第25話「おっぱいランキング」



 真玄がお菓子づくりも得意で狂人的にポニテが好き、という噂が流れて数日が経った。

 その間、特に事件などおきず彼は久々に平和な時間を過ごした気がしていたが。

 今日は何故か、昼休みに校舎裏へ呼び出されて。


(嫌な予感しかしないんだけど?? なんで素丸もわざわざ校舎裏なんかに?)


 教室では、他に誰かが居る場所ではダメだという事で。

 ならばスマホでこっそりとメッセージを、と思うが。

 そうしないという事は、誰にも知られたくないという意味があり。


(恋愛相談ぐらいでありますようにッッッ!! あっ、いやダメだッッッ!! 思い出したああああああああああああああああ!!! 原作!! これ原作イベントおおおおおおおおおおおおおおおお!!!)


 相も変わらず遭遇してから思い出す男である、そう、素丸に校舎裏に呼び出されるのは原作にあったイベントだ。

 内容は歪んだ恋愛相談、原作素丸が継奈のことを犯して自分の女にする手助けをしてくれと頼み込んだシーンである。


(た、確か、原作の素丸は原作の僕の舎弟で、原作の僕が継奈を犯した後で払い下げて貰おうと……)


 しかし、原作と違って真玄は裏表のない優等生で、素丸もまた彼に影響されず普通の少年だ。

 大丈夫の筈だ、最悪でも健全な恋愛相談の筈で。

 けれど止まらない嫌な予感は、いったい何なんだろうか。


「――――おーい素丸? 来たけど……??」


「こっち、こっちだぜ真玄! こっちのデカい木の陰に来てくれ!!」


(ッッッ!! お、同じだっ、原作と同じだぁ!! 

――――ど、どうなる、原作と同じく護士木継奈の関連か??)


 表面上は冷静に、内心で酷く怯えながら素丸のところまで行くと。

 そこには素丸だけではなく、もう一人。

 イケメンであるが、どこか堅苦しい人物が険しい顔で立っていて。


「んで、何の用だい? そしてこっちの人は初めましてかな、僕は氷里真玄だよろしく」


「うむ、君の事は噂やご主人様経由でよく聞いている、――日辻益荒男(ひつじ・ますらお)だ、益荒男と呼んでくれて構わない、ああ、こう言った方が君には分かりやすいだろう。雪城先輩と親しい後輩である我が主人、周防院アリカの専属執事だ。雪城先輩から話ぐらいは聞いているだろう?」


「そうか、君が例の……ふふっ、噂に聞いている通り頼もしい人のようだ、愛するご主人様を守る忠実なる騎士様ってイメージそのものだな(おいいいいいいいいいいいいッッッ、なんてヤツを連れてきてるんだよ素丸テメェ!!! こいつ純愛ゲーの主人公じゃないか!! ゆらぎに次ぐ死亡フラグじゃんかああああああああああああああ!!!)」


 日辻益荒男、原作真玄と一番相性が悪いキャラと言っても過言ではない。

 原作での益荒男は、主人であるアリカを守るために暴走するバーサーカーであるが。

 悪を許さない正義感の持ち主で、アリカに悪影響を与えそうなモノを事前に排除する過激さを持っているのだ。


(ぼ、僕を排除しに来た!? 落ち着け……原作はともかく今の僕は何もしていない筈だ、狙われる理由がない、じゃあ何故ここに居る――――?)


「長々と話してると誰かに気づかれる、真玄とマスっちを呼び出したのには訳があるんだ」


「僕とマスっち……日辻くんをこんな所に呼び出すなんて、余程の事があったんだね?(そうじゃないと許さない、許さんぞ素丸うううううううう!!!)」


「氷里先輩、安井先輩と同じくマスっちでいいですよ、コッチの方が後輩なんで」


「そうそう、気楽に行こうぜ真玄。んで肝心の用なんだけどな…………これを見てくれ、秘密裏に手に入れた重要書類なんだ」


「重要書類かい……?」


 真玄は受け取った紙を読む、益荒男も近寄って覗き込んで。

 中身は表だ、ランキングと言い換えてもいい。

 学年関係なく女生徒の名前とクラス、それからアルファベットと数字が十人分並んでいる。


「ゆらぎの名前もあるね、しかも上の方だ。名前を出したくないけど朱鷺先輩のも」


「ふむ……我が主人、アリカ様のもあるな」


「ま、護士木は入ってないんだけどな。でも――分かっただろう、この書類の危険度が。そうだ……これは」


「「「おっぱいランキング」」」


 三人の声が綺麗に揃った、同時に空気が重苦しくなる。

 全女子生徒のおっぱいランキング、それは男子にとってのロマンであると同時に。


「くそッッッ、誰がこんなもん作ったぁ!! どうして……どうしておっぱいランキングなんかを!!」


「だろ!? だろ!? 一年坊が作ってるの見つけちゃってさぁ、叱って取り上げてきたんだわ」


「同級生がすみません……こんな物を作ったら、女子が敵に回るだけじゃない……ランキング上位者が天野先輩に狙われて、揉みに揉まれてサイズが一段階アップしてしまうのにッッッ!!!」


 それが何を意味するのか、三人はよく理解している。


「不味い……校内の空気が乱れに乱れるッッッ、揉まれてサイズアップした子はブラの買い換えが必要になり、何故か男子に費用カンパが回ってきて……」


「揉まれなかった子は、好きな男に揉んだらサイズアップするかもと誘惑する事態が多発ッッッ、知ってるかマスっち去年はそれで男性教諭が人生の墓場に入ったんだぜ?」


「それだけじゃないと聞いてます、揉まれた女生徒達がチン長ランキングを作る為に白昼堂々授業中でも男子のズボンを脱がす事態に発展したと……」


「――――よくやった素丸、君に敬意を表するよ。これで最悪の事態は防げた」


 拡散される前に、ランキング入賞者に伝わる前に止められたのは大きい。

 ならば後は、これを闇に葬るのみだ。


「これは僕が焼き捨てる、でもこれ印刷だね元データは?」


「そこでマスっちの出番だ、同じ一年だし、マスっちなら何とかしてくれるって」


「心得た、手抜かりなく遂行しよう。我が主のおっぱいサイズが公表されるなんて我慢ならん!!! あのおっぱいはオレのだ! 同じ想いだろう氷里先輩!! 貴方も雪城先輩のおっぱいサイズを独占したい、ああ、言わずとも伝わってくる!!!」


「あ、うん、そうだね」


「真玄、すまんが燃やすのは数日待ってくれ。余罪が出てきた場合に物的証拠にするから」


「わかった、誰にも見せないし渡さない。燃やすその時まで肌身離さずもっておくよ」


 という訳で、危険物を抱えたまま真玄は数日過ごす事になったのだが。

 その日の夜であった。

 風呂から上がり、リビングに戻った彼が見た光景は。


「――――あれ? 氷里くんの制服からプリント出てきましたね」


(うあああああああああっ!? 何してんのゆらぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!)


 例のおっぱいランキングの紙が、ゆらぎの手の中にあったのであった。


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