第43話

 ヒイッ。


 航志が小さくヘンテコな呼吸をした。


「鈴木君はどうやってここにきたの?」


 僕は航志に聞いた。


「航志でいいよ。義理の父親に殴られて意識失って、気づいたらここにいた」


 クリスマスに、父親から気絶するほどのパンチのプレゼントとは……。


 航志の闇もなかなか深そうだ。


「一体何があったの?」


「実の母親に、お前なんて産むんじゃなかったって言われるの、結構こたえるのな。数回なら我慢できるけど、顔合わせるたんびに何度も何度も言われると、やる気も気力もなくなって、そのうちオレなんて本当にいないほうがいいんじゃないかって思うようになる。母親は、再婚相手の父親に、嫌われないようにすることばかり考えてる。いつもは気にならないようにしてたんだけど、その態度が今日はやけにムカついて母親を殴ったら、父親に思いっきり殴り返された」


「なかなか激しいクリスマスだね」


「そういえばクリスマスなんだよな……でもクリスマスなんて、ここ数年祝ったことあったかな? いつも母親から五百円玉渡されて、一人でコンビニで弁当買って、家で食うだけだよ」


 あれ? どこかで聞いたことある話だな……って僕か。


 クリスマスが辛いヤツは、こんなに身近にもいたんだな。


「親や義理の兄弟はみんな、クリスマスはレストランに食事しに行くんだ。オレはマナーが悪いから、連れていけないらしい。マナーなんて教えてもらったことないもんな。別にレストランなんか行きたくもないし」


「そうか……そう言えば航志は、島に何しに来たの?」


「……わからん」


「航志くんもお兄ちゃんと一緒で、『自分に本当に大切なもの』を見つけに来たんだと思う」


 航志の代わりに葵鈴が答えた。

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