第36話「恋愛相談」



 真玄のやるべき事が全て判明した、とはいえ劇的にゆらぎとの関係が変わったりしない。

 盲信を解除するのが第一優先事項とし、いつも通りに日常を送るだけだ。

 そう決心した次の日であった、彼は放課後すぐに継奈によって屋上手前の踊り場に連れてこられ。


(素丸もそうだったし、二人はこの場所で逢い引きとかしてるのかな??)


 ともあれ珍しい事もあるものだ、いつもなら護士木継奈が頼るのは真玄ではなくゆらぎ。

 男手が必要な事態でも、真玄ではなく素丸が優先だ。

 仲がいいとはいえ、その二人を差し置いて真玄が選ばれるとはどういう事だろうか。

 ――もしや知らない所で怒らせていたのか、と彼が焦り始めた瞬間であった。


「その、ね? 相談したい事があるんだけど……」


「ほうほう、相談と」


「それでね? その……素丸と、ウチの事なんだけど」


「………………もしやそれ、素丸の家に行った時にトラブルでもあったのかい?」


「なんで素丸の家に行ったの知ッッッ!? い、いや氷里くんなら素丸が言ってても仕方がないかぁ」


 なるほど恋愛相談か、と真玄はほっとした。

 怒らせた訳ではないし、継奈なら素丸のようにエロ本を預かってくれと言い出す筈もなく。

 二人がどうなったかも聞きたいし、と彼は色々と質問してみる事に。


「んでさ、何があった訳? 素丸が君に無体なコトをしたのかい?」


「あー、そういうんじゃないんだけどぉ……」


「なるほど、素丸の親御さんへの挨拶を失敗したとかかい?」


「挨拶はうまくいったって自負してる、うち事前に根回ししてたし」


「なるほど?(ね、根回し!? あれっ!? これ思ったよりガチなやつだよ素丸!? 大丈夫かい素丸!? もう逃げられないやつだよ素丸!?)」


 真玄は、これ放っておいても結婚まで行くんじゃ……と喉まで出掛かった。

 しかしギリギリで飲み込み、更に質問を続ける。


「ちょっと話が見えてこないな。素丸と何があったんだい?」


「それがですねぇ……何があったというか、何もなかったというか……」


「素丸ぅ……っ!!(お前……必死に耐えたんだな!? 二人っきりでアプローチされてさ、誘惑に打ち勝ったんだな!!)」


「氷里くん分かってくれる!? 何も! 何もなかったんだよ!! せっかくおニューの下着きてってさ、行く前にシャワーも浴びて、コンドームだって持って行ってたのに!! なのにアイツ逃げやがったんだ!! 氷里くんからも後で言ってやって! 男らしく勇気を出せって!!!」


「くっ、そういうコトなら喜んで言っておくよ……(頑張ったんだな素丸、正直時間の問題で逃げられないとしても……、告白イコール人生墓場みたいな状態は避けたいよなっ、叶うなら自分の意志でだもんな!!!)」


 素丸への同情で泣きそうになりながら、真玄は同時にエロ本を託された本当の意味を知った。

 継奈もまた肉食獣であった、そしてそれは素丸も少なからず察していた筈。

 ならば、もしエロ本が継奈の来訪時に存在し、見つかっていたなら。


(――僕はエロ本を預けた君を許すよ素丸、そして応援する、同士としても……!!)


 後でマックでも奢ろうと、そして適度に受け入れないと逆レされると校内アンケートで出ていたと言っておかなければ。

 そう友情と使命感に燃える彼に、不機嫌そうにしていた継奈はころっと表情を変えて。

 瞬間、真玄は嫌な予感に襲われた。


「そーいえばさ、氷里くんってゆらぎの何処が好きなワケ? ウチとしてはゆらぎの親友なんで、ちゃーんと聞いておきたいんだけど?」


「……なんて??」


「聞いてないフリしたって無駄だよーん、んでぇ? ゆらぎのドコが好きなワケ? 中々手を出さないのはなーんで? ちょっと教えてみ??」


「君の相談じゃなかったっけ?」


「ほら、男心の参考にするから! 決して興味本位じゃなくて、ゆらぎを応援する時の判断材料にする……みたいな??」


「…………はぁ、仕方ないなぁ」


 ここでゴネるのは後々の評判に関わりかねない、最悪、ゆらぎ意外の女子にも伝わることを考えると。

 素直に言うのが一番だと、真玄は判断した。

 ――――屋上の踊り場へ続く階段、その側にゆらぎが隠れているとも知らずに。


「まず最初に浮かぶのは……顔いいよね単純に、銀髪って所もなお好み」


「ほうほう! それでそれでっ!!」


「実はスタイルも好き、他の子に失礼かもしれないけど世界で一番だと思ってるね(だってメインヒロインだし)」


「ほほう!! これは中々に好感度高いって感じがするねぇ!!! もっと聞かせて!!」


「他にも!? うーん、何を言おうかなぁ……」


 せがまれて真玄は悩んだ、実は一番好きな所がある。

 前世から好きというか、彼がイラストレーター以外の理由で原作に手を出した理由があるのだ。

 それは。


「――――声」


「声?」


「実はさ、ゆらぎの声ってめっちゃ好きなんだ。そりゃあね、ゆらぎは頑張り屋で見てて僕も頑張ろうとか思うし、いつも楽しそうにゲームしてる所とか、良くも悪くもピュアな所とかも好きなんだけど…………身体的特徴の中で一番好きなのは、声だね」


「なるほどぉ(あれ? 氷里くんのガード堅いって話をゆらぎからよく聞くけど、超両想いってコトぉ??)」


「いいかい、ゆらぎの声はとても素晴らしいんだ。透明感と甘さがウルトラハイレベルで両立してて、叫んでも可愛いっていうか、実はあの声で囁かれるだけで抱きしめたくなるんだけど、僕的には将来有名声優まであるんだけど独占したい気持ちも強いっていうか――――」


「めっちゃ語る!?(聞いてるゆらぎ!? アンタ大チャンスじゃん!!)」


「あ、ごめん。ちょっと熱くなっちゃったね、基本的に誰にも話さない事だから、つい……」


 多分、原作真玄も同じ理由でゆらぎに目をつけたのだろうと勝手に思いながら。

 全てを聞いていたゆらぎが、朱鷺先輩とアリカお嬢様に相談するべく走り出したのに気づかなかったのであった。


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