第60話

「テラスに行ってみよう!」


 葵鈴が、不意に僕の指に指を絡めながら言った。


 リビングから窓を通り抜けたところは、広いテラスになっていた。


 かすかに聞こえる波の音。優しく温かい夜風が全身を撫でる。


 海まですぐの場所には小さなランプが置いてあり、ベッドが四つ並んでいる。


 右二つのベッドでそれぞれ横になる。


 葵鈴がランプの灯りを消した。


 空には見たことがない数の星が瞬いていた。


「すごいでしょう?」


 星空に浮かんでいるようだった。


「そうだ……コレ。メリークリスマス」


 葵鈴が少し照れたように下を向き、小さな声で言った。


 そして赤いハイビスカスつけたタンポポ色の小さなカニの置物を、手のひらに乗せ僕に渡す。


「カニは幸福を呼ぶんだって……お兄ちゃんが幸せになりますように」


 さっき折紙で作ったのかな……こっちに来ないでね、なんて言いながらなんかしていたみたいだったけど。


 かわいらしい黄色いカニは、まるで葵鈴のようだった。


 でも僕とおんなじこと考えていたなんて……やっぱり兄妹だな。 

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