第42話

「お前のパンチ、なかなか効いたよ。ってか、すごいな、お前」


 アゴをさすりながら航志が葵鈴に言った。


 なぜかいじめっ子といじめられっ子といじめられっ子の妹の三人で、ハイビスカス畑に寝転がっている。


 日がだいぶ傾いて、西の空がフレイムオレンジだ。三日月が三つ並んでいる。


「お前じゃなくて、ア・リ・ス・サ・マ!」


 葵鈴が小さなバッグから濡れたおてふきを出し、航志に渡しながら言った。


「ハイ……アリス様」


 航志が弱弱しくつぶやきながら、おてふきを素直に受け取った。


 葵鈴……、お前ホントにすごいな、いろんな意味で。僕も心の中で思った。


 おてふきでアゴを抑えている航志の身体が、小さく見える。


 というか、いつも小さくなって身体を守っていたからわからなかったけど、航志と並んでみると、僕とそれほど身長が変わらなかった。


 なんでだろう。航志の態度が、僕の恐怖心が、航志を大きく見せていただけなのか。


「オレも小学校のとき、いじめられてたんだよな。いじめっ子もいじめられっ子も、簡単に入れ替わったりするんだよな。ってか、今も実の母親にいじめられてる気がするけど」


 航志がポツリと言った。


「いじめればいじめるほど、あなたの心を蝕む。いじめただけで、舌を抜かれることもある」


 葵鈴が、例のドスの利いた声で呪文のようにつぶやいた。

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