第21話「世界観はいずこへ」



 真玄がマッサジー技術を会得し、帰還してから数日後である。

 マッサージそのものは、ゆらぎに非常に好評であったが。

 ともあれ彼は、死亡フラグ回避の為に日曜である今日は外出の為のお洒落をしていた。


(僕のこの耽美系イケメンフェイスなら……ナンパすれば入れ食い状態のはずだ!! ワンナイトラブから恋人の流れ……エロゲでもエロ漫画でも鉄板のシチュ!!! 僕はヤるぞ、――ついでに童貞卒業して、エロと可愛いの権化であるゆらぎへの耐性をつけるんだ!)


(怪しい……氷里くんがなんかお洒落しておる、これは――――ま、まさか!! 私とデートしようって、そういうつもり!? これから誘われちゃうの!? はわわっ、急いで着替えないと!!!)


 相も変わらず、ゆらぎの事を考えないで動こうとする男である。

 今日も今日とて彼女が隣でゲームをしているのにそんな事をすれば、当然の如く気づかれて。

 結果、真玄の準備ができた頃には。


「――――ゆらぎ?」


「ぜーっ、はーっ、ぜーっ、はーっ、も、もうっ!! 氷里くんったら急すぎですーーっ、デートするならせめて前日には知らせてくださいよぉ。これでも女の子なんですから、心と服の準備があるんですよ!!!」


「あー…………すまない(あっれええええええええ!? なんで!? どうして僕とデートって感じになってるんだ!? くっ、やはりこれがメインヒロインってヤツなのか!?)」


 ありもしないシナリオの修正力に、真玄は思わず恐怖したがともあれ。

 ここで出かけないと言ったら、流石に彼女に悪いと彼は街に繰り出すことにした。

 適当に遊ぶのもよし、道ですれ違う女の子が可愛かったらゆらぎを先に帰らせてナンパするもよし。


「じゃあ、取りあえず最初は駅前のゲーセンにでも行こうか」


「おっ、いいねいいねぇ。クレーンゲームで今ハマってるゲームのグッズが景品になってるんですよ、一緒にチャレンジしましょう!!」


「君も好きだねぇ……、予算は五千円までだよ?」


 苦笑しつつ、真玄はしっかりと上限を決めた釘を刺したが。

 ゆらぎは満面の笑みで、ぴょんぴょん飛び跳ねて喜んだ。


「ひゃっほい! さっすが氷里くんの許可が出たぞぉ!! なんで私のオトンとオカンはお小遣いと生活費も家賃すらも氷里くんに預けてるんですかねぇ!! お陰でソシャゲの課金すら自由に出来ないなんて、こんな世界間違ってる!!」


「予算三千円ね?」


「あ、足をお舐めしましょうか氷里くん様?? 肩こってません?? そうだ手とか腕とか組んでデートするとか!! くぅ~~、なんだかんだでおモテにならない氷里くんだからこれは嬉しいでしょう」


「予算五百円ね??」


「なんで下がった!? なんで下げたんですかこの外道!! うおおおおおおおッッッ、かくなる上はこの前朱鷺先輩に教えて貰った靴下を売れるショップに……、ところで使用済み靴下って何に使うんです??」


「…………予算一万円まで許そう、だから靴下を売れる店の事を僕に教えて、朱鷺先輩から教えて貰ったことは全て忘れるんだ、いいね、いいな?? 分かったらイエスって言え、言わせてやろうか??」


「はっ、はひっ!! イエス、はいです!! 朱鷺先輩から教えて貰ったことは全て忘れます!!」


 予算が当初の倍額になった事は嬉しいが、それより真玄の笑顔の威圧感が凄く。

 ゆらぎは壊れた機械のように、首を激しく上下に振った。

 出発直前にそんな一幕がありつつも、二人は駅前に向かって。


(なんというか、ここ。都会って訳じゃないけど立地条件いいよなぁ、エロゲ世界観というかギャルゲ世界観特有のあるあるっていうか)


 前世でエロゲマエストロと自称する程に様々なエロゲをやってきた真玄には分かる。

 自宅から駅まで徒歩十五分、学校まで徒歩三十分、マンション近くにはコンビニが何件もあり、徒歩十分には商店街が。

 それから駅周辺には、大きなデパートや大型の家電量販店などを筆頭に様々な店が揃っており。


「ねぇねぇ、お昼は駅前公園の屋台のドネルケバフ食べようよっ! それとも……、ハンバーガー、ハンバーガー行っちゃう?」


「ふむ、お洒落なフレンチとかは?」


「ふ、フレンチですと!? う、うわぁっ!! やめるんだ氷里くんっっっ、こんな陰キャをそんな陽キャのお店に連れて行ったら…………いやそれはそれで美味しそう、スバゲティも食べたーい!」


「はいはい、ゲーセンで遊んだ後にまた悩もうな」


 真玄は今、少しばかりほっとしていた。

 デートとゆらぎは言ったが、彼女がメインヒロインだと気づく前の二人で遊びに出かけた時と同じ。

 色気などなく、純粋に一緒に遊ぶ雰囲気と同じだったからだ。

 ――そうして、駅前に到着しゲーセンのすぐ側まで来たその時だった。


「………………うん?」


「どったん氷里くん?」


「いや、見覚えのある人が居たような……?」


「どれどれ、誰だろー?」


 ゆらぎがキョロキョロと周囲を見渡す一方、真玄の顔は真っ青になっていた。

 嘘だ、そんな、まさか、ありえるのか、そんな言葉が頭の中でぐるぐると回る。

 可能性はあると考えていたが、いざ目の前にすると衝撃が勝って。


「あっ、朱鷺先輩! それから――――」


「――――周防院、アリカ」


 二人の視線の先には、朱鷺に壁ドンをされ狼狽えている金髪ドリルの小柄で巨乳な美少女が。

 名は周防院アリカ、それは原作である「ハカイ(以下略)」や、天野朱鷺の原作とはまた違うゲーム。

 同ブランドの前々作、純愛ゲーの「陰キャお嬢様はえっちなお勉強がしたい」のメインヒロインがそこに居たのだった。


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