第44話

「あ……危ないってばあ」


「ちゃんとつかまって!」


「落ちる~」


 森は危ないからと航志も載せて、ムリヤリ自転車三人乗りでクレスクントビーチに帰ってくると、空も海もビーチでさえも、キューピッドピンクに染まっていた。


 見れば葵鈴と航志の横顔もピンク色だ。


 雲がところどころライムライトの黄色やモーブの薄紫色に光り、息をのむほど美しい。


 一言でこの色と言えないような、複雑で美しい色の競演だった。


 波が静かに打ち寄せ、何本ものヤシの木のシルエットが墨色に浮かび上がる。


 三日月が三つ並んで光っている。


 自転車置き場に自転車を返して文房具屋に戻ると、信介さんがハッピー(もうこの表現が最も適格)を着た女の子と話していた。信介さんが言った。


「こちらは占い師の鏡(あきら)ちゃん。点灯式の点灯係りや」


「鏡です。よかったら後で占いの館に遊びに来てね」


「さっもうすぐ点灯式だよ」


 ワンピースの上から葵鈴がハッピー(もうこの表現しか考えられない)を羽織った。


 なぜか航志も信介さんからハッピー(もうこの表現が僕の世界標準)を受け取り、羽織った。


「じゃ、そろそろ……」


 信介さんが銀色のバケツを持って立ち上がった。


 中にはピンク色の何かが入っている。


 一体何に使うのだろうか?



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