第11話「Tシャツパンいち禁止令」



 原作『破姦~快楽ニクルイ壊サレテイク少女タチ~』について、真玄は致命的なコトに気づいてしまった。

 それは、作中で日付が明確に出てこなかった事だ。

 何日後、何曜日、そういう表記は度々見られたが、曖昧に高二という情報だけで。


(つまり、…………僕は原作がいつ終わったか分からないッッッ!!)


 始まりはきっと、ゆらぎがメインヒロインだと認識した時だ。

 しかし、終わりが分からないという事はいつまでも気が抜けないという事で。

 最低でも高校二年生が終わるまでは、と思うのだが。


(――――おかしい、どうして、どうして…………)


 今日も今日とて、学校から帰宅したらゆらぎが薄着で真玄のベッドの上でゲームをしている。

 そう、薄着、薄着なのだ、先日あれだけ説教したのに彼女はTシャツにパンいちというラフすぎる姿。

 先日のような事件を起こさない為にも、何らかの対策が必要で。


(終わりが見えない戦い……ふとした拍子で死亡フラグが顔を覗かせる現在、変えられるのは僕だけだッッッ!! まずはレッツ! ファッションチェック!!)


 まずはTシャツだ、前まではぶかTであったが説教から数日経った今では。


(なんで普通のTシャツになってんだよおおおおおおおおおおおおおおおおお!! 昨日も気づいてたけどさぁ!! 二日連続だと偶然だってスルーできないよ!!)


 そう、これが危機感の原因だ。

 ゆらぎの薄着が以前より悪化している、それまではギリギリ全年齢ラブコメの範疇であったが。

 今では、エロ漫画のヒロインそのものだ。


(そりゃあ原作だと家の中では奴隷扱いで裸より卑猥な衣装を着せられてたけどさぁ!! 普通サイズだからTシャツのネコのプリントが巨乳で伸びてるんだよ!! 巨乳だから裾が上がって乳カーテン状態だし!! お腹見えてるし!! ならパンツ丸見えだしデカケツだからもうAVとかIVの撮影時の状態なんだよおおおおおおおおおおお!!)


 もはや股間に極悪だ、最悪と言っていい。

 仮に恋愛感情がゼロどころかマイナスだとしても、ルパンダイブで襲いかかるレベル。

 この状況で手を出してない真玄は、自分自身を誉めた。


(流石は僕だ……これこそが優等生! そう、僕は優等生という自覚があるからこそ戦えている!! いやまぁこんなエロゲ世界だから相対的に僕が優等生やれてるってのと、この主人公ボディと頭脳がハイスペックってのが大きいのはともかく、エライぞ僕!!)


 優等生はクラスメイトを襲わない、なるべくエロい目で見ない、例えバチクソえろい自撮りを送られてもシコらない覚悟がある。

 だから、今回も乗り越えられる、乗り越えてみせる。

 ノーブラ巨乳(エロゲ基準)だから普通のTシャツを着ると胸の形が丸わかりどころか通常よりエロく見えても真玄の真玄をご立派にさせずに話せる筈だと真玄は奮起した。


「――ねぇ、ちょっと話があるんだゆらぎ」


「ほいほい何じゃらほい、セーブするからちょい待って~~っ」


「率直に聞くけどさ、前より薄着になってるよね?? あれだけ説教したのに態と薄着になってるよね?? ――正直に答えてくれないと、そのデカケツが腫れ上がって明日は椅子に座れないと思え」


「お尻ペンペン!? この歳でそんなことされるのやだーーっ!!」


「そうなる前に話そうね?」


 真玄の声色に本気を悟ったか、銀髪で巨乳で色白の美少女はゲームの電源を切ると体を起こしてベッドから降りる。

 そして、ベッド横の机の椅子に座っていた彼の目の前に正座をし。


「でも氷里くん、私なんかでも薄着な方が喜ぶんだよね男の子って? というか女の子にデカケツって酷くない? もっと大きい子がクラスの中にもいっぱいいるよ! 私は標準的な方!! 断固として抗議するーー!! デカケツ発言をーー、撤回しろーー!!」


「なるほど、明日は椅子に座れなくなりたいと。話は変わるけどさ、幼い頃って親にお尻百叩きとかされなかった? 僕はないけど君は?」


「実は一回だけ……、四歳頃だったかな? お留守番してた時にマッチで火遊びして危うく家を燃やしかけて…………じゃない! 話変わってないよ!? お尻ペンペンするき満々じゃないですかーー!?」


「言い残す事があるなら早めに言うんだね」


 じとーっと不満そうな目をする真玄に、ゆらぎはモジモジしながら視線を泳がせた。

 彼の指摘通り、実はわざと薄着になっていたのだ。

 あの時の説教で彼女もちゃんと服を着ようと思った、思ったのだが。


「えーー、そのですね、次の日にね? うっかりいつものままだったじゃん? そうすると氷里くんの反応が面白くてね?」


「二百回」


「増えた!? そ、それだけじゃないんですよ!! 氷里くんが誉めてくれるから、実はちょっとだけ自分に自信が持てたっていうか、それなら氷里くんも眼福だろうし少しぐらいサービスしてもっていうか!!」


「三百回」


「なんで!? ううっ、白状します白状しますよぅ!! 一緒にゲームする時、この服で密着するとあの時より氷里くんが興奮するかもって思うと! あの時の氷里くんの視線、どきどきしたから……、その、ね??」


「………………僕の負けだッッッ!!」


「え? あ、それからですね。最近、氷里くんと話したり一緒に居たりするとですね、たまーにドキってする時があるんですけど……これって何か分かります? やっぱ薄着すぎて自律神経おかしくなってる感じです??」


「僕の負けッッッ!! 負けだからそれ以上口を開くなあああああああああああ!!!」


 真玄は思わず椅子から立ち上がって、よろよろと四つん這いもとい失意体前屈をした。

 目覚めている、変な方向に、風が吹いている、バッドエンドの旗が風で靡いている幻覚すら見える。


(露出に目覚めかけてるじゃんかああああああああああああああああああ!! 僕の所為!? うううっ、どうして、どうして手を出してないのにッッッ、ゆらぎが変態化しかけてるんだ!!)


 ここに護士木継奈や安井素丸が居たら、ゆらぎが恋心に気付き始めたと喜んだところであったが。

 生憎と不在で気づけない、ゆらぎ自身もまだ真玄のことは性別を越えた親友で、真玄は異性として見られているとは一ミリ足りとも考えておらず。

 ならば、真玄としては死の気配に怯えるしかない。


(――――はぁ、はぁ、はぁ、死ぬ、このままだと死んでしまう、一刻も早くゆらぎを更正させなきゃ)


 だから。


「今から僕の家では夏場以外でTシャツでパンツ一丁を禁止する!! 破ったらお尻ペンペン百叩きだ!!!」


「うおおおおおおッッッ!? それはそう!! でも反対!! ぶーぶー!! リラックスした服で過ごさせろおおおおおおおおお!!」


 ここに、負けられない戦いが始まったのだった。


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