第61話

「メリークリスマス」


 僕もさっき見よう見まねで作った、ブルーカナールの色のカブトムシを、葵鈴の手にのせた。


「カブトムシ! 太陽神の使いだね! 再生と成長の象徴!」


 葵鈴が嬉しそうに言った。


「そうなの? さすが神様のこととか、詳しいね」


 偶然思いついて作ったカブトムシで、こんなに喜んでくれるとは思わなかった。


 作ってから一時間たって、もう動かなくなっていたけど。


「葵鈴、がんばる!」


 こんなに心も体も使ってくたくたになったのはいつぶりだろう。


 疲れてはいたけれど心地よいだるさが身体を包んでいく。


 誰かがタオルケットのようなものをかけてくれた。


 夢に落ちてゆく途中で、狼の遠吠えのようなものが聞こえた気がしたが、深い眠りに落ちて行った。


夢を、見ていた。


どこかで遠吠えが聞こえる。


薄暗いジャングルの中に入っていく僕。


見覚えのある場所……ハイビスカス畑だ。


そこには苦しそうにのたうち回る、怪物がいた。


キャロットオレンジと漆黒のまだら模様の狼の頭。

丸太のような太く長い大蛇の身体。


背中にはシメジに似たアイボリーホワイトの無数のキノコ。


怪物が大蛇の身体をくねらせると、何本ものハイビスカスの木がなぎ倒された。


美しいベビーブルーのハイビスカスがばらばらと飛び散る。


苦し紛れか狼が大きく口を開け、火炎を吐く。


何本かのハイビスカスの木が、炎に包まれ倒れていく。


倒れたまま、それを悲しそうに見つめている狼。

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