第32話「フェラチオの練習」



 数日前の朝の一件以来、真玄は悪寒を感じる事が多くなった。

 振り向けばゆらぎが居て、やはり許されてはいないのではと怯えるも彼女に変わった様子はなく。

 暫くは何も起きないで欲しい、彼は切にそう願ったが。


「ねー、やっぱフェラチオの練習って必要?」「天野先輩に聞きなさいよソレ」「でも浮気しないように搾り取るのに必須とか」「逆レしてもそれでテクが凄ければ両想いになるって――」


(ウチの女子達はさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 聞いてないよな? ゆらぎに聞こえてないよな!?)


 昼まで授業はあと一つの休憩時間、教室の隅の女子の会話で真玄は非常に慌てた。

 いつも通り表情こそ冷静だが、額に冷や汗が浮かんでいる。

 ちらりと隣の席のゆらぎを見れば、継奈と談笑中で気づいていない様子。


(どうかこのまま気づきません様にっ! 頼むッ、頼むから気づいてくれるなッッッ!!)


 真玄は次の授業の予習をするフリをして、神に祈った。

 待つこと、五秒、十秒、三十秒、ゆらぎは変わらず継奈と雑談に花を咲かせている。

 よかったと胸をなで下ろした瞬間であった、教室のドアをばーんを荒く開けて素丸が飛び込んできて。


「おい聞いたか真玄! 今女子達の間だでフェラの練習が流行ってんだってよ! 俺とおまえで練習台に立候補しようぜ!!!」


「素丸君さああああああああああああああッッッ!」


「はいはい素丸ぅ? ちょーっとウチとお話しよっかぁ、じーっくり、じぃーーっくりとお話したいなぁ……」


「ひぇっ!? なんで怒ってるんだよ護士木!? あだっ! あだだだだだッ、アイアンクローやめてぇ!!」


「ねぇねぇ氷里くん、フェラチオって何です? 私もフェラチオの練習とやらをしてみたいです、教えてくださいっ!」


(素丸のばっきゃろおおおおおおおおおおおおおおお!!! お前なんて護士木に絞り取られて死んじまえええええええええええ!!! つーか護士木! とっととコクって恋人になって捕まえておいてよおおおおおおおおおおおおお!!!)


 実に身勝手、ブーメランが帰ってきそうな事を思いながら真玄は頭を抱えたくなった。

 クラスメイト達はニヤニヤしながら真玄とゆらぎを見守り、アイアンクローからヘッドロックのコンボを素丸に決めている継奈でさえ興味深そうに見ている。

 だが真玄とてもう慣れた、こんなピンチなど何度も乗り越えてきた故に。


「家に帰ったら教えるよ」


「えー、気になる今教えて欲しいなーなんて?」


「なら護士木に教えて貰えばいいんじゃないかな、女子の流行だし僕より詳しいかもしれないよ?」


「あ、ウチは絶対に教えないから氷里くんに教えてもらってよゆらぎ」


「だって、継奈もそう言ってるし。これはもうババーンと私に教えるべきでしょっ! ね、フェラチオってなーに? 練習ってどうやってするの? 安井くんが練習台になるとか言ってたし二人一組でするスポーツか何か?」


「うーん、それはとても難しい質問だね。人によってはスポーツって認識かもしれないし」


 とりあえず真玄は誤魔化す事にした、だってそうだ。


(ゆらぎは僕に恋してるんだし、うっかり答えて発情されたら死亡フラグが立つかもしれないだろ!! 答えられないよ! せめて二人っきりの時にしてよ!!)


 この場でフェラチオが何かを教えるのは、ゆらぎが肉食系女子に変貌する可能性が高い。

 最悪、朱鷺先輩が現れ唆しこの教室内で真玄の真玄をゆらぎする可能性すらある。

 だから……絶対に引けないと真玄は堅く拳を握りしめたのだが。

 ――――一方で、それを見ていた継奈と素丸は。


「(ねぇ素丸、このじれったい二人をウチらでアシストするべきだよね? ねっ?)」


「(護士木お前さぁ……いいなソレ、乗ったぜ!!)」


「(じゃあさじゃあさぁ、今すぐアイスとか棒系の食べ物買ってきてよ)」


「(パシらせる気かよっ!? ――だが運がいいな護士木、俺の今日のオヤツは……バナナだッッッ!!)」


「(ナイス素丸!! 後でキスしてあげるっ!)」


「(だろだろぉ………………うん? え、キス??)」


 素丸は頭の上に大きなハテナマークを浮かべたが、継奈はそれを無視して彼の鞄を漁りバナナをゲット。

 すぐさまそれを持ち、ゆらぎの眼前に差し出した。


「ヘイゆらぎっ! ウチからのプレゼントだよぉ!! このバナナを使うんだ!」


「ちょっ、おいッッッ、護士木!? 何してくれてんのおおおおおおおおお!?」


「バナナを使うってコトぉ?? 氷里くん、これどーやって使うんです??」


「そ、それはだなぁ……」


 継奈と素丸を睨みつけながら、ひっしに笑顔を保ちつつ真玄は考えた。

 もはやこれは教える流れでしかない、だがここで外圧に負けてなるものかと。

 このクラスどころか学校中に何となく流れる、真玄とゆらぎを恋人にしようとする流れに逆らうのだと彼は燃え上がった。


「――――ちょっとはしたない食べ方だから、僕としては家で食べることをお勧めするよ」


「食べる? え、バナナの食べ方が流行ってるってことです??」


「バナナアートの一種さ、今、一部で流行して「騙されるなゆらぎぃ!! 氷里くんはウソをついてる!! フェラチオを教えたくないから誤魔化してるんだ!!」


「むぅ~~~~っ、氷里くん、ちゃーんと教えてくださいよっ! 教えてくれないとぉ…………それっ!! 抱きついて離さないの刑だガハハハハっ、このまま授業を受けたくなければ私にフェラチオを教えるがよーーいっ!!」


(なんで真正面から抱きついて、僕の胸板に顔をすりすりしてんだよゆらぎぃぃぃぃぃぃぃ!!!)


 彼女のおっぱいが押しつけられる幸せな感触、可愛くエラぶって我が儘を言う姿の可愛さ。

 これら二つがストレートに真玄へ直撃し、彼はゆらぎを抱きしめたい衝動を必死に堪えながら起死回生の一手を考えたのであった。


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