第41話

「そんなんじゃ、プロなんて夢のまた夢」


 葵鈴は少しも息が乱れてないようだった。


 ハア……ハア……と、航志の荒い息使いだけが聞こえてくる。


「うがゃあああああああ!」


 突然航志が動いた。


 本気の目だ。


 本気で葵鈴を殺そうとしている。


 まずい。


 僕が航志に飛びつこうと思ったその時。


 葵鈴も人間離れしたスピードで動いた。


 パンチをよけながら航志の目の前でしゃがみ、大きく伸び上がりながら航志のあごにパンチを放った。


 一瞬、航志の大きな体が宙に浮き、よける間もなく僕の上に降ってきた。


「おにーちゃん、ゴメンナサイ」


 葵鈴が手で拝む格好をしながら、少し舌を出して言った。


 いじめっ子を倒したというより、いたずらが見つかった時の顔だった。


 倒れて伸びていた航志が小さくうめく。


 葵鈴が素早く航志に近づき、航志に跨った。


 そして航志の右頬近くの地面に、ドンと勢いよく右手をついた。


 少しだけ周りのハイビスカスの花が揺れた。


 葵鈴は航志のアゴを、左手でくいっと持ち上げて言った。


「覚えておきな。お兄ちゃん含め今度誰かをいじめたら、ホントに地獄行きだよ」


 ちょっぴりドスの利いた、良く響く声だった。


 我が妹ながらその横顔は気高く、美しかった。


 ちょっと怖いけど。


 航志は完全に伸びた。

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