第4話「小さなボールが何個もついた尻尾とは」



 真玄がゆらぎに、知らないと言おうとした瞬間であった。

 彼女は甘えた声を出しながら、上目遣いで彼の顔を覗きこんで。


「ねーねー、教えてよ氷里く~~ん。あの尻尾ってどうやって固定するの? あの数珠みたいなのどーやって使うの?? ベルトに挟むとしても微妙だし……、絶対知ってるよね? だってクラスの子は氷里くんに教えて貰えって、絶対に教えてもらえるからって言ってたよ?」


(お、おのれええええええええええッッッ、なんで僕に説明させようとしてんだアイツらあああああああああああああああああああ!!)


 クラスメイトからすれば、見てて面白い、もとい焦れったい仲の二人を応援しようという。

 面白半分、もとい善意の後押しであったが真玄が知るわけがなく。

 むしろ、背中を押されて崖から落ちそうになっている気分である。


(ど、どうするッッッ、これで知らないと言い張る手が使えなくなったっ!! 答えるしかない、だが……これで嘘を言ったら確実にクラス中に広まる、だとしたら待っている結末はなんだ? そう、死だ、デッドエンドに違いない!!)


 嘘をつかれたと恥をかいたゆらぎに、忘れた頃に殺される、はたまた嘘をつかれた事そのものを恨み殺されるか。

 どうやったら、より死亡率が下がる方向にいけるのか。


「ねーねー、おーしーえーてー、教えてってばー」


「おわっ!? 抱きついて揺らさないでよ!?」


「教えてくれないと、くすぐっちゃうぞ~~っ! それぇッ!!」


「ちょ、ちょおおおおおおッ!?」


 ゆらぎはどーんと言いながら真玄を押し倒し、擽ろうと服を脱がそうとしたり、勝ち誇り胸を張って巨乳が揺れしかも馬乗り。

 しかも、ぶかTにパンツという、だらしな日常無防備エロの権化のような格好を銀髪巨乳美少女がしているのだ。

 前世でエロゲ好きだが性欲が枯れ始めていた真玄でなければ、今世では恋愛しないと決めていた真玄でなければ耐えられなかったであろう。


「うりうり、うりうり~~っ!」


「ッッッ!? わかったッ、わかったから馬乗りになるんじゃない!!」


「ふっ、勝った第三部完!!」


「それ君が負けるフラグだけどいいの??」


 ツッコミつつ真玄は頭脳をフル回転せさた、彼女の無自覚な誘惑に負けるなんて絶対にあり得ない。

 そして嘘で誤魔化すことも、知らないと言い張ることもできない。

 ならば真実だ、性的なことに無知な彼女が完璧に理解できるように伝えるには。


「――――ちょっと待ってて、たぶんネットに適切な使用例の動画が転がってるから。探してる間にイヤホンを持ってきてよ」


「イヤホン? 私だけ見るんです?」


「うん、これは君の為を思っての措置だから受け入れてほしい」


「じゃあ取ってくる…………」


 彼女はとても不思議そうに瞬きしながら、隣の自室にイヤホンを取りに戻る。

 あの格好で家を出て距離が短いとはいえ廊下を通って来たのか、と真玄は頭を抱えたくなったが。

 今はとにかく動画だ、エロ動画の検索に専念しなければならない。


「――――ただいま~~っ」


「こっちもちょうど見つけた、URLをディスコードに送ったから見てくれ」


「はいはーい、どれどれ、皆が教えてくれなかったカレピにサービス用の謎シッポの秘密とは!!」


 ゆらぎは先ほど座っていた場所の側にあった自身のスマホを手に取り、イヤホンを準備すると動画を見始める。


(………………――――ッッッ!? っ、ぁ、~~~~~ッ!! も゛おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! どーりで皆ニヤニヤして教えてくれなかった訳だああああああああああああああああ、うわあああああああああんっ、えっちなヤツなんて聞いてないよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! …………こ、これっ、お尻の穴、壊れちゃわないのぉ!?)


 うわっ、えぇ? と驚きと困惑が口から漏れているのにすら気づかないまま、ゆらぎは食い入るように動画を見る。

 自分の耳まで真っ赤になっているのが分かる、こんな破廉恥なことを異性に聞いていたなんて恥ずかしいのにも程がある。

 だがクラスの女子達は、これがカレピにサービスする用だと言っており。


(も、もしかして、氷里くんも男の子なんだし、こーゆーのが好き……? いやいやまさか、どんな綺麗な子にもそういう目で見ない氷里くんが、で、でもっ)


 ごくり、ゆらぎは唾を飲み込んだ。

 氷里真玄という男の子に恩はあれど恋愛感情はないと自覚している、だが、恩があるから。

 もし、もしもだ。

 ――彼女はスマホを置き、イヤホンを外すと真っ赤な顔で視線をさまよわせながら。


「そ、そのですね……、もし氷里くんがどーしても、どーしても見たいって言って、現物を用意してくれるなら、いつもお世話になってますし…………一瞬だけ、ほんのちょっとだけ、このシッポをつけて見せてもいいかな~~…………なんて?」


「ッッッ!?」


 ヤバイ、これはデッドエンドの危機だと真玄は戦慄した。

 恐れていた事態が起きようとしている、このまま放置すればゆらぎの変態化からの彼の死があるかもしれない。

 軌道修正するなら今だ、彼は必死な顔で彼女の両肩を掴んで。


「きゃっ!? ひ、氷里くん!? 顔、顔近いんですけどぉ!?」


「ゆらぎ、聞いてくれ……そんな事なんてしなくていいんだ」


「だ、だから、そんな真剣で、熱のこもった目でぇ……」


「君は今のままで十二分に魅力的な女の子だ、綺麗な銀髪も、大きくも形のよい胸も、細い腰も、ああ、魅惑的な唇だって忘れちゃいけない、君はかわいいとセクシーの権化だ」


「う゛ぁ゛ッ!?」


「ゲームが得意で、上達しようと日々努力することができる。それはとても素晴らしい才能だと僕は思うんだ、それだけじゃない、君は誰かが落ち込んでいる時に黙って側にいる優しさと気遣いを持ち合わせている、誰かが喜んでいる時は一緒に喜べる純粋な心を持っていて――――」


「や、やめっ、もうやめろぉ!! 誉めるなっ、そんなに誉めるんじゃありません!! 氷里くんは自分がイケメンだってもう少し自覚しろぉ!! もおおおおおおおお、そんなに真っ直ぐ情熱的に見るなあああああああああああっ!!」


 どうしてこうなっているのか、ゆらぎは羞恥心で死にそうになっていた。

 誰かに誉められるの自体、くすぐったいというのに。

 氷里真玄は爽やか系のイケメン、そう、爽やか系のイケメンが情熱的に真剣な眼差しでベタ誉めしてくるなんて卑怯すぎる、乙女心に過剰な刺激しかない。

 ――つまりは、恥ずかしさの許容限度を越えたという事で。


「このっ! このこのこのっ!! 黙れもう黙れ!! 黙るまでずっとこうしてやるッ!!」


「うわっぷ!? なんでクッションで叩かれてるの??」


「だーまーれーーっ、今日の晩ご飯は私がカレーうどん作りますから出きるまでず~~っと黙ってるんじゃい!!」


(どういうコト?? ま、まぁ、例のシッポの話題は有耶無耶にできたと思えば、死亡フラグが遠のいたってコトで助かったってコトだけど…………)


 真玄はしばらくの間、顔を真っ赤にしたゆらぎにクッションでぺしぺし殴られていたのであった。


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