああああああああ!! 意識されてる!? やっぱ私、氷里くんにバッチシ意識されてるってコトぉ!! ヤバイ、心臓のドキドキが……ううっ、優越感と恋心が爆発して情緒が壊れるッッッ!!!)


 瞬間、彼女は本能のままに彼に抱きついて。


「うわっ、え、ゆらぎ!?」


「……教えてください氷里くん、一緒に、丁寧に、でないと――」


「で、でないと!?」


「――ふふっ(何も考えてないけど、とりあえず笑って圧かけとこーっと)」


「何ソレ!? なんで何も言わないの!?」


 ヤバイ、どうすればいい、真玄は脳をウルトラ超高速回転させ。

 出した結論を、実に苦々しい顔で。


「…………わかった、降参だ、ちゃんと教えるよ」


「やったっ!! よろしくお願いします氷里先生!!」


 という事で、ピンクローター(遠隔リモコン付き)の存在と使い方を教えるになったのであった。


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