第7話「中田氏」



 そして数日後である、ゆらぎの激甘えん坊モードもその日限りで終わり普通の日常が戻っていた。

 真玄が危機を覚えるような事件もなく、彼はこのまま何事もなく時が過ぎるのではと淡い期待をしていたが。

 昼休みの事である、今日は学食に行き二人は継奈、素丸と共にウドン定食を食べていたが。


「あ、そーだそーだ。私みんなにちょっと聞きたい事があったんだ」


「何々? 分からない事があるならウチと氷里くんに聞けば何でも一発よ?」


「ヒドッ、俺は!? ナチュラルに俺をハブるなよ!! でもそれはそう、俺に聞くより護士木か真玄が早いし正しいぜ」


「それで? 聞きたい事ってなんだいゆらぎ」


「昨日さ、ネトゲやってる時にチャットで話してたんだけど…………中田氏って何だと思う? その時に会話参加してた人たちはみんな爆笑してたんだけど……」


「おっと??」「ブホッ!!」「――ごほっ、ごほごほごほ」


 真玄は優等生の矜持で吹き出さなかったが、他の二人は耐えられなかった。

 三人は咄嗟にアイコンタクトで、誰かが答えろと責任の押しつけあい。

 ゆらぎはそれに気づくことなく、更に――。


「それから、この前のヌカズニサンパツも何だったかなーって」


「…………ウチはパス、頼んだ氷里くん」「俺もパスー!」


「君たちさぁ……」


「中田氏とヌカズニサンパツって何? もしかして……そんなに不味い言葉だったの!?」


「うーん、何て言ったらいいかな、とても説明が難しいんだけど……」


「――――ならば!! このアタシが教えてあげまっ、しょう!! この伯田九高校一番の美! 美! 美! 美少女にして童貞食いのマエストロ!! 猥談エロ本実体験、えっちな事なお任せあれ!! みんなの華麗なる先輩…………天野朱鷺あまの・ときがやってきたからにはどんな悩みも解決よ!!」


 突然割り込んできた、黒髪ロングで巨乳のぱっと見は清楚な和風美少女、天野朱鷺あまの・ときの登場で学食は一瞬で静まりかえった。

 直後。


「うあああああっ天野が出たぞおおおおお!!」「童貞と童貞の恋人持ちは逃げろッッッ、童貞を奪われるぞおおおおお!!」「女子も逃げるのよッ、誘われてビッチになってしまうわ!!」「童貞ッッッ、生け贄の要因のモテない童貞はまだか!!」「ダメだっ、こないだ尽きちまったよ!!」「待避ーーっ!  全員待避ーー! ヤツは童貞が好物ってだけで性別年齢なく食われるぞおおおおおおお!!」


 学食から誰もが逃げていく、その中で真玄達四人は取り残されて。


「な、なぁ、俺らも逃げるべきじゃね?」


「ダメよ素丸、ウチらは既に射程圏内に入っているッッッ、迂闊な行動をした食われる!!」


「流石は天野先輩、学食が見事な阿鼻叫喚…………って、あれ? となると私が聞いた単語って…………??」


 怯える継奈と素丸、あわわわと赤い顔をし始めるゆらぎ。

 そして真玄と言えば。


(ああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!! なんで気が付かなかったんだよ!! 天野朱鷺!! 『破姦~快楽ニクルイ壊サレテイク少女タチ~』と同じブランドの前作『清楚ビッチ童貞踊り喰い校内ワクワク大乱交パーティ』の主人公じゃないか!! なんで気づかなかったっていうか世界観混じってんのさああああああああああああああああああああ!!)


 陵辱エロゲとバカエロ抜きゲー、同じ会社の制作ではあるがどうして混じっているのか。

 こんなのもう、未来がどうなるか予測不可能。

 否、むしろ。


(――悪化してるかもしれない、バカエロの影響でゆらぎが変態化しやすくなり……結果として僕のデッドエンドの運命が強まっている可能性があるッッッ、クソッ、どうしてこうなってるんだ!!)


 とはいえ、不幸中の幸いが一つだけある。


(優等生として他の生徒の模範になるよう努めていてよかった……お陰で僕は去年、先生達から天野先輩の大乱交計画を止めることが出来ていた――、無意識に原作改変をしていたんだ!!)


 そのお陰で、隠れビッチであった天野朱鷺が校内随一の危険ビッチとして全生徒に認識されてしまったが些細なことだ。

 肝心なことは、運命を、原作のシナリオを変えられるという事実。

 ならば、やはり雪城ゆらぎと恋人に、肉体関係にならなければ死の未来を変えられるという事で。


(僕は間違っていなかった……――それはそれとして、今は朱鷺先輩の対処か)


 原作真玄とは違い、単に童貞とセックスする事しか考えていない朱鷺はある意味安全ではあるが。

 それはそれとして、ゆらぎに悪影響なのは確かだ。

 動揺が収まった彼が、朱鷺からゆらぎを引き離そうと思ったとき。


「――――あ」


「…………でね? って事で、んでもってぇ……」


「っ!? ~~~~っっっ!! もおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! わ、私はそんなつもりで、う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛ッッッ」


(しまった手遅れだ!? もう言葉の意味を教えてる!? くっ、これ以上朱鷺先輩をゆらぎの側に置いておけない)


「そうそう、実はアタシ盗み見して知ってるんだけど…………、あの優等生クンのチンコ、激ヤバよ、処女が自分から性奴隷にしてって懇願するぐらいヤバイ代物よ…………、アンタ、イイ体してるし、優等生といえど男だから…………」


「何を言ってるんですか朱鷺先輩!! ほら! ゆらぎ、朱鷺先輩から離れ――」


「ひっ、ち、近づかないで氷里くんっ!! もしや優等生を演じて私をエロ同人みたいにする気だったんでしょ!! エロ同人みたいに!! ――えっちな事はせめて結婚してからにして欲しいっていうか、氷里くんがどうしてもって言うなら吝かじゃないけど、心の準備が――――」


「おおーーいっ!? どうしてそんな結論に!? 正気に戻ってよゆらぎ!?」


 やはり天野朱鷺は悪影響であったかと、真玄はデッドエンドの気配に怯えたのであった。


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