第22話「ファンディスク疑惑」
(クソッッッ、予想はしていたけどさぁ……本当にどうなってんだよ!! 確かにどれも同じく現代日本が舞台だけどさぁ!!)
新たなメインヒロインの登場に、真玄は激しく動揺した。
小柄な金髪巨乳美少女、周防院アリカの原作は「陰キャお嬢様はえっちなお勉強がしたい」という抜きゲーっぽいタイトルに反して純愛ゲーである。
どうして存在しているんだ、何故に遭遇するのかと彼は悩み。
(――――そっ、そうか!! 使い回しッッッ、そういえば地名や学校の名前とか使い回しだった!!)
もしかしたら制作サイドには何らかの意図があったのかもしれないが、生憎と前世真玄はコストカットの手抜きとしか思わなくて。
深く考察することも、調べたりすることもしなかったのだ。
しかし、どうして気がつかなかったのか、自分はそれほど惚けていたのかと不安になったが(なお真相は己の死に関係ないから忘れていたのであるが彼が気づく筈もなく)
「おーいおーい! 朱鷺先輩! アリカちゃーん!!」
「ん? ゆらぎちゃんに氷里じゃないか! お二人でデートかーい?」
「あっ、ゆらぎ先輩!!」
「あれっ!? 彼女と知り合いなのゆらぎ!?」
「えへへっ、友達なんですよ」
予想外であった、ゆらぎと周防院アリカが友人関係だったなんて。
いったい何時から、どうやって、そんな疑問が顔に出ていたのか彼女は言った。
「中学の時に図書委員会で一緒だったんです、そんで今でもよく一緒に遊んでるんですよ?」
「よく?」
「はい、一緒にネトゲやってるんです!!」
「…………なるほど(おわああああああああああッッッ!? う、ウチのメインヒロインが別ゲーのメインヒロインを汚染してるううううううううう!? どーなってんのマジで!?)」
涼しい顔をして頷きつつも、真玄は頭を抱えて踞まりたい程に動揺した。
担当イラストレーターこそ違うとはいえ、同じメーカーでブランド、思い出せば監督とシナリオライターまで一緒だ、キャラ同士の接触があっても不思議ではない。
だが、こんな事は聞いていない、ゆらぎとアリカが一緒にネトゲをする仲なんて原作的にあり得ない。
(記憶が確かなら、周防院アリカはゲームをする暇があったら読書をする性格ッッッ、同じく本好きの主人公が気になっている……って感じの設定!!)
どうして、こんな事になっているのかが本当に理解できない。
真玄の顔が段々と青くなって行く、陵辱にバカエロに純愛、もはやこれはエロゲ転生なのだろうか。
否、エロゲ転生なのは確かだ、しかし陵辱エロゲではなく他の、ファンディスク世界などへの転生した可能性はないか。
「うごっ、うごごごごごっ」
「ほへっ!? ちょっ、氷里くん!? なんでそんな青い顔で震えてるの!?」
「お、どーしたん氷里? 具合悪いならそこのラブホで休む?」
「あ、わたしの執事が近くで買い物してるからすぐに呼びましょうか? お力になれると思うんですが――」
「あ、ああ、いや、心配ないよ、うん、ホントマジで(執事ってそれ主人公だよねえええええええええ!! やめて!! 僕の許容量越えちゃうっていうか、ワンチャン僕の命が危ないよねぇ!!)」
三人の美少女に囲まれ心配されているが、真玄はちっとも嬉しくないし気持ちが休まらない。
アリカの執事、つまり主人公はお嬢様絶対主義で害となるなら徹底的に排除する過保護な性格をしている。
つまり、原作真玄は会えば社会的物理的に滅されること間違いないで。
「こ、こんな所に居られるか! 僕は逃げさせて貰う!!」
「オッケーなんか用事あるの? ならゆらぎちゃんは置いてってよ、実はアタシ、女の子もいけるんだグフフフフっ、これでアリカちゃんと両手に花だ!!」
「うおおおおおおっ、そんな事はさせるかゆらぎは僕が守るぅ!! それから周防院ちゃんはその執事を呼んで今すぐコイツを排除するんだ!!」
「あはは……、噂に聞くようにゆらぎ先輩とラブラブなんですねっ、わたし達みたい!」
「ちょ、ちょっと氷里くん!? そんな強引に引っ張らなくても――」
「今度ダブルデートしましょうねゆらぎ先輩!!」
「ちぇ、逃げられたかぁ。また学校でねお二人さーん! じゃあオネーサンといいコトしないアリカちゃーん?」
「トゥ!! ヘァ!! お嬢様を汚そうとする者!! この周防院家筆頭執事がゆ゛る゛さ゛ん゛!!」
背後にギニャー、という声と知らない男の声が。
居る、これは絶対に例の主人公だ。
――死亡フラグが近づいている、と真玄は怯えながら走った。
(あばばばばばばっ、死ぬ、死んでしまうッッッ!!! 仮にこの世界がファンディスク仕様だったとして! 僕はそのファンディスクを知らないし、仮にそれがギャグとかコメディでもブランド一番の悪役である原作真玄は方向性がなんであれ、ファンディスクであるからこそ雑に殺されかねない!! ゆらぎ以外のキャラに殺されても不思議じゃないよねぇ!?)
いつしか立ち止まっていた真玄は、コヒュー、コヒューと今にも死にそうな呼吸で地上に居るのに溺死してしまいそう。
(ゆらぎだけが死亡フラグじゃなかった!! その上で最大の死亡フラグはゆらぎだし…………、僕、し、死ぬの、か? また死んでしまうのか? 童貞のまま、このまま僕は――――――)
そんな風に激しく怯える彼を、ゆらぎは心配そうに見ていて。
(――――――ばぶぅ!!!)
事情は分からない、けれど居ても立ってもいられないから。
「…………よしよし、よしよし。大丈夫、私が一緒に居ますから、どんな時でも氷里くんの側に居ますから。だからね? 何も怖がることなんてないんです――」
「――ばぶぅ?」
「ば、ばぶ!? へ?? 赤ちゃん返りしてる!? あの氷里くんが!? あわわわわわっ、ど、どどどどどうすれば!? 取りあえず…………えいっ!!」
「ばぶぅ!!!」
「よ、よーしよし、よーしよし、ママのおっぱいでちゅよ~~、母乳はでないし服の上からだけど、赤ちゃんならこれで落ち着く……よね? よしよし、よしよし」
「………………ばーぶぅ……ばぶ」
「お、落ち着きました? 落ち着いたの氷里くん?? …………あ、寝た」
真玄は気がついていなかったが、現在地は行きに通った駅前の公園の中。
その噴水のベンチに、二人並んで座っていて。
ゆらぎの膝の上に、彼の頭が乗せられていた。
(なんだろう、私の中に何かが……赤ちゃんの氷里くん、いつも違って新鮮で、こう、私がいないと生きていけないって感じで、私だけが世界のすべてみたいな感じで凄くよか――――…………いやいやいやッッッ!? 違うっ、違うから!! 何も芽生えてないから!!)
彼がもし起きていたら、バブみに目覚めていると恐怖しただろうが生憎と赤ちゃん返りの末に失神中。
ゆらぎは己の内なる変化に戸惑いながら、真玄の寝顔を堪能し。
一時間後、起きた彼が赤ちゃん返りの事をすっかり忘れていた事をとても残念に思ったのだった。
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