第19話「電動マッサージャーチャンバラ」



 先日は登校前にひと騒動あったが、今朝は何事もなく昼休みである。

 食後の楽しい自由時間、真玄の席の前で素丸と継奈がシリアス(笑)の雰囲気で対峙していた。


「――フッ、護士木よ俺の妖刀バイブレーターに勝てるかな?」


「安井……アンタこそウチの聖剣健全マッサージの敵じゃないね、コンセントに繋がってない電マに何ができるってんだーーい!!」


「甘いな護士木!! こいつにはコンセント対応の携帯バッテリーを付けてあるんだ最高に震えるぜ!!」


「最初から充電式のを舐めるんじゃないよ! いくぞおおおおおおお!!」


「頑張れ継奈~~!! 安井くんをぶっ飛ばしてやれーーっ!!」


 真玄の後ろでゆらぎは楽しそうに声援を、なお椅子に座っている真玄に密着しているので彼の頭には巨乳が押しつけられていた。

 騒がしくも楽しい日常の光景に、彼は苦笑を漏らしたがそんなの表面上だけだ。

 頭の中では、死の気配に必死になっていて。


(くっ、これはアプローチなのか!? ……い、いや落ち着くんだ。元々そっち方面は無頓着で距離感近めの女の子なんだ、何も考えてないに違いない)


 約束された死を避けるには、彼女から嫌われずに失望されるのがベスト。

 しかし、嫌われずにというのが無理難題とも言えよう。


(今一度整理しておくか……原作のゆらぎ、あれだけ酷いコトされてるのに原作の僕を最後まで一途に愛して尽くしてたっぽいからなぁ)


 気がかりなのは、ラストシーンで真玄がゆらぎの殺されて。

 スタッフロールのムービーの後に、エピローグが存在していた事だ。

 真玄の前世であるエロゲオタクの記憶は、スタッフロールが終わってエピローグシーンが始まった所で終わっている。


(――――僕は原作の氷里真玄を原作ゆらぎが殺した理由を知らない。だからこそ、恋人=死と結論づけていた。でも…………もし、もしもだ、恋人にならずとも異性としての好意を寄せられているだけで死亡フラグが発生するなら?)


 ならばもう手遅れだ、どう見ても今のゆらぎは真玄への恋心を自覚してしまっている。

 幸か不幸か、性的な知識に疎いまま、無垢で恥ずかしがり屋のまま。


(絶対にある筈なんだ、どんなに辛く当たられても一途に愛し続ける女の子が彼氏を殺す理由、要因が)


 探さなければならない、これまでの様に場当たり的な対処ではダメだ。

 同時に諦めて貰うために恋人探しもして、そして。


(――今日も教えるか、ゆらぎにエロ知識を教えて……こんなエッチなヒトだったなんてと少しでもイメージダウンを狙うんだ!!)


 真玄は決意した、今までは死なない為に優等生として生きていた。

 だが優等生を捨てなければ、死んでしまうかもしれない。

 ならば、捨てるのだ優等生としての生き方を――。


「――――ねぇ二人とも、楽しそうな所悪いんだけどさ、僕らにそれ貸してよ」


「うん? 僕ら? 真玄と雪城さんに俺らがコレ貸すのか?」


「ウチはいいけど……?」


「ほう! もしや私とバトりたいって? よっしゃ腕がなるぜぇ!! じゃあ継奈それ貸してーっ!」


 ゆらぎはウキウキで電マを右手に構え、好戦的な笑みを浮かべる。

 真玄も椅子から立ち上がって、素丸から電マを受け取って構えた。

 電マチャンバラが始まろうとした瞬間、真玄はゆらぎに問いかけた。


「戦いを始める前に、クイズを出そう」


「ほうほう! クイズとなっ!! 何を隠そう私はゲーマー、ゲームに関するクイズなら負けませんよ!!」


「残念だけど、この電動マッサージャーに関する事さ」


「これについて……?」


 ゆらぎは自身の右手に持つ電マをしげしげと眺める、この健康器具に関するクイズなんて検討もつかない。

 側で観戦しようとしていた素丸と継奈は、真玄の意図が読めず仲良く首を傾げる。

 真玄は電マの電源を入れると――。


「ちなみに、間違ったり答えられなかったら。…………話は変わるけどパンツの変えは持ってるかい?」


「何する気なんですか!? 絶対なんかヤバいことする気ですよねぇッッッ!?」


「ちょっ、ちょっと氷里くん!? マジで何しようとしてんのぉ!? ほら! 安井も止めなさいよ!!」


「おいおい真玄? この場でそれはさーすがにマズイって思うんだけど? っていうか真玄らしくないぞ? どうしたんだ??」


 三人どころかクラス中の視線が集まる中、真玄はしっかりと一度頷いた。


「ゲームに夢中すぎてエロ知識ゼロのカマトトに、荒治療しても教え込もうかなって」


「いやいやいや!? だったらせめて家でやれよ真玄!? 俺達の前でやるんじゃねぇよ!?」


「そーだそーだ! 私を公衆の面前でどうする気だーーっ!」


「何を言うんだ、家でやったらエロ空間になって一線を越えてしまうかもしれないだろう?? でも僕らは親友だからね、絶対に一線は越えない。――――だから教室でやるのさ!!」


「………………なる、ほどぉ? そう言われるとうちは納得してしまいそうな……??」


 戸惑っているが、真玄がそう言うならと納得しかける継奈と素丸、クラスメイト達であったが。

 そこに意義アリと手を上げたのが、当のゆらぎであった。


「うおおおおおおっ!! ならばクイズなんてせずに今すぐバトルですよッッッ!! 私が勝ったら家でじっくり実地で教えてくださいね!! 私が負けたら……氷里くんの好きにさせてあげます!!」


「その意気やヨシ!! いざ尋常に――――」


「「勝負ッッッ!!」


 そして、電マチャンバラ一本勝負が始まったのであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る