第31話「ぴっちぴちの鮮魚」
にぎにぎ、さすさす、真玄は真剣な顔でゆらぎの手を触っていた。
ぎゅっぎゅっと手のひらのツボを押すように、彼女の手を刺激していく。
痛すぎない様に強く、場所をずらし、時に優しく撫でるように、筋肉を解すように――。
(――つい勝負に乗っちゃいましたけど、冷静に考えると、なんかこう、今、凄くヘンな事してません??)
(おおー、すべすべだぁ。それに……吸いつくような肌ってこんな感じなのかぁ)
(うう、手に汗ッッッ、手に汗かいてきちゃいますよぉ!! っていうか、そんなに真面目な目で、真剣な目で見ないでぇっ!! はずかちっ! ひゃーっ、顔まで熱くなってくるぅ!!!)
ゆらぎの心臓は今、ばっくんばっくんと高鳴り始めていた。
きゅんきゅんと疼くような甘い痛みも同時に襲ってきて、だってそうだ好きな男の子に手を握られているのだから。
その上、声を出したら負けで、つまり手を触られて感じてしまったらという事で。
(うわーーーーんっ、変につっこまなきゃよかったよおおおおおおおおッッッ、完全に変態じゃん、手を触られただけで感じちゃったら完全に変態じゃん、頼む、頼むぞぉ氷里くーーん、いやらしい触り方しないでっ!)
(さて、どーやったら……と思ったけど、ごめん手を繋ぎたかったって誤魔化せばいいだけだし気楽だよな。後はどのタイミングでそれを言うかだ……)
(ま、まぁ、ちょっと強く押したら痛いって言えばそこで終わるでしょ、へーきへーきっ!)
ゆらぎは混乱しながらも、楽天的に考え。
だがその時だった、真玄は己の感覚が鋭敏に研ぎ澄まされていくのを感じた。
分かる、理解できてしまう、何処をどう押せばゆらぎの声を出せるか、それ以上の状態にする方法が。
「…………ッッッ!? っ、ぁ、~~~~っ!?」
(うおおおおおおおおおっ、なんだコレ楽しいぞ!? くっ、ゆらぎと肌と肌を触れあった影響かついに僕の中に眠れるエロゲ主人公としての才能がッッッ、恐らく陵辱エロゲ主人公としての女をモノにする才能が開花してしまったのか!?)
(い、今のナニ!? 何が起こったの!? 凄い痺れたっていうかホントにヘンな声出そうになったんですけど!? ねぇえええええええ、なんでこーなってるのおおおおおおおおおおお!!)
(ちくしょう、才能が暴走してるのかゆらぎの手にエロいことをするのが止まらない!!)
彼女の顔を見れば、左手の指を噛んで肩を震わせながら声を我慢している。
その姿は非常にとてつもなく股間に悪い、具体的にいえば嗜虐心がそそられて仕方がない。
手のモデルをして生きていけそうな程に綺麗な指、たおやかな指、歯形がつくぐらい強く噛んでみたい、甘噛みしたらどんな反応をしてくれるだろうか。
――――真玄は好奇心に耐えきれず。
「~~~~~~~~~ちょっ、なんで舐めた!? なんで舐めたんですかぁ!!」
「がぶっ」
「ぃ!? っ!!! ぁ~~~~~………………」
「…………あ、あれ!? ゆらぎ!? ゆらぎしっかりして!? ちょっと悪戯心が刺激されて舐めたり甘噛みしたのがそんなにショックだった!?」
あわわわ、どうしようマジでどうしようと真玄は焦りに焦った。
本当にちょっとだけ欲に流されて、舐めて甘噛みしただけなのだ。
それなのに、強く震えるほど怯え、失神するほど気持ち悪かったとは。
「ごめん、本当にごめん、なんでもするから許してくれッッッ!! もう二度としないから!! この通り、土下座する、している!! 許してくれええええええええええええええ!!!」
何という事だろうか、愚かにも程があると彼は自嘲した。
自ら彼女の怒りと憎しみを買い、死亡フラグに近づいてしまうなど愚の骨頂。
これからは己の体の性質も十二分に加味して、慎重に行動しなければならない。
(――――い、いま、わたし……?? まさか、そんな、そんなコトって――)
一方でゆらぎは荒い吐息のまま、体が静まるのを待っていた。
彼の謝罪の言葉が耳に虚ろに響く、凄かった、その言葉が脳にぐるぐると回っていて。
これは不味い、不味すぎる、身を持って体験してしまった。
「ぴ……」
「ぴ?」
「ぴっちぴちの、鮮魚……」
「夜は豪華なお刺身にしますぅ!! いつか活け作りを覚えるので勘弁してくださいませええええええ!!!」
ひたすらに平伏する真玄を見て、ゆらぎは強く思った。
このイケメンを野放しにしてはいけない、決して、そう、決して、何があろうとも離してはいけないと。
彼はきっと――。
「――――私の、運命の王子様」
「へ? 今なんて??」
「いーえっ、何でもありませんよーっだっ! それよりもぉ……よーくもやってくれましたね氷里くん??」
「ははーっ! 大変申し訳なく思ってます、最初はただゆらぎと手を繋ぎたいなーって思っていただけなんですが!! 驚かしたいなってうっかり……、もう二度とこんなキショいコトはしません!! だからどうか許してくださいッッッ!!!」
「うーん、ま、許してあげますよ。ちょっと魔が差しただけなんですよね? 氷里くんはそういう人じゃないって、紳士な人で、王子様みたいな素敵な男の子って分かってますから」
「…………ゆ、ゆらぎっ!!」
よっしゃ許されたと真玄は心の中でガッツポーズ、超絶安堵してしまった所為で。
彼はゆらぎの瞳に宿る光が、妙にねっとりと湿気が混じっている事に。
恋心のみならず、運命の王子様という執着心が追加されたのに気づかなかったのである。
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