第12話「真玄コーデ」
「ゆらぎ……君がなんと言おうと僕はTシャツパンツ一丁を止めさせるぞ、それだけじゃない――――君のコーデは僕が決める、絶対に今のように薄着で居させない!!」
「それってつまり……氷里くんの好みに染め上げられちゃうってコトぉ!? え゛ー……?? 大丈夫? 変な格好選ばない? 氷里くんって女の子の格好分かるの??」
「…………確かに」
原作の氷里真玄はヤリチンで女慣れした人物であり、当然、女性の服装の知識も十二分にあったのだが。
一方で転生者の真玄は、前世ではモテないエロゲーマーおっさんだった事もありファッションセンスに自信なんてない。
だが、やらねばならぬ、ここで折れれば待つのは死のみ、だから。
「今から君の方に行こう、異論は認めないそこで服を選ぶからね」
「うぇっ!? 待って待って!? 氷里くんが来るなら掃除するから! ちょっと五分! いや三十分は待って!!」
「焦るほどかい? 寝る時間以外の殆どをこっちに居るんだし、そこまで散らかってないだろう?」
「ちょっ、あーーっ!? いきなり凸しないで!? って、そうだ鍵! 当然鍵は私が持ってますもんねぇ~~、氷里くんは入れませーん!!」
「あ、君んチのご両親から鍵預かってるから」
「おとーちゃん!? おかーちゃん!? なにしてんのおおおおおおおおおおおおお!?」
という事で、隣のゆらぎの部屋にやってきたのだが。
「流石に間取りは同じか隣だもんな、というか綺麗にしてるじゃん、洗濯もちゃんとしてるみたいだし、そんなに嫌がるほどかなぁ……」
「って言いながらジロジロ見ないの!! 今すぐ目を閉じろぉ!! 洗濯物を部屋干ししたまんまだから嫌だったのにいいいいいい!!」
「むしろ好都合でしょ、ほらその洗濯物も渡してよ。クローゼットも見るからね。はい下着を隠さない」
「嘘でしょ!? これからはちゃんとスカート履くし、Tシャツの上にパーカーとか着とくからあああああああああ!!」
「ふっふっふっ、問答無用!」
真玄はTシャツやパンツやブラ、制服のYシャツ以外の全てを奪い取る。
ゆらぎは彼の腰にしがみついて妨害するも、彼はそのまま強引に彼女の寝室へ。
中にはいると、躊躇なくカラーボックスやクローゼットの中を物色し。
「変態! 氷里くんの変態!! ばーかばーかばーか!! 絶交しちゃいますよ!!」
「んー? ちょっとこのパンツとブラ、Tシャツの上から当ててみて、当てろ、さもないと……」
「くっ、卑怯者ぉ……ううっ、なんかすっごく変態っぽいよぉ~~っ」
「僕は今すごく真面目にやってるんだ、茶化さないでくれるかい?」
「う゛う゛~~ッッッ」
ゆらぎは半泣きになりながら真玄を睨みつけた、とても不埒で不道徳で何かが汚されている気すらしたからだ。
しかし、整った美貌の持ち主である彼の真剣な表情、彼女の為を思って行動しているという事実は妙に心を弾ませて。
首筋をうっすら赤くしながら、彼女は自分が濡れた吐息を出していることに気づかず。
(流石に僕も鬼じゃないから、スカート履いてればぶかぶかTシャツでも許容するけど……。それでも柄とか色が浮き出ないようなのがいいよね)
(見られちゃってる、私の下着全て見られてるううううううううううう!! やめて! そんな見比べないで!!)
(はー、へー、ほー、パンツは想像通りだけどブラジャーって案外分厚いんだなぁ……しかも思ったより堅いというか仕方ないんだろうけど、これは窮屈なんだろうなぁ、うーん、ならなるべく楽そうなのを……、ないなぁ、僕が買うべきなのかな??)
(なんでそんな難しい顔……、しかも違うって感じでどれも置いてるし)
この調子だと、シャツやスカート、ズボンなどなど。
下着から脱出するのが長くなりそうだと、どちらもそう感じた瞬間であった。
真玄が手に取ったブラとパンツは、どちらも布面積が少ないどころか紐と呼ぶべき案配で。
「――――ッッッ!? こ、これは!! 伝説のヒモ下着上下セット!! ごめん、もしかして万が一の為の勝負下着だった!?」
「うおおおおおおおっ!? あ、謝るんじゃありません!! 違う、違うからぁ!! 上下が何枚かセット売りしてるの下着屋さんのサイトポチったら一緒にあっただけだから!! 他のは普通に可愛かったの!! 返せ! 返してもらうううううううう!!!」
「あ、うん、すまない……」
(ああん、もーーーー!! すっごい見てるううううううううっ)
ゆらぎはヒモ下着を取り返し、隠すように両手の中にしまったが。
痛い、真玄からの視線が痛いほど突き刺さっている気がする。
もしかして、もしかすると。
「ね、ねぇ……氷里くんって……、こーゆーのが好きなんでしょ?(って、なんでそんなコト聞いてんの私ぃ!!)」
「僕としてはフリル付きのレースでシースルー……ゴホンゴホンッッッ!! ん゛ん゛っ!! なんでもない、うん、なんでもないから!!」
「そ、そうだよね! なんでもないよね!! このヒモのやつもレースのシースルーもさっ、気が向いたら着てあげて…………って冗談冗談、さっ、流石にねっ! …………ね? 忘れて、今の、忘れて、忘れろ、ね? ね?? お互いに忘れよ??」
「おうとも! なになかった!!」
真玄は己が耳まで真っ赤になっているのを不思議に思いながら、全力で肯定した。
何もなかった、まるで彼のリクエストがあれば紐やレースのシースルーの下着をつけて見せてくれそうな雰囲気であったが何もなかったのだ。
これ以上この場に居ると、何かがおかしくなると彼は彼女に背を向けて。
「ごめん、帰るよ。散らかしておいてなんだけど、片づけておいて」
「う、うん、気にしないで、私もちょっと氷里くんに甘えすぎてたから」
「スカートかズボンを履いて、上を一枚でも羽織ってくれれば何も言わないから、うん、せめてそうして欲しい」
「ん、わかった……その、晩ご飯作って持って行くから、今日はちょっと遅くなるかもだけど待っててね」
「………………わかった、ありがとう」
そう言って真玄が立ち去るのを、ゆらぎは熱に浮かされたような顔で見つめ。
レースのシースルーの下着を買おうと、その行為の意味は分からずとも決意したのであった。
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