第52話

「アイツ……ちゃんと話してみれば、意外にいいヤツだね」


 占いの館のドアをゆっくり閉じながら葵鈴が言った。


「葵鈴と鏡ちゃんのおかげだよ。でもいつか、友達になれたらいいなあ……」


「もう友達なんじゃないの?」


「そうかな? そうだといいなあ」


「お腹すいたなぁ……なにか少し食べて帰ろうか?」


「あっ! コレ‼」


 僕と葵鈴は同時に言葉を発し、列に並んだ。


「んーと、『香りをかぐと過去に行けるイカ焼き&未来へいけるおでん』だって‼」


「なんだそりゃ?」


「まあ……ラベンダーの香りで、過去や未来に行ける時代ですからね」


「それは小説や映画の話でしょ? ……スキだけど」


「まあまあお腹すいてるんだし、いいんでないの? 『自分に本当に大切なもの』が見つかるかもしれないし」


 列は二十人ほどできていた。


 上品なおばあさんがいるかと思えば、分厚い眼鏡をかけた大学生風の男性なども並んでいる。


 みんなお腹がすいているのか、時をかける人々になりたいのか……? 


 あれ? 


 いま信介さんの姿が見えた気がした。


 小さなランプを手に持ち、真っ暗な森の中に入ってゆく。


 夜の森は危険だから絶対に入ってはならないと言っていたのに……。


「いま、信介さんが森に入っていかなかった?」


「えっ? みまちがいでしょ? 夜の森は特に危ないんだよ」


「大丈夫かな……」

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