第6話「ヌカズニサンパツ」
(教室に入ってからなーんか視線が痛いなぁ……なんで??)
己の発言がどれほどの危機を招いているか気づかず、真玄は己の席に座ってホームルームと授業に備えていた。
誰かと雑談しているのが常ではあるが、素丸と継奈は他のクラスメイト全員と何かを話し合っていて。
ゆらぎもその中に強制参加であるので、なおさら仲間外れ感が強い。
(僕もって言ったら強めに拒否られるんだもんな、けっこう傷つくよ??)
とはいえ、彼らが何を話しているかは何となく想像がつく。
(まーた懲りずに僕とゆらぎをくっつけようとしてるよね? いい加減に諦めてくれればいいのに……参加させられてるゆらぎも大変だ)
真玄の認識では、ゆらぎと、引いては女性と恋人や肉体関係にならないというのは生存の最低条件。
誰に何を、例えゆらぎ本人に告白されようときっぱり断るつもりだ。
一方でゆらぎは、鬼気迫った継奈に両肩を捕まれて。
「ゆらぎ、よく聞いて、アンタは氷里くんに恋人ができたらおめでとーとか暢気なコト言うつもりなんでしょうがね、よーく考えて…………もし氷里くんに恋人ができたらアンタは今みたいに一緒に居られないのよ?」
「え、そう? 氷里くんの恋人になれる子って身も心も素敵な女の子でしょ? なら私みたいな陰キャがちょっとぐらい側に居たって問題ないって」
「おバカっ、甘いっ、メープルシロップより甘い考えはおやめなさい、ゆらぎッッッ! イケメンで優等生で誰の告白も断って、女子と遊ぶときは必ず他の男子と一緒と徹底してる氷里くんなら、恋人ができたら家に一歩も入れて貰えなくなるのよ! それは…………アンタが氷里くんと二度と一緒にゲームをできないコトを意味する! それでいいの!!」
「――ッ!? そ、そんな!? ご飯作って貰って一緒にゲームして眠くなったらそのまま寝落ちしても怒られないし、朝優しく起こしてくれて髪を整えてくれる生活が壊れるって!?」
「ねぇ、ゆらぎ? なんでアンタ達それで付き合ってないワケ??」
自堕落な欲望に満ちた発言に、周囲は呆れ半分、残る半分は男色趣味とすら噂される真玄がそんなに気を許しているとはやはり両想いなのではと確信を深め。
ならば、放置すれば修羅場待った無しの現状を打破しようと志気を高める。
「――うん、うん、やっぱりそれで行こう。いくら氷里くんでもゆらぎがそう言ったなら流石に意識する筈だってウチも同意するよ」
「おおっ、氷里くんの恋人探しを阻止するアイディアがあるっていうのかい継奈マイベストフレンズ!!」
「ふっふっふーっ、これを言えば男はイチコロの筈! いい、ちゃんと覚えるんだよ。こしょこしょこしょ……」
「…………なるほど?? 意味は分からないけど、男の子ってこーゆーの好きだよねってワードなんだな継奈っち!!」
今の天国みたいな生活を続ける為にも、やってやんよと気合いたっぷりなゆらぎ。
遠目でそれを眺めている真玄は、声までは聞こえずとも不安を覚えて。
今からでも無理矢理介入すべきかと彼が立ち上がったその時だった、輪の中からゆらぎが出てきて。
「まっ、毎日ヌカズニサンパツしていいから捨てないで!!」
「…………んッ??」
「そーれヌカズニサンパツ! ヌカズニサンパツ! 正直意味分かってないけどヌカズニサンパツしてあげるから恋人作りはんたーい! その時間でもっと私を甘やかすべきだと思いまーす!!」
「お前等さあああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!」
でた、やられたと真玄は頭を抱えた。
ゆらぎの性的な無知さ、正確に言えば知識はあるけど頭の中で繋がらないというウブさに付け込んだ卑怯な攻撃。
ヌカズニサンパツ、つまり抜かずに三発で、普通の高校生男子だったら一も二もなく飛びつく男のロマン、それがゆらぎの様な距離感近めの銀髪巨乳美少女だったら尚更で。
――真玄は怒ろうとした瞬間、とある事に気づいた。
(………………ま、さか、もしかしてッッッ!!)
抜かずに三発、聞き覚えのある言葉だ。
有名なエロワードという事ではない、このフレーズは。
(原作でゆらぎが教室内での輪姦前に言わされていた台詞ッ、つまり――)
真玄はごくりと唾を飲み込んだ、なんという事だろうか。
自分が女性と関係を持たなければ、ゆらぎとの間に何もなければデッドエンドに行かないと思っていた。
だが、今の状況こそがシナリオの修正力、世界がゆらぎを陵辱しろと言っているのではないか、いつの間にか輪姦フラグになっていて非常に危機的な状況なのではないか。
――シリアスな顔で黙り込んだ真玄に、ゆらぎ達は戸惑って。
「あ、あの……氷里くん? そんなに不味いコト言っちゃいました?」
「…………らなきゃ」
「え? なんて――――」
「――僕が守らなきゃ、僕がゆらぎを守らなきゃ誰が護るって言うんだッッッ!!」
「ふぇっ!? え? えええええっ!? ひょ、氷里くん!?」
「うおおおおおおおおっ、僕の側に居ろッ、居るんだゆらぎッッッ、離さない、絶対に君を離さないぞ!! そして君らは近寄るな!! ゆらぎに手出しするっていうなら――――僕は容赦しない!!」
「ひゃうっ!? あ、あのっ!? ひひひひ氷里くん? そんなぎゅって抱きしめるのは、い、いえ人前で……じゃなくて、うううううううううううううううっっっ」
いきなり叫んだと思えば、真玄はツカツカと大股で近づいて。
クラスメイト達から隠すように抱きしめたかと思えば、護ると宣言、しかも手を出すなと独占欲を露わにするような言葉まで。
これはもしかしてもしかするのでは、と恋愛には疎いゆらぎも思ってしまう。
――残念なことに、まったくの誤解であるのだが。
「いいかい、絶対に僕の側を離れるなよゆらぎ」
「わ、わかりましたから……み、耳元で言わないでくださいぃ」
「ダメだ今は僕以外を見るな、(僕の命が)危険すぎる、少なくとも(僕の命の為にも)ホームルームが始まるまでこのままだッッッ」
「う゛う゛、ばか、ばか、ずるっこ、そう言う意味で言ってない癖に、わかったから……何も、もう何も言わないで、誤解しちゃうから――――」
クラスメイト達は何を見せられているのだろうと首を傾げたが、ともあれ丸く収まったと胸をなで下ろし。
その後のゆらぎは、家に帰っても片時も離れず寝るときでさえも隣で。
真玄は、ちょっと距離が近すぎないかと不思議がったのであった。
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