第59話

 アルバム名はないアルバムなのだろうか?


 表はおじいさんがたくさんの薪をしょっていて、ちょっぴり二宮金次郎を思わせた。


 裏を見てみると、崩れた壁の右脇に、白い階段が空に向かって伸びている、不思議な写真だった。


 この階段の先には、いったい何があるのだろう? 


 作った人はなぜこのようなデザインにしたのだろう? 


 曲に関係があるのかもしれない。思わず引き込まれてしまうジャケットだった。


 今まで物か風景のデッサンしかしてこなかったけど、世の中にはいろんなデザインや表現方法が本当にたくさんあるんだよな、と改めて思った。


 この島には心を奪われてしまう色やデザインとの出会いがたくさんある。


 今までだって目にしてきたとは思うのだけど、ちゃんと見ていなかったのだろうか?


 見てはいたけど感じていなかったのだろうか? 


 心が動いていなかったのだろうか? 


 学びを与えてくれるのは、学校の先生や教科書だけじゃない。


 もしかして『自分に本当に大切なもの』って夢? ドリーム?


「おもろいデザインやろ? わいが大学の頃に、ある女性からプレゼントされたレコードなんや。ライブもごっつすごかったんやで」


 信介さんが優しい眼差しで言った。


「信介さんにも、若い頃があったんですよね……」


 冗談っぽく言ってみた。


「アホ! これでもわい、昔は結構モテたんやで」


「おじいちゃんはずっとおじいちゃんだし、学校の先生は生まれたときからずっと先生のような気がしていました……」

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