第29話「おニューの下着はエロ下着」



 ゆらぎの下着姿は、控えめに言って卑猥そのものだった。

 黒レースのハーフカップブラジャーは、それ単体で見ると女性目線では可愛いと言えるのかもしれない。

 だが、ゆらぎ程の巨乳だと窮屈そうに食い込み色々とコボレそう。

 それどころじゃない、真玄は確かに気づいた。


(おい、おい、おい?? これ完全にエロ用の下着だよね?? 乳首の所が開いて見えるヤツだよね?? というか今の段階で乳輪ギリギリって感じっていうか少し動けばポロリ確定っていうか、むしろレースのシースルーだから今のそのまま見える感じなのに、もはや煽るためだけのギミックッッッ!!)


 この事実に彼女は気づいているだろうか、恥ずかしがり屋のゆらぎが本当に気づいているのか。

 否、否、否、否である、気づいていたら絶対に見せてこないだろう。

 それに。


(下も同じじゃないかよおおおおおおおおおおお!!! は? 紐のTだけど、フロント部分が例によってぱっくり割れるギミック付きの黒レースシースルー…………何も!! 何一つ隠してないし!! 下着っていうかもう上下どっちも守るんじゃなくて飾りたてるやつじゃんかよおおおおおお!!!)


「え、えへっ、その……どう、ですか? 似合ってます? いやですね、実は間違って注文しちゃったんですけど、こーゆーのが男の子が喜ぶって皆言ってますし、そのー、なんと言いますか、氷里くんもドキドキするかなーって??」


「あ、ああっ、に、ニアッテルヨ!?」


「なんで声が裏返ったの??」


「キ、キノセイダヨー……」


 真玄は上擦った声を出し、盛大に目を剃らした。

 仕方がないとしか言えない、ゆらぎは恥ずかしそうにお腹を抱えてちょっと前屈み、つまり胸の谷間が強調どころか、乳首が見えそうで見えないチラリズム。

 白い肌、黒いレースの下着、その上で揺れる長い銀髪、どこに出しても恥ずかしくないエロゲのヒロインである。


(くそッッッ!! こんな時でも、イチャラブ系エロゲのパッケージになりそうな構図とか喜んでる自分が居るのが悔しい!!!)


 勘違いしてしまいそうになる、この世界が陵辱ゲーではなくイチャラブ同棲エロゲなのかと。

 だが流されてはいけない、手を出したら最後死が待ってるのだ。

 異性としての好意を持たれている時点で詰んでるのでは、なんて冷静に判断している脳の一部が本当に憎たらしい。


(まだだっ、まだ僕は終わってない……こんなのいつものピンチだ気を抜けばデッドエンドの、なんて事のない大ピンチだ……僕ならやれるッッッ、今までもこのエロハプニングを上手く乗り切ってきたんだ、行ける筈さ!!!)


(う゛~~っ、なんで黙ってるんですか氷里くんっ!! もっと何か喋ってくださいよ、そんなマジな目をして見てないで……肌が、火照ってきちゃいますってッッッ!!)


 もじもじと体を揺らすゆらぎ、銀髪が大事な部分を彩るように、隠すように揺れる。

 真玄は無意識だったが、彼女に向ける眼光は陵辱エロゲ主人公そのもの、獲物を前に今から貪ろうとする卑しい獣のソレ。

 彼女は非常に落ち着かない気分になった、そして何かあれば責任の所在を自分の所為にしがちな彼女は。


(も、もしかしてヘンでした!? そんなに似合ってないとか!? ううっ、やっぱりこんな私がこんな大人っぽくて可愛い下着、似合わないんだ、そーだよねそーだよね、私なんか…………)


 ドキドキさせてやるんだと浮かれていた自分が恥ずかしくなる、とゆらぎは俯いた。

 涙がこぼれそうになって、その瞬間。

 気づいてしまった、もしかしてもしかすると、彼は最初からこれに気づいて言葉が出なかったのでは、それどころじゃない、この下着は単に大人っぽくて可愛いのではなく――――。


「うわああああああああああああああああああああああんッッッ!!! なんで変な所が開くんですかコレ!!! 気づいてるんなら言って!! 言ってくださいよ氷里くん!!! 恥ずかしいっ、恥ずかしすぎるうううううう!! おっぱい全部見えてるの同然じゃんかああああああああああああ!!!」


「………………下も同じだよ?」


「えっ、嘘!? ウソウソウソ!? あ゛あ゛っ゛!!! もーーーーーーーーっ、こんなの痴女じゃん!! これスッゴいエッチな下着じゃんかああああああああああああああああ!!!」


「あー…………どんまい??」


 やはり気づいていなかったのか、と真玄は一安心したが。

 一方で重大な事実に気づいてしまった、然もあらん。

 羞恥心に耐えかね、ゆらぎはしゃがみ込んでしまったが。


(うん!!! エロさしかない!!! ちょっと僕の性癖が壊されていく音がするよぉ!!! 腕と手で隠しながら僕に背を向けたからさぁ、…………むしろさっきよりエロく見えるんだけど!!!)


 ああ、なんという事だろうか。

 長い銀髪の隙間からチラ見えする、染み一つない白い背中、黒レースのブラの紐。

 押さえた腕と手からハミ出るおっぱい、背を向けてしゃがんでいるからこそ強調されるケツ、デカくまるく、揉んでヨシ吸ってヨシ紅葉とつけてヨシを確信させるセクシーさしかなデカケツがこんにちわしているのだ。


(…………不味い、これは不味い、うん、どうしてこんなに恥ずかしがってる女の子はエロいのか、いやそうじゃなくて――――)


 このまま見ていると襲ってしまう自信がある、ベッドに連れ込んで絶対に優しくできない自信がある、なんなら陵辱エロゲの主人公である事を肯定してしまいそうになる。

 だから、頑張ってゆらぎと隣の部屋に返さないといけない。

 真玄は深呼吸を一つ、早足で寝室に向かうとシーツを剥ぎ取って戻る。


「――――え?」


「気持ちは分かったから、うん、嬉しすぎてさ、…………正直、このままだと君を傷つけてしまうから。今日はもう帰って寝ようか」


「…………うう、わ、わかった、うん……」


「それから、次やったら……その開くギミックゆらぎ自身の手でさせるし、その下着に似合う女の子に染め上げるから絶対に二度と着ないように、わかった?」


「は、はひッッッ!!! わかりまひたぁ!!! その時は体しっかり洗ってきましゅうううううううう!!!! おやすみなさぁーーい!!」


「おやすみー…………、いや待って、なんで体洗って?? うーん、動揺してただけか、流石にゆらぎも二度と着ないでしょ!」


 真玄はそう楽天的に考え、仕方ないから今のを今宵のオカズにして精神体制をつけようとウキウキモード。

 一方でゆらぎは。


「エッッッッッッッッッロ!!! は? どういうコトォ!? さっきの氷里くん、必死に我慢して私を傷つけないように、でも欲望を我慢できなくて目に現れてて、警告のつもりで僕色に染めるぜって宣言、エロすぎぃ!!! は? これ私……誘われてる?? お、落ち着くんだ私、氷里くんは優しいから誰にでも……で、でも、私しかこういう一面知らないし、見せてないだろうし…………、ああああああ、分かんない!! 確かめたい!! でも怖い!!」


 彼女は自分がエロい格好をしているのも忘れ、真玄に対して限界化していたのであった。


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