第15話「ペイズリー(柄)」



 もはや学校も安息の地ではない、どうすれば気が休まるのかが最近の真玄の悩みであった。

 端から見れば、イケメン高身長で学業優秀、教師の覚えもめでたくクラスメイトからの評価も高い、更に銀髪巨乳美少女と半同棲状態なのに贅沢な、なること間違いなしであるが。

 氷里真玄本人としては、死が、命がかかっているので大問題であり。


「ふんふーん、ふふーん…………あがっ、こんにゃろめっ!」


(ゆらぎは今日も暢気に僕のベッドの上でゲームしてるしさぁ…………)


 人間慣れるもので、この様な状態でも隣の机で予習復習と勉強できてしまっている。

 しかし、心は休まらない、いつ何時爆弾発言が飛び出すか、見ていない所で彼女が何かやらかしてないか常に冷や汗をかいているようなものだ。

 何か新たなに対策を考えなければならない、彼がそう決意した時。


「――――あっ! そうだ! 忘れてた!!」


「ん? どしたんかい??」


「ちょーーっと待っててねっ! 見せたい物があるの忘れてたああああああああ!!」


「……………………そのまま帰って寝てもいいんだよ?」


 ばたばたばた、バタンを慌ただしい音。

 夕食後であるし、一人の時間が欲しいなぁと真玄はボヤいたが。

 十分後、またもバタバタバタばたん、と忙しい音と共に彼女は戻ってきて。


「じゃっ、じゃーーん! どう? へへっ、いいでしょー、眼福? 眼福だよね? 男の子はこういうのが好きって聞きまして氷里くんの為だけにお目見えでーすっ!!」


「お、おう? ………………はっ!? ゆ、ゆらぎが普通に服を着ている!? 制服か部屋着かのニ択しかないゆらぎが普通におしゃれな服を着てる!?」


「がびーんっ!? ヒドくない!? 私だって普通の服ぐらい持ってるし着るんですよーだっ、ぷんぷん!」


「しかも、ぶりっ子度も上がっている……ッッッ!! ゆらぎ、恐ろしい子!?」


「絶対に誉めてないよね??」


 そう、戻ってきたゆらぎは真玄が驚くぐらいに普通の格好であった。

 彼の目線的には、日常で着るというよりデート服という印象を受けたが。

 とはいえ珍しい事には違いない、なにせ。


「えーっと、ペイズリー柄のワンピースだね」


「実はですね、新しく買ったんですっ、胸元と腰をきゅっとする為の大きめのリボンとかカワイイんですよね!!」


 むふーと楽しげにロングスカートをふりふり、一回転してポーズを決めてみたりと。

 ゆらぎはペイズリー柄のロングワンピがとても気に入っている様ではあるが、真玄としては気になる点がある。

 そもそもの話。


「ところでさ、何でいきなり服を?」


「え? だって男の子ってペイズリーが好きなんでしょ? この前も昨日も男子だけで話してたの見たよ??」


「ペイズリーを男が好き……? この前も昨日も男だけで話してた? え? 服装の柄の話題なんてあったっけ…………??」


「聞いてる筈だよ? だってその場に安井くんと一緒に氷里くんも居たじゃん、苦笑してたけど……」


「うーん??」


 暫く頭を捻っていた真玄であったが、小さく「ぁ」と呟いた。

 思い当たる事が一つ、それは。


(それペイズリーじゃなくてパイズリだよゆらぎ!?)


 そう、男子達がしていたのはただの猥談、男子高校生のあるある、パイズリって気持ちいいのかというくだらない議論。

 それをペイズリー柄のことだと勘違いしたのは、実にゆらぎらしい話ではあるが。


(…………流石に言えないよなぁ、こんなに楽しそうにして服まで買ってるのに)


「ちらっ、……ちらちらちらっ? んー? 何か言うことある??」


「言うこと……?」


 もじもじと揺れながら期待した目をする彼女に、彼は、ああ、と頷いた。


「よく似合ってる、可愛いよゆらぎ」


「もーっ、照れずにさらっと言うんですから氷里くんってホント……まぁいいです、それで……嬉しい? 私のペイズリー柄のワンピース姿見れて嬉しいでしょ、眼福眼福、流石はゆらぎだって誉めてくれていいんですよーーっ?」


「ゆらぎの素敵な姿を見せてくれるのは嬉しいけど、なんで見せてくれるのかい? 今日は僕の誕生日とか何かの記念日でもないだろう??」


 真玄にとって、それが最大の疑問であった。

 ゆらぎは、そういえば言ってなかったと少し慌てて。


「えー、こほんっ! まぁ私としましてもね? 普段から氷里くんのお世話になりっぱなしになってる自覚はありまして……」


「なるほど」


「それでですね、私なんかでも氷里くんの目を楽しませられたらなーって、えへへっ、うわーっ、照れる、照れますよこれっ!」


「はははっ、ありがとうゆらぎ。僕の為にかわいい姿を見せてくれてさ」


「ううっ、そうストレートに言われるとますます照れるうううううううううっ!!」


 耳まで顔を真っ赤にし、両手で覆い隠してしゃがんでしまったゆらぎであったが。

 その姿を見て、氷里はふと気づいた。

 もしかして、もしかすると。


(………………あ、あれっ?? ゆらぎって僕のこと、異性として見てる?? 本人が気づいているかはともかく、これ、僕のこと好きな男って見てるよね?? どう見ても僕のこと好きだよねええええええええええええええええええええええええ!?)


 その結論に至った瞬間、真玄の顔が真っ青になり冷や汗あぶら汗がダラダラダラと。

 全身の毛穴という毛穴がぶわっと開いたような感覚、震えが止まらない。


(死の足音が聞こえるよ……死ぬ、このままだと恋人になったゆらぎに殺されるんだああああああああああああああああああああああ!!!)


 真玄は遂に、がちがちと歯を鳴らしながらガタガタを震え始めたのであった。


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