第53話

 イカ焼きとおでんをそれぞれ二本づつ買った。


 僕も葵鈴も、右手にはイカ焼き、左手にはおでんを持つ。


 イカ焼きはイカの形そのままの、普通のイカ焼きだった。


 おでんは「ザ・おでん」といった感じのシロモノだ。


 上から順番に三角のこんにゃく・丸いがんもどき・横長の鳴門巻きが串に刺さっている。


 六つ子主演マンガに登場する、若ハゲ気味のちっちゃい少年がよく持っているおでんそっくりだ。


「ふう……やっと買えたね。どっちから食べる?」


「いやいやいやいや。食べる前にやることがあるでしょ」


「やっぱり……嗅いでみるの?」


「怖いの?」


「いやそんなことはないけど……。過去とか未来とかって、すごく漠然としてて……そうだ!戦国時代に行きた~い‼ 長曾我部元親に会いた~い‼」


「いろんなイミでずいぶん飛んだね、おぬし。自分が見たことある光景や場所にしか行けぬのだよ……。未来もこれから見る光景だけ」


「そうか残念だなあ……元親さま……。じゃあ自分が見たことある、どの時間に行けるのかな?」


「それは店員さんにもわかんないんだって。出たとこ勝負だって。でもとにかく過去も未来も、見ることしかできないみたい。歴史を変えたりすることはできないってことだね」


「過去に行ったあと、現在に戻るときは?」


「イカ焼きとおでんを一緒に嗅ぐと、現在に戻れるんだって。ただし冷めるとにおいがしなくなって使えなくなるから、においがするうちに帰ったほうがいいみたいね。どうしても冷めちゃったときは、どこかでこっそり電子レンジか火を使わせてもらうしかない」


「なんというアバウトな、トンデモ設定……」


「まあ、屋台のごはんだからね。最近の屋台は、ガパオご飯とかオムライスとか、結構凝ったものも出してくれるけどね」


「…………そういうもの?」


「じゃあ、冷めないうちに嗅いでみますか!」


「う、うん……」


 本当はにおいを嗅ぐのが怖かった。


 八年前のあの日にもしも行ってしまったら……。


 もう一度あの光景を目にしなければならないかもしれない。


 大好きな妹の苦しむ姿を。


 呆然とするばかりでなにもできなかった自分を。


 落胆する父を。


 悲痛な叫び声をあげる母を。 

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