第37話「カウントダウン、ゼロゼロゼロ」


 真玄が継奈から恋愛相談を受けた、その日の深夜であった。

 原作的にはバカエロゲー主人公である天野朱鷺と、純愛ゲーヒロインである周防院アリカに相談したゆらぎであるが。


『ゆらぎちゃん、声が好きって情報はかなりのアドバンテージよっ!! 耳元で囁きなさい、どんどん囁いて脳をとろけさせるの!!! えっちな言葉だとなおヨシ!!!』


『と言っても、ゆらぎ先輩はそういうの苦手ですわよね。なら――オススメの教材がありますわ!! ぐたい的にはこのサイトの……』


『どれどれアタシにも見せて? あー、これね! これ系ならうってつけよね!! 多少は恥ずかしいだろうけどガンバ!!!』


『効果はわたくしが証明していますわ、益荒男くんも大喜びで――』


『え、何言ったの聞きたいっ! ちょっとアタシに教えて! ゆらぎちゃんもよーく聞いておくのよ、これは勉強、たかがエロと侮るなかれッ、エロも勉強よ!!!』


『はっ、はい!!』


 という訳で、ゆらぎは教えて貰った物を教材とし。

 大急ぎで知識を蓄え、そして今だ。

 いつもの様に寝る直前まで真玄の部屋でゲームをし、一度隣に帰ったあとで彼が眠った頃を見計らって再び来訪。


(お邪魔しまーす、持っててよかった氷里くんチの鍵! 後は起こさないようにベッドの中に潜り込んで……)


(――――物音? 鍵は閉めたよね、じゃあゆらぎか、スマホでも忘れていったのかな?)


(寝てる? 寝てるよね、寝てるみたい……よ、よしっ、そーっと、そーっと)


(ッッッ!? ベッドの中に入ってきた!? ナンデ!? 夜這いされてるナンデええええええええええええええええええええええ!?)


 真玄は慌てた、今すぐ起きて追い返すべきか。

 それとも、何をしてくるか判断してから対処しても遅くはないのか。

 彼は寝返りをうつフリをし同時に薄めを開けて観察、カーテンの隙間からの月明かりでゆらぎの姿が浮かんで。


(せ、セーーーーーフッッッ!!! 圧倒的もこもこ!! ベビードールとかエロ下着じゃなくてよかったぁ!!!)


(ひゃっ!? お、起きたっ!? 氷里くん起きちゃった!? …………セーフっ、よしよしよーし起きてないっ! うっしゃいくぞーー!!!)


(ゆらぎとはいえ、マジ夜這いの場合は気合い入れて男受けする格好をする筈っていうか、いつものパジャマだし……添い寝でもしに来た??)


(起きてない、起きてない、そーーっと、そーーっと、それで……)


 ゆらぎは真玄の隣に潜り込み、ぴとっとくっつく。

 そして、彼の耳に口を近づけ。


「氷里君は、わたしが段々好きになーる、好きになってたまらなくなりまーす…………うわはずっ、起きてる時に言えないよコレっっっ!」


(睡眠学習っていうか暗示っていうか、たぶんAMSRだこれぇ!? リアルAMSRされてるっ!?)


「すーきっ、すきすきだーいすきっ、氷里くんも起きたら、こ、告白したくなーる、ゆらぎすきだよーって言いたくな~~るっ」


(うーん、仮にタイトルを付けるとしたら。『告白待ちの巨乳クラスメイトの催眠誘導夜這い』って感じ? 十八禁のやつなら、もっと長くなりそう…………じゃなくて!! え、これすっごい気まずいんだけど!? 耳が幸せなんだけど気まずすぎるううううううううううう!!!)


 相手が寝ているときなら、聞かれていないし素直に言える。

 乙女心全開で、勇気を振り絞った結果……などと他人事であれば、これが販売しているAMSRのボイスドラマであれば喜んだだろう。


(これ今起きて止めたら告白されたのと同じだよねええええええええ!! 止められないっ、止められないよ!?)


 まだだ、まだ止める所ではない。

 真玄は逃げ出したいのを、ゆらぎの口を強制的に塞ぎたいのを必死に我慢して待ちの姿勢を選択した。


「えーっと、それから、朱鷺先輩とアリカちゃんオススメのは……」


(その二人が関わってんのおおおおおおおおお!? ウッソおおおおおおおっっっ、ま、不味いっ、早く止めないとマジでヤバいかもしれない!!!)


「氷里くんは私の声を聞くだけで――――」


(……………………いやマジで何してくれてんの朱鷺先輩? 明日、一発殴るからな?? 周防院のお嬢様はマスっちに言いつけるからな?? マジで何してくれてるの?? ゆらぎにガチのエロAMSR台本渡してるとか許されざるよ??)


「――これ、何の意味があるんでしょうか。まあいいや、続きをば――――」


 慌てふためいていた真玄の精神が、すっと冷え怒りで熱くなった。

 ゆらぎの世界一可憐な声で何を言わせているのか、原作ゲームでそれ以上に卑猥なのを聞いた事があるとはいえ実際に生で聞くのは違う、違うのだ。

 そう、彼が静かに拳を握りしめたその時。


「10、9、8、7……」


(ん? なんだ??)


「5、4」


(ま、まさか――)


「3、2、1、0、0、0、そーれ、0、0、0、0、0、0。……はーい、頑張りましたねーっ(でも何を頑張ったんでしょーかコレ、あとで氷里くんに聞いたら教えてくれますかね??)」


(…………………………よし、今起きたコトにしよう、そうしよう!!)


 真玄はブチ切れた、この無知なムチムチ銀髪美少女に徹夜で正座させ、説教しないといけない。

 ならばと彼は寝返りをうつフリをし、ゆらぎの手首を掴み。


「ねぇゆらぎ、ちょっと安眠妨害じゃない? 突然のカウントダウンは何だい? ちょーっと僕に教えてくれないかなぁ??」


「ひぇっ!? お、怒ってます??」


「ほら起きてベッドから起きて、ね? 降りろ、正座しろ? 僕は怒ってるからね? 朝まで耳元で囁いてやるから覚悟しておいて、取りあえずさ、さっきのカウンドダウンの意味を教えて貰おうか。ちなみに僕は知ってるから間違えたら――――正しい知識を教えた上で覚えるまで復唱してもらうし、出来なかったら罰ゲームとして、色々と耳元で囁くから…………覚えてるよ? 君ってば僕の声をイケボって言ってたよね? ん? なら耳元で囁かれて嬉しいよね??」


「………………ご、ごめんさーーーーいっ!」


 その日、真玄は有言実行で朝まで説教AMSRを完遂したのだが。

 翌日の夜から、何故かゆらぎが添い寝するべく寝る直前からスタンバイ。

 イチャイチャ系の台本を渡してきて、AMSRしてくれとせがんで来るのであった。


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