第14話「カーテンの裏で」



「――――ゆらぎ、授業の時間だ先生は僕。取りあえずどこまで知ってるか知りたいからちゃんと答えて」


「は、はい? 何が始まるの氷里くん!?」


「真実を語ろう……、アレは水風船だけど水風船じゃないんだ!!」


「えっ!? じゃあチャンバラ用でもないってコトぉ!?」


「そうだ、そして…………絶対に穴を開けちゃいけない物でもある、そう! 絶対にだ!!」


「なんとッッッ!?」


 目を丸くするゆらぎに、真玄はどうやって水風船がコンドームだと伝えようかと必死になって考えていた。

 ストレートに言えば理解してくれる可能性が高いが、しかし穴を開けるなんて暴挙を二度とさせてはならない。


(――――やるしか、ないのかッッッ!!!)


 彼女は彼のことを性別を越えた親友だと思っている、だが、その先に待っているのは真玄の死だ。

 ならば、少しづつ崩していかなければならないのかもしれない。

 男と女は親友になれない、そして、女にとって男は危険なモンスターでもある事を。


「ちょっと来て」


「あのー、氷里くん? ちょーっと目が怖いんだけど……? それから肩を掴んでる手を離して欲しいかなー…………って!? え? カーテンの裏で秘密の話??」


「――――ゆらぎ、君が嫌と言っても僕は止めないからな、それぐらいの覚悟を以て教えるつもりだ」


「なんかすっごい嫌な予感するんですけど!? 氷里くんマジで何する気ッッッ!?」


 戦慄するゆらぎであったが、既に教室のカーテンの裏に連れ込まれている。

 クラスメイト達は、二人の姿がシルエットで映り一層興味津々だ。

 真玄はそれに気づいていたが、使命感に突き動かされて教育を決行。

 ――彼は自分が間違った決断を下した事に気づかず、彼女の肩を掴んでいた右手を下に滑らせて。


「………………ぇ?」


「ふむふむ、なるほど……想像以上に柔らかいな」


「え、えっ!? うぅ、――ひゃん!? ぁ、っ、氷里くん!? な、ななななななんでぇ!? い、今すぐ――」


「――黙れ」


「ひぅっ!?」


 端正な顔からのギラギラと獣のような眼光、有無をいわさない強引な態度。

 まるで、少女マンガのヒーローがヒロインに執着や独占欲を見せるようなシーンに思えて。

 服の上からその巨乳を揉まれているのにも関わらず、彼女はきゅんとときめき青い瞳を潤ませた。


「そ、その……氷里くん、ここ、ここ、んっ、や、ぁ――、が、学校、だから……」


「俯かないで、顔を見せて」


「う゛ぅ~~~~」


「いい子だ、もう少しだから辛抱してよ」


 ゆらぎが羞恥心とときめきと急なアプローチに大混乱する中で、真玄の精神は至極冷静であった。

 目的は彼女を辱める事ではない、男は危険だと認識させる事、その第一段階であり。

 また、己の肉体を興奮させる為の行動で。


(んー……後もう少しで僕の僕がフルになるね)


「あ、あの……、ひょ、ひょうり、くん、何を――」


(よし、そろそろだ)


「――――………………~~~~ッッッ!?」


 その瞬間、ゆらぎは大声で悲鳴をあげそうになった。

 真玄がズボンのベルトを緩めたかと思うと、トランクスごと下げてフル真玄が天を突くようにお目見え。

 彼は彼女の額と額を合わせて、重みのある声色を出す。


「目を閉じるな、よく見ろ、そしてこれが――君が穴をあけた水風船」


「あう、あうあうあうあうあうあうぅ…………」


「分かるな? ここまでしたら分かるよな? 分からないとは言わせない」


「うぅ゛~~~~~~~~~~~」


 ゆらぎとしてはもう、羞恥心がどうのこうの言ってる場合ではない、ときめきなんて行方不明。

 真玄のフル真玄は先日も見た、見たがここまで明確な意志を以て見させられたのは初めてだ。

 フリーズ寸前の彼女を前に、彼は手早くコンドームを着用、すると。


「どうだ、見ただろう。破けた……これが意味する所も分かるな? 分かったら返事をして、しろ」


「は、はいぃっ」


「繰り返せ、コンドームで遊ぼうとしない、絶対に穴を開けない」


「こ、こここここここ、コンドームで遊びません!!! 絶対に穴を開けません!!! だからソレしまってえええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」


「――――ヨシッ!!」


 ああ、見事な性教育だった…………と真玄はトランクスとズボンを掃き直した後ゆらぎと共にカーテンから出る。

 すると何故か、女子達の目はギンギラギンに見開いて、男子達は彼を拝んでいる。

 然もあらん、逆光、カーテン、シルエット、真玄のフル真玄の誰もが憧れるマグナムっぷりが丸わかりだったのだ。

 ――もっとも、当人はさっぱり気づいていないが。


(ふぅ……一件落着だ、流石のゆらぎでもコンドームの事をばっちり理解しただろうし)


 やり遂げた男の顔で着席する真玄、その右隣に彼女も座る。

 そしてペンケースの中から十五センチ定規を取り出し、何かと比べて定規の長さが足りないと赤い顔。

 ゆらぎの行動を見ていた女子の一人が、そっと三十センチ定規を手渡し。


「…………待て待て待てッッッ!? 何してんのゆらぎっ!?」


「ひゃうっ!? 見てたの氷里くん!? 違うの! こ、これは違くてっ、ちょっと私に入るかどうかみたいな??」


 赤い顔で半泣き半笑いという器用な表情で、必死に誤魔化そうとする銀髪巨乳美少女の姿に。

 真玄は努めて冷静に、そして出来る限り爽やかに言った。


「まあ僕は気にしないけどさ、ゆらぎは魅力的な女の子なんだから。あんまりはしたない事はしない方がいいよ?」


「は、はぃ……」


「それから、僕と君とは親友なんだし。セックスする事なんて未来永劫ないんだから気にするだけ無駄ってもんさ、はははっ!」


「…………………………」


 パーフェクトコミニュケーションだと真玄が安心した瞬間であった。


「氷里くん、さいてー」「それはないわ」「委員長ってサドねぇ」「期待持たせてぶった切る、残酷よ……」


「真玄クンさぁ」「氷里、それはない」「流石氷里だぜ!! 色々とスゲェや!」「もうちょっと手心を……」


「えっ!? 何その反応!? 僕が悪い――っ、痛ァ!? な、なんで脛を蹴るのゆらぎ!? わかった、わかった僕が悪かったから!!」


 その後、優しくするからと指切りげんまん、と言うまでゆらぎに脛を蹴られ続けた真玄であった。


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