第58話

「もうすっごく楽しくて、不思議で……」


 僕はなにから話したらいいのだろうと思った。


「もうすぐ鏡ちゃんや星羅ちゃんも帰ってくるからね」


 葵鈴がお茶を入れながら言った。


「みんなで一緒に住んでるの?」


「そう。楽しいよ。星羅ちゃんは本当のお姉ちゃんみたいだし、鏡ちゃんは本当の妹みたい。ずっと前から信介さんが、みんなのパパ代わりになってくれてたの」


 信介さんが古いレコードを取り出して、小さく音楽をかけた。


 メランコリックなギターのイントロが流れてきた。


 買い物好きの女の人のことを歌っているみたいだ。


 信介さんがしまおうとしていたジャケットを見せてもらった。


 レコードなんて見るのも触るのも初めてだった。


 レコードのジャケットには曲名などの文字がどこにもなく、なんだか神秘的な雰囲気を醸し出していた。


「君の名は?」


 僕は心の中でレコードに問いかけた。


 

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