第26話「ザ・ピンチ」



(忘れてたッッッ、今日はゆらぎがアイロンをかける当番だ!!)


 優等生なら制服も週一にでイロンをかけてパリっとさせなければ、と元々は真玄だけの習慣であったのだが。

 半同棲状態になった際ゆらぎの制服もやっていた所、彼女から交代でやろうと提案があったのである。

 今週はゆらぎの番で、それ故にアイロンの前にポケットを漁ったのだろうが。


「――――ストップだゆらぎ、それはとても重要な書類だからそのまま開かないで読まないで渡してよ」


「はい? 別にわざわざ読みませんけど、珍しいですね氷里くんがそのままポケットに入れておくだなんて」


「ちょっと預かり物でね、無くさないように制服のポケットに入れたままにしてたのさ」


「ふーん…………あれ? これ私の名前書いてません? いったい何の書類なんで――」


「――すまないッッッ、本当にすまないが君には見せれない!! 今のは忘れてくれ遠からずこの書類は消えるから絶対に忘れるんだ!!!」


「えー、気になる、すっごい気になりますよソレ!? 見せて見せてぇ、ねーねー、見せてくださいよぉ氷里く~~んっ!」


「甘えた声だして抱きついてもダメな物はダメっ! ったく、テキトーに藁半紙に印刷するから透けるんだよ……」


「氷里くんのケチぃ、ぶーぶー! もー、気になるなぁ」


 慌ててゆらぎの手から取り上げた真玄は、危機は去ったと胸をなで下ろしたが。

 一方で彼女は興味津々、なにせ彼女自身の名前が書いてあったのだ。

 その上で、彼が必死に隠そうとしているのも気になる。


(これは……隙を見てこっそり読んじゃおう!! なーに、ちょっと見るぐらいなら平気でしょ)


 なので当然、諦めないのであるが。


(あれからずっと肌身離さず持ってる!? ホントに何が書いてあるの……?? マージで気になる、気になりすぎるっ!)


 一時間後、そろそろ就寝時間だというのに彼女の目は興味で爛々と輝いていて。


「…………ねぇ、ゆらぎ? そろそろ隣に戻って寝たら?」


「鍵はやっておくんで気にせず寝ててくださいよ。ええ、私は氷里くんが寝たら寝ますので」


「そう言ってベッドの中に入ってこないで??」


「気にしなーい気にしなーい、逆に考えるんだっ、テレビの前で寝落ちするよりマシだとっ!!」


「気にしない訳がないよ?? 抱きついて寝ようとしないで??」


 真玄より先に入浴した彼女は、ピンクのもこもこのパジャマ姿だ。

 しかし、そのもこもこはゆらぎの素晴らしいスタイルを隠すものではない。

 更に、抱きつかれている事により匂いと感触がダイレクトアタックで、真玄の真玄が真玄になってしまっている。


(くっ、不味い……どうしてこうなってるんだッッッ!!! このままじゃ、おっぱいランキングがバレるだけじゃない。――――ゆらぎに手を出してしまうかもしれない)


 しかし、ここで襲ってしまうとどうなるか。


(ゆらぎはきっと何も考えずに一緒に寝れば書類を覗き見するチャンスがあると思ってるんだろう……つまり、襲うと嫌われる、イコールで憎まれる、結末は僕の死だ……)


 なんという地獄か、なんという生殺しか。

 最低でも真玄の真玄が真玄ってるのをバレず、そしてゆらぎの寝落ちを待たなければならない。

 彼は最悪の夜を覚悟した、しかし十分後。


「くー……すー……くー……すー……」


(寝付きいいなぁ君さぁ!! いや助かるけども!! 助かるけども!! ――――おっぱいランキングの紙、折り畳んでパンツの中に入れておこう)


 腕枕をしているので、明日の朝はきっと腕が痺れているだろうと予測しながら真玄も寝て。

 そして次の日の朝。


「…………ふぁ~~、……ねむ、…………? ここ、どこ…………ぁっ」


「おはよ、目は覚めたかいゆらぎ? 朝ご飯出来てるから顔洗ってきなよ」


「ふぁ~い…………むにゃむにゃ――――っ!? くっ、すっかり寝てしまっていた!! 氷里くんが持ってた謎の紙を覗き見しようと思ってたのにぃ!!」


「はいはい、絶対に見せないから諦めてね」


 悔しがるゆらぎ、これは学校でも油断ならないぞと覚悟する真玄。

 しかし、数日を乗り越えれば燃やして全ては闇に葬られる。

 今は耐えるんだと奮起する彼であったが、登校し教室に入ると。


「なぁ、あのランキングがまた……」「聞いたぜ、怖いけど気になるよな」「くわばらくわばら」「誰か詳しい情報知らないかなぁ」


「絶対に手に入れるわよ」「純粋に気になるけど……」「これはチャンスよ」「天野先輩が暴れるのを除けば、ね」


 等々、男子も女子もザワついた雰囲気。

 どう見てもバレている、おっぱいランキングの存在がバレているとしか思えない。

 顔を強ばらせる真玄の前に、同じ様子の素丸がやってきて。


「すまん、どっからか情報が漏れたみたいだ。でもデータは全部破棄させてコピーも存在しないってマスっちから連絡は来てる」


「――――つまり、…………僕のだけか」


「ああ、だから今すぐ他の誰かに見つからないように……」


「っ!? 継奈!! ちょっと継奈来てッッッ!!! 安井くんを確保してて私は氷里くんを確保するから!! この二人、なんか知ってる!!」


「うおおおおおおおっ、観念してうちに捕まるんだ素丸うううううううう!!!」


「ゆらぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッッッ、何してくれてんのおおおおおおおおおおおおおお!?」


「うわああああああああああっ、たっ、たすけ――いや俺が犠牲になる真玄お前は早く行けえええええええええええ!!」


「ちくしょう素丸ぅ!! 離せっ、離すんだゆらぎ!!」


 途端、教室中が混乱状態になる。

 男子は最悪を考え真玄と素丸を援護しようと動きだし、女子達はおっぱいランキングを手に入れる為にゆらぎを援護しようと動く。

 何かを一つ間違えれば、このクラスだけではなく学校中が戦争状態に陥ると思われた瞬間であった。


「おっぱいランキングはここねっ!! ハリーハリーハリー!! さあアタシにおっぱいランキングを渡すのよ!! いざ行かん、今年の全女子おっぱい祭り!!!」


 あの天野朱鷺その人が、乱入したのであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る