第18話「鬼畜マン」
(くっ、己の美貌が恨めしい!! 原作の氷里真玄は耽美系の爽やかイケメンに描かれていたが、今の僕も同じく耽美系の爽やかイケメンで、しかもイケボ!! ――我ながら一緒に暮らしていて女の子が恋しない訳がなかったッッッ!!!)
前世の顔が思い出せないぐらい慣れ親しみ、しかして己の顔面偏差値の感覚が前世に引っ張られていたが故に。
真玄は己のイケメンが武器になっているなど、思いもしていなかったのだ。
ともあれ、やるべき事を為さなければならない。
(そうだ……だいしゅきホールドが何か教えないと、僕が教えなきゃ誰がやるんだッ!!)
ゆらぎは先程悶えた後、床にペタン座ったままクネクネしている。
完全に油断している今しかない、真玄はしゃがみ込むと彼女の胸元のリボンタイを解いてYシャツのボタンを上から外していく。
すると、どこで買ったのか問いただしたくなるような紫でサテン生地の気合いが入ったブラが。
「…………ふぇ?」
「すぐに脱がせるからじっとしてて」
「えっ? ええっ!? ちょっ、ちょおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!? なになになにィ!? いったい何してんの氷里くん!?」
「動くと脱がせにくい、動かないで。だいしゅきホールドの本当の意味を今から教えてあげるよ」
「なんで脱がせるんですか!! なんで脱がせる必要があるんですかァ!? ここまでされたら私だって、だいしゅきホールドってエロい意味だってもう察しましたよ分かりましたから脱がす必要ないでしょおおおおおおおおおお!?」
「――抵抗されると燃えるって本当みたいだね」
「ッッッ!? そんな少女マンガのイケメンみたいな事言わないで!? 身の危険しか感じない、うえええええええええんっ!!」
(………………どうしてだろう、リアクションが楽しすぎて虐めたくなるのは)
真玄がゆらぎYシャツから手を離した瞬間、彼女は床に座ったままズササッと距離を取る。
真っ赤な顔で半泣きの目をし睨む銀髪巨乳美少女の姿は、胸元を両手隠してる仕草も相まって非情に彼の嗜虐心をソソったが。
ここで追いつめるのは悪手だと判断、透明さと可愛さを両立させた声でがるがると唸る彼女に。
「ごめんごめん、体に教えた方が早いかなって」
「そこでサラっと頭ぽんぽんするなぁ! これ以上私をきゅんきゅんさせてどーするんですか!! しかも自分で怖がらせておいて落ち着かせて好感度上げるとかヤクザのやり口ですよマッチポンプですよ鬼畜氷里くんめッッッ!! これ以上惚れちゃったらどーするんですかァ!!!」
「………………ぼ、僕が――――鬼畜!?」
その瞬間、ががーんと真玄は強い精神的ショックを受けた。
鬼畜なんて言葉は原作主人公の代名詞だ、つまりそう言われてしまった真玄は原作の最低最悪クズ主人公に一歩近づいたという事。
悪夢というより他ない、心臓がきゅっと痛んで頭痛すらしてくる、どうやって呼吸をしていたか思い出せなくて。
「あばっ、あばばばばばばばばばばッッッ、こひゅー、こひゅー、こひゅーー!! きちく、ぼ、ぼくがきちく!?」
「あ、あれっ? 氷里くん!? あれぇっ!? 氷里くんが壊れた!?」
「いひっ、いーーっひっひっひっひっ、しぬぅ!! しんでしまう!! きちくなんて…………しんでしまうよぉ!!!」
「そんなに鬼畜ってワードだめでした?? いったい氷里くんに何が…………」
彼の過去にどんなトラウマが、鬼畜という単語で何があったのか。
彼女はとても不思議に思ったが、同時に。
(壊れてる氷里くん…………なんかカワイイッ!! え、え~~~っ、こんな風になるんだぁ、いっつも冷静で余裕があって大人びた氷里くんが、鬼畜って言葉ひとつで…………)
きゅんきゅんと胸に甘い痛みが、それも新しい扉を開いてしまいそうな何かがゆらぎの中に産まれる。
こんな一面を知っているのが自分だけだと思うと、何故か己の全てを彼に委ねてしまいたい衝動に駆られて。
「…………氷里、くん。――――ね、だいしゅきホールドの本当の意味……私に、教えて?」
「――――――――待って待って、なんでいきなりそなったの?? 僕がちょっとだけ取り乱してる隙になんでそーなってるの?? ちょっと聞いてる? 脱ごうとしないでボタンを外そうとしてるその手を止めろォ!!」
真玄がゆらぎの両手首を掴んで動きを止めると、彼女は耳まで真っ赤になりながらヤケッパチな口調で。
「オラァ!! だいしゅきホールドの謎を教えるんですよ!! 私がこれ以上の恥をかいてもいいんですか!! 聞きますよクラスの誰かに!! 氷里くんが教えてくれませんでしたって言いますからね!!」
「――――――僕以外に聞くなら、この部屋出禁にするよ」
「嫉妬!? 独占欲!! まさかリアル美形に執着されるなんて…………!!!」
「もしかして君さ、そうやってテンション上げて恥ずかしさを誤魔化してない??」
「…………………………う゛う゛、言うなぁ、あと、だいしゅきホールドは後で詳細をスマホに送っといて授業中に読むからぁ」
「はいはい、ちゃんと授業は受けようね。朝ご飯食べようか」
良くも悪くもゆらぎのウブさに救われた真玄は、好意を隠そうとしない彼女に怯えながらトーストに目玉焼きを乗せて口に運ぶのであった。
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