第45話


二日間限定の「ツリー」という名の貝の前に行くと、すでに百人以上の人が、集まっていた。


「それでは、島長の言葉です」


 信介さんが言い、真珠色に輝くマイクを葵鈴に渡した。


「エルピス島のみなさん、サルウスシス! 今日はこの島が見つかって百年目のお祭りです。例年クリスマスは身内の方と静かに過ごすのが島の慣習でしたが、今日は飲んで食べて踊って、存分に楽しんでください。メリークリスマス!」


 何人もの人たちを前にして堂々とした葵鈴の姿はかっこよく、我が妹とは思えなかった。


「じゃあ、鏡、いきま~す」


 下駄を履いた鏡が高く高く飛んだかと思うと、銀色のバケツの中に入った何かを「ツリー」のてっぺんからかけた。


 「ツリー」が眩いばかりの瑠璃色にキラキラ光りはじめる。刺激で青く光る夜光虫? 


 観客から大きな拍手が上がった。


 突然、背後で花火が何発か上がった。


 白や赤の花火がラベンダー色の空に輝く。


 そしてジャングルにいる鳥の声がしたかと思うと、いくつかの種類の太鼓の音が鳴り響いた。


 アフリカ音楽のような、サンバのようなリズム。髪をアップにし、白百合色の花飾りをつけた星羅さんが、流木でできたDJブースに立っている。


 鳥の声や川のせせらぎなどの自然音をトリミングして、サンプリングしているようだ。


 スタイリッシュだけど温かくて楽しい音楽。観客は笑顔で自由に、思い思いに踊っている。


 星羅さんが軽いロック調の「ジングルベル」をかぶせると、観客から大きな声援が上がった。


 DJブースの両脇には、ランプの光が優しく光っている。


 三つの三日月も輝いている。


葵鈴の肩の上のビートも地面に飛び降り、どこぞのプロダンサーのように踊り始めた。

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