第5話「学友達」



 市立伯田九はくだく高校、それが真玄達が通う高校の名前である。

 今まではエロゲ世界だし、こういう露骨かつテキトーな名称でも一般的なんだろうなと彼は思っていたが。

 メインヒロインと半同棲になっていたと気づいた現状、不吉すぎる名前に他ならない。


(――ゆらぎがメインヒロインだなんてって、ここ数日は学校では現実逃避気味だったけど……。そろそろちゃんと考えとかないとなぁ)


 真玄はゆらぎと共に登校しながら、遠い目をしながら周囲の同じく登校している生徒達を眺める。

 原作での伯田九はくだく高校は、陵辱エロゲに相応しい腐敗した高校であった。


(でも、その腐敗の原因が全て原作の僕って所が酷すぎる!! 何考えてんだ作ったヤツらは!! そりゃまあ、陵辱エロゲに転生する人間なんて考慮して作らないだろうけど!!)


 ゲームを進める中で、原作主人公が如何にして教師や生徒を悪の道に染まらせたのかを語っているシーンがあったのだ。

 だいたいにおいて、それが陵辱シーンの前振りであるのだから転生前の真玄にとって印象深く。


(いやね? ロープラで当然予算も少ないだろうしキャラが絞られるのも確かなんだけど。作中の悪を全部原作の僕のせいにするの、どうかと思うんだよ)


 それは良くも悪くも、氷里真玄が超ハイスペックという事で。

 その超スペックを悪行に使わず、普通の優等生として使っているのだから原作とは違い伯田九高校は健全な高校であるのが救いではあるが。

 とはいえ学校には、教室には原作ゆらぎのオマケで陵辱されていたサブヒロインと、原作真玄の舎弟をしていたネームドモブ男子が。


(僕は原作と違って何もしてないから、ウチのクラスは仲が良くてノリがいい感じになっているけど……。でも裏を返せば僕次第で原作みたいなクソの掃き溜めみたいになるって事で……)


 真玄は原作を思い出してゲンナリした、校内の男子は表面上普通であったが口を開けば性欲しか考えておらず。

 女子は陵辱の餌食となるか、誰かの情婦になるかの二択。

 原作真玄が原作ゆらぎに手を出してからは授業中でも公然と、教師まで加わって輪姦や性奴隷調教などが行われていた。


「――どんだけなんだよ……」


「ん? どしたん氷里くん? 難しい顔してるけど……話聞こか?」


「ああ、なんでもないよ。そうだね……ただちょっと、今の幸せを噛みしめていた……みたいな?」


「ほうほう、もしかして……私と一緒に登校できる事をが幸せとか? なーんちゃってっ!」


「(原作じゃあ登校中もエロいことされてたし、それに比べれば……)そんな所かな?」


「ふぇっ!? え、えっ!? 氷里くん!?」


「――あ、護士木えじき素丸そまるだ。おーい、おはよー!」


 ゆらぎが妙な誤解をしているのに気づかず、真玄は前を歩いていた二人に声をかけた。

 護士木、――護士木継奈えじき・つぐなは、ゆらぎの親友で原作ではサブヒロインのポニテ美少女として陵辱の餌食に、今はクラスメイト件女友達で。

 素丸、――安井素丸やすい・そまるは原作では舎弟だが、今の真玄にとっては親友と言えるぐらいには近しい友人で。


「よっすお二人さん、今日も夫婦で一緒に登校かぁ~~? 相変わらず仲がいいねぇ、結婚式には是非呼んでくれよ友人代表でスピーチしてやるからさ!」


「はよはよ~ん、この時間に登校すれば皆にあえるってウチの今日の朝占いは大当たりだったよっ! うりうり~、どうゆらぎ? 今朝もちゃーんと氷里くんに可愛がって貰ってるぅ??」


「もー、継奈つぐな安井やすいくんも何故に私たちをくっつけたがるのか、これが分からない」


「そうそう、親同士が仲良くて一緒のマンションの同じ階の隣の部屋でどっちも一人暮らししてるだけだから、付き合うとかそんなんじゃないよ」


 真玄の言葉は本心で、ゆらぎも似たようなものであったが。

 継奈つぐな素丸そまるを筆頭にクラスメイト達は、この鈍感カップルはいつ本当の恋人になるのだろうと応援していて。

 今までは放置できたが、ゆらぎとの関係がこれ以上進めばデッドエンドとなり得る訳で。


「(死亡フラグ回避の為にも偽物の)恋人でも作るかなぁ……」


「お? 氷里くん恋愛したい気分? 誰か紹介するかーい? 私の友達でよければ紹介するぜぇ?」


「ちょっ!? ちょっと氷里くん!? 何を言い出してんの!? それにゆらぎも何言ってんの! アンタは危機感持ちなさいよ!!」


「お、おい真玄?? お前どうしたんだ!? いつもなら僕は独身主義だからとか言うのに……しかも、雪城さん以外の女の子を求めてるよなニュアンス的に!?」


「なんで驚くのさ、ま、選択肢の一つってだけだよ」


 そう平然と言う真玄を前に、ゆらぎはチクリと痛んだ胸を不思議そうにして。

 慌てたのは、継奈と素丸の二人である。

 何せ二人から見てゆらぎは真玄にベタ惚れで、その上で彼女は情が重く深く、狂信的な一面を持っているを知っているので。


「(ど、どうするよ護士木!? もしマジで真玄に恋人ができたら……)」


「(ウチの予想ではワンチャン、氷里くんが死ぬ、グサーっと刺されて氷里くんが死んじゃうよぉ!? ゆらぎの親友として断言できるッッッ、あの子は一線越えたらどこまでも男を信じて尽くすけど……)」


「(つまり、真玄を無意識で伴侶扱いしてる雪城さんは、真玄に他に恋人ができたら無意識で裏切り者扱いして…………)」


「(そういう事になる可能性が高いってウチは思ってる、だから……何とかしないと!!)」


 何とかしなければならないと、真玄が気づかない所で真玄の命を駆けた戦いが始まったのだった。


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