第57話

 静かな波の音が聞こえる。


 クレスクントビーチの端っこから伸びている、ウッドデッキを葵鈴と歩く。


 いつもは話し好きの葵鈴だが、イカ焼きツアーのあと、なにも話さない。


 葵鈴の目には八年前の温かい光景が、どのように映ったのだろうか。


 時々小さな魚が跳ねる音がする。


 ウッドデッキの左右には、かやぶき屋根の小屋が左右十件づつくらいあり、ところどころランプのオレンジ色の光がこぼれている。


 ウッドデッキの最終地点で葵鈴が止まる。


 そこにはひときわ大きな小屋があった。


 振り返って葵鈴が言う。


「私……お兄ちゃんと兄妹で、良かった」


 僕はなんと返していいか、わからなかった。


 葵鈴がドアを開けると、大きく放たれた向かいの窓から、さあっと潮風が走り抜けた。


 窓は二メートル×四メートルくらいの大きさで、広い海が見渡せる。入ってすぐの部屋は三十畳ほどの広々としたリビングで、木でできたテーブルやいすなどがある。


 壁の棚にはたくさんの本とレコード。


 右手はキッチンだ。


 左手に小さならせん階段があるので、二階もあるのだろうか。高い天井にはいくつものランプが、優しく部屋を照らしている。


 ウッドデッキの床はところどころガラス張りになっていて、床の下を魚が悠々と泳いでいるのが見えた。


「すごくステキな小屋だね」


 あっけにとられて僕は言った。


「コヤじゃなくてコテージね。水上コテージ。信介さん、ただいま」


「おかえり。フェスはおもろかったか?」


 リビングのソファで本を読んでいた信介さんが、立ち上がって出迎えてくれた。

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